バレンタイン・コットン

バレンタインデーの夜
夜遅く明日が迫っていても
街はカップルで朝までの時間 溢れ返る






「聖バレンタイン・デーに カンパーイ!!
 ほら 飲みなさいよ 今日はアンタの惚気を肴に 朝まで二人でパーティなんだから!
 こんな日にココへ立ち寄ったのが運の尽き 今日は店から返さないわよ!」

「勘弁してくれよ 牙子ママ 店が休みなら俺は帰るぜ」

「聞こえないわ!ところでアンタのマイハニーはどこいったのよ?一緒じゃないの?
 このバレンタインにまさか男を漁ってんじゃないでしょうね」

「マイハニーは カズといっしょに出かけたよ
 カズが友達のパーティに呼ばれてて ツレがいないと困るんだと
 あいつ最近ふられたらしくてな 仲尾はカズには弱いからな」

「ナニソレ! アンタこんな日にカズちゃんに 仁を持ってかれちゃったの?!
 どーゆうのソレ? いいのソレで? お構い無しなわけ?!
 仁のこと愛してないの?!」

「そういうあんたは こんな日に俺なんかと一緒に飲んでていいのか?
 いつもベタベタしてた可愛い彼氏はどうした」

「…アタシもカズちゃんと似たようなものよ」

「それは失礼した 無粋なことを聞いたな 申し訳ない」

「何よ ワザとのくせに あんたってホント嫌な男ね!
 それじゃあさ アンタ達のバレンタインは明日ってわけ?」

「明日は俺たちにも全国的にもバレンタインデーの次の日だな 普通の日だ」

「その日はどんな予定なのよ」

「俺は明日もバイトなんだ バーテンの」

「…はぁ?!明日もって?」

「今日は さっきまで店で仕事だったんだよ
 仲尾も客で入ってたんだが カズが呼びに来て じゃあなってわけだ」

「どっちもどっちってワケね もしかしてそのせいじゃないの?
 仁がカズちゃんと行っちゃったのって」

「別にバレンタインなんて何も特別じゃない 仲尾もそうさ
 もっとも女を相手にしてる時は 俺はそれなりにはやったけどな
 わりと楽しかったかな」

「仁はもっと精力的にやってたわよ
 そういう日は特に見返りに力が入る いい稼ぎ時だからね
 あの子の悪度さなんか 真似できるもんじゃなかったわ
 最低だったんだから」

「だろうな あいつは随分懐具合がいいみたいだからな 底なしだ
 南の島を所有してて 驚いたことがあるぜ」

「ああ あの変態弁護士から奪い盗ったヤツね
 あれは当時裏じゃ結構な噂だったわよ 何の秘密握ってたのかしらね
 それにしても結局アンタは どこに行っても誰に決めても ヒモなのねぇ」

「はははは」

「別に笑うとこじゃないけど
 ま アンタに何言っても無駄だわね 本当に幸せな男」

「あんたはこんな日に 一人きり飲んだくれて
 幸せ絶頂な俺を妬んで 当り散らすバレンタインデーなのか?」

「…アンタって昔からイヤミなことを 結構ズバズバいう嫌な男だわよね
 なんだってアンタみたいなのがモテたのか さっぱり不明だわ
 黒崎の配下の女はみんな趣味が悪いわよ」

「俺は別に特別もてちゃいなかったよ 不精な女好きだっただけさ」

「決めたわ!これから買い物につきあいなさい」

「今からか?」

「そうよ 夜はこれからでしょう アンタを連れて歩くのはちょっと悪くないわね」

「もうオッサンだぜ俺は」

「何を今更 アンタは昔から老けてたじゃないの」

「そりゃ酷いなママ」

「昔みたいにスーツでも着て隣にいれば まだ大した迫力はあるわよ
 アタシが仕立てのいいの買ったげるわ!
 ね それでアタシの街に繰り出しましょう!」

「牙子ママの隣に立つなら それなりのツバメを務めなけりゃ 
 アンタの評判を落とすな 大役だ」

「…は!本気でそう思ってるの?世捨て人のアンタでも
 まだ絹仕立ての高価な物が欲しい?」

「あんたが連れて歩く若い男は いつも服のセンスがいい ママの見立てだろ
 だが普段が合成繊維な 貧相で狡賢い小僧たちには
 アンタのような絹地の心地良さの 価値が分からなかったんだろうな」

「…アンタって本当に気障な男だわね
 で?ソレはお褒めと受け取って 今からこの年老いた醜いオカマに
 つきあってくれると思っても良いわけかしらね?」

「どうぞ?俺は思ってもいないことは言わない主義だ
 こんなオッサンつばめで良けりゃ 朝までつきあうぜ どうせ暇だ」

「捨てられたオカマを憐れに思ってつきあってくれるってワケ? お優しいこと」

「今まで散々貢いだボウヤから よりによってこんな日にフラれた
 バカな牙子ママのマニアックなテリトリーで遊ぶのも悪かないさ
 但し 酔っ払って俺にからむのだけは ご免だ
 可愛く上品にしているなら 何処でも腕くらいは組んでやってもいいぜ」

「それが意地悪だっていうのよ この詐欺師男」

「詐欺師は酷いな 俺はいつも本気で思うことを言ってるだけなのにな」

「本当の嘘つきは 自分の嘘も信じてるものなのよ いいわ…
 アタシは自覚のあるバカなジジカマなんだから アンタみたいな詐欺師で上等
 さあ 早速出かけるわよ! フフ…ちょっと楽しくなってきたじゃない?」

「牙子ママ さっきの台詞だけど 少々訂正だ」

「なぁに 今更キャンセルは無しよ 吉沢ちゃん」

「そうじゃない あんたを絹の心地だと言ったが 本当は木綿だ」

「…いいんじゃない?アタシは実はコットンの方が好きよ 庶民的でね」

「俺もさ 絹はお高くとまってる 木綿は気が許せる」

「フン 仁が飽きもせずに妬いてるのが 分かる気がするわね この浮気モノ」

「牙子ママとデートしても 俺は潔白を疑われるのか?」

「黙っておいてあげるから 腕 貸しなさい …今日だけよ」

「どうぞ お嬢さん 今日は牙子だけの腕だ」

「吉沢ちゃん アンタがあそこを出てったあの頃
 アンタを連れて歩くのは
 飾りみたいなものだったって
 うちの店の常連の女たちは よくそう言って シャンパンで乾杯してたわ」

「イミテーションのな 俺は彼女たちの添え物だったよ いつもな」

「ほんとに憎らしいくらい 口の端で笑うのが似合う男ねアンタって」

「すまんね クセなんだ」

「やだやだ アタシまでアンタのペースに呑まれそう」

「牙子ママを口説きゃしないから ご心配なく そこまで俺は酔狂じゃないぜ」

「本当に一言多いのよアンタ  やっぱり嫌な男で決定よっ」

「けっこう

 まずは何処の店へ行きましょうか ――マダム?」




準備中の札が架かった
牙子(キバコ)の店
カウンターには
突っ伏して飲んだくれた
牙子ママと素面の吉沢
END









〈あとがき〉
いつもセリフ劇場などで画像を使わせて頂いている
真琴さまから素敵なphoto
メールで頂戴致しました!!
感激!!可愛らしいけど粋?な牙子ママのこの話を真琴さまに捧げます♪
ありがとうございました。
やすみせりうFROM


頂き物photo/
真琴 さま
 (Arabian Light)
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