2012☆クリスマス★妄想ショート・ストーリィ
電タブシリーズ

10年後のクリスマス

※ご注意※
この物語は仮想の将来話であり電タブ本編とは一切関係はありません



場所:クリスマスの街角




……雪?

まさか雪が……降ってきたのか?

寒いはずだ。

いったいあと何時間、こんなクリスマスの街角でこの俺さまを待たせる気なんだろうか?


クリスマスに話があるというので、わざわざ超絶過密なスケジュールを調整して来てやったのだ。
こんな寒い街中での待ち合わせを指定してきた、気の利かない身の程にも合せてやった。

しかも話がある方が、先に来て待ってるのが普通じゃないだろうか?
信じられない。この俺を待たせるだって?

そんなことは面白すぎて、少し待ってみる気持ちが沸いてきた。
本来、仕事ならば遅れは一秒と待たない俺さまなのに。

最初10分を待って、さすがに腹が立って帰ってやろうと思っていた。
だからあと5分待ったら帰ると決めて、5分待ってもあいつは来なかった。


来ないだと?
まさか。
すっぽかすだと?
この俺を?


それは面白過ぎるので、この際、来るまで待ってやろうと決めた。
逆の発想の最強の嫌がらせだ。
遅くなるとのメールは無し。電話もかけてこない。
こっちからはもちろん、電話はしない。
待つことに決めて、長期戦になるのなら話し相手が必要だ。

そう腹を据えたので、番犬にすぐ来いとメールした。
唇が紫がかってきて噛みしめたはずの奥歯がカチカチと鳴る。
こともあろうにおれの用心棒は、今恋人とよろしくやってる最中だから行けないと返信してきた。
メールを打つヒマがあるのだから実はヨロシクのはずはない。またメールした。

『それでも俺の用心棒か!? クビにするぞ!』
返信
『したいならしろ』

『俺はこのクソ寒いのにさらに寒い口説き文句で誘ってくる変な野郎どもに
 何回もナンパされかかってんだぞ! ボケ! 追い払いに来い!』
返信
『ボケはお前だ。一人で行くなと止めたのに目を離した隙に勝手に行くからだ』

『てめぇ、分かってたなら追いかけて来いよ!』
返信
『初めから俺に来るなと言っただろう。だったらお邪魔かなと思ってな』

舌打ちをする。無駄に嫌なヤツ。
絶対、薄笑ってメールを打ってるはずだ。
マジ、ムカつく。アホらしい。
最中にどんだけメールを返してくるんだ、あのバカ犬は。

こんなとこでメールをやってたら、ますますこのクリスマス相手に振られて
必死で他の代打探ししてるみたいに見られるじゃんか、絶対。
だから変な男どもが声をかけてくるのか? まさか同情されてる?
クリスマスに世界一可哀想な男だと思われてるのか?

どいういうこと、これ?

世界一幸福な俺が、どうしてそんなことに?
ありえないんだけど。
すべてあいつのせいなんだけど。
知ってる人間に見られて正体がバレないようにしないと……。
深めにフードを被ってて良かった。
ナンパ野郎も、誰も気が付いてない感じだった。
やっぱ有名人は、外では用心しないとな。

だいたい本当に番犬のヤツ、よろしくやってんのか?
近くのカフェで、俺が惨めに立ってる姿をニヤニヤ眺めてんじゃないだろな?
それともまさか本当にヤリながら、片手でメール打ってんのか?

そうかも。
そういうキャラだからな。本当にそうなのかもしれない。
番犬は、ガキの頃から全然変わってない。

10年経っても、感情面はバカなままだし、無表情で、感情は読めない。
乱暴さと顏の怖さは、昔よりパワーアップした気がする。
番犬はずっと俺の用心棒のままだ。
どんな時も俺を守る仕事で生きている。相変わらず。
雇い主はバカラから俺本人に代わったのに、態度を改めないとこが番犬だ。
犬は大人になっても、大人のルールを知らないらしい。
犬だからしょうがないけど。

たまにデートだと言っていなくなるけど、それでも屈強なボディガードだ。
居なくなる時は、こっそり俺の身体にGPSをつけてるらしい。
または自分の部下に俺を尾行させてるようだけど。
建前上の役職をつけてやったのが間違いだったかも。
番犬のくせに人間を使うとは生意気な。マジ腹立たしいヤツだ。

ただ少し変ったと云えば、キールを恋人だと認めたことくらいだ。
愛ってものが、少し分かったらしい。笑っちゃうけど。
二人はラブラブだ。これ爆笑するとこだよ。
もしかしてキールと一緒に待ちぼうけの俺を見て、笑ってやがるのかも。
信じられない、あのデバ犬ども。


『あんた、本当に今、キールとヤッてんの?!』
返信
『やってる。なんなら鳴き声を聞かせてやろうか。電話してこい』

本気だ……絶対。
キールも気の毒に。鬼畜は鬼畜なままだったな。
もう手がかじかんで、文字が打てない。諦めて、何か現在の近況を思い返してみよう。
そうだ、いま現在のことを考えよう。

キールは、あれからずいぶん変わった。
もともと美少年だったが、大人になってからも磨きがかかった。
今やキールとすれ違って振り向かないやつはいない。
番犬が飽きないくらいなんだから、アッチも相当なものなんだろう。
もっとも自身がエステサロンのオーナーだから、自分にたっぷり金をかけられる。

ちょっと顏を触ったのかもしれない。美容整形なんかも、やってるようだし。
まぁ、キラさまほどの美しさはないけどな。俺は完璧だからな。
キールは意外に商才があって、イーブの店の姉妹店として、エステ店は繁盛してるらしい。
政界の人物などもお得意のようだ。なんのエステなんだかな。
まぁでもかなり儲かってるって噂だ。

まぁ、キラさまほどではないけどね。
俺は現在26歳。やり手の美青年実業家だ。クールでリッチ。悪魔の美貌でモテまくり。
主に経営コンサルやセキュリティ専門のセミナーを開いたり、大学で講義をしたりしている。
俺のセミナーや講義の受講券は幻のゴールドチケットで、なかなか予約が取れないので有名だ。
オークションでは、セミナーの受講券はかなりの値がつく。
外に出るようになってから顏も知られてきて、一般人からも握手やサインを求められる。
握手はしないけどね。知らない人間に触られるのは冗談じゃない。

キラ様は、今も昔も超天才で超絶の人気者だ。
そして若手ハッカーからも伝説のハッカーとして崇められている存在。
俺に会いたいと願うハッカーは数知れず。
それは昔も一緒だけど、顏を出すようになってからもっとファンが増えてった感じ。

俺のセミナーのキャンセル待ちは千だか万だかを超す人数らしい。
面会アポイントもなかなか取れないと言われる。忙しすぎてスケジュール調整は難しい。
この仕事をこなせない秘書は、何人もクビにした。
俺は講師であり社長なので、細かいことはよく把握はしていないけど。

ま、要するに皆、それほどまでに俺の話を聴きたいし、俺に会いたいし、俺が見たいのだ。
キラさまは、みるみるうちに資産家だ。
全資産はよく把握していない。管理は万全だけど。
なんだか増える一方で、まったく無くならないのが不思議な感じ。
税金が高すぎるみたいだが、政府のセキュリティ連盟の顧問もまだ兼任しているので、
政府に協力するのが金持ちの義務だからしょうがない。

たまにバカラが、妙な会社を始めては飽きて潰しまくってるけど影響はないらしい。
バカラは、ぜんぜん元気でまだタブロイド会社を趣味で続けている。
若いハッカーを雇ったりして、社会に貢献もしてる。(と、本人談。)
資金を出すのは俺だけど、バカラの気まぐれな道楽に余計な口を出したって、
どうせどこからか金は借りてくるんだから、管理はこっちでしてたほうが安心できる。
バカラはバカラのままだ。皆、バカラを相変わらず憎めない。

まったく困ったやんちゃな年寄りジジイだ。
でも、生きててくれるだけ、もういいって気がする。
好きにさせておくのが、俺の感謝の気持ちだ。
俺も大人になったよな?

ダーティマザーは、相変わらずバカラに惚れていて腰ぎんちゃくみたいにくっついてる。
報われない恋は憐れだが、敏腕経理なのでおれの会社でも雇ってる。
ミモザは、大富豪と結婚して良い暮らしをしているらしい。
あのグズい年増女は仕事もできなかったし、そうして暮らすのが身の丈だろう。
でもまぁ、旦那が良い奴みたいだったから良かったと思う。
さすがのキラ様も、昔の奴隷が不幸な暮らしをしていたら、少し寝ざめが悪いからな。
俺の奴隷を苛めたら、十倍にしてやり返すと言ってから、旦那はとても優しいらしい。

ラスティネールは、まだ童話作家だ。
相変わらずあの男は、歳をとらないようだ。
見た目がまるで変わらない。
もともと老け顔にしても、ちょっと異常な感じ。

でも、気にしない。
ラスが語った大昔のおとぎ話を、本気にすれば問題は解決するのだし。
それはいま、たいした問題でもない。
バカラも相変わらず、ラスにプロポーズしては断られてる。
何年やってんだろうな。いい加減バカラも諦めたらいいのに。
ラスの心は今も過去にあるのだ。気の毒なおっさん。



さてと。

かれこれ、どれくらい待っただろうか。
思考回路はショート寸前だ。
身体は寒くて冷えて凍えて、頭はもうろうとしてきた。
もう話すことがない。誰を紹介し忘れたかな。



どうしてこんなに待ってるのだろう、俺は。

こんな寒い雪の中を。

クリスマスの日に。

来ないなら、帰ればいい。

急用ができて来れなくなったのに、携帯を忘れてしまったのかも。


ああ、そうか。

もしそうだったとしたら―――――。


あいつは、来る。


来るのだ。必ず。
来るのは決まってる。
だから、俺はこのクソ寒い中を待ってるんじゃないか。


そして、急いでやってきて頭を掻きながら、焦った顏でこう云うんだ―――。



「悪い、キラ!! スマン!! 許してくれ!!
 携帯を家に忘れてきちまったんだ、ホントにスマン!!<(_ _)>
 仕事場で急に取引先のウイルス感染アラートが発令して、出張しなけりゃならなくなって、
 で、はじめて携帯がないことに気が付いたんだよ。いやー、顔面蒼白になったよな。
 時間に間に合わねぇし、おまえに連絡つかねーし、マジ焦った。ほんと、ゴメンな?
 ずいぶん、…………待たせた、よな? つーか、何で待ってんだ、おまえ……」



……これだ。


「ひとを またせて おいて ずいぶんな いいようだな……」

「震えてるのか? 大丈夫か、唇が紫だぞ!?」
「いまさら、こういうコドモじみたりべんじをするとわ、な」
「なんだよ、リベンジって? まさかわざとおれが遅れたってのか?
 んなわけねぇだろ、その仕返しの方が数段怖ぇだろーがよ」

「……いいよ。そんなに待ってないから。今までカフェで優雅にお茶してたんだ。
 用事って、なに」
「んな寒そうな顏して、お茶してねぇだろ。鼻も赤いぞ。だいたい、雪、肩に積もってるぞ。
 外に呼び出しといて悪かったなぁ……本当に。あの、なぁ、離れてないでこっち来いよ」

「あんたが来るのが筋だろ。こんなに冷えちゃったんだよ、俺は。
 あんたをずっと待って、雪だるまみたいになってさ。どういうのこれ」
「……触れていいか? 抱いてもいい? いや、抱きしめるって意味だけど」
「勝手にしたら。……なにキョドってるんだ。心配しなくても番犬はいねぇよ。
 バカじゃねぇの。さっさとしたら」


怯えたように目を泳がせていたマヌケな大男は、俺の凶暴犬が居ないことを確認すると、
ほっとした顏をして、そっと、大事そうに俺を抱きしめた。


あったかい……。

思わず目を瞑る。
大きくて、あったかい。安心できる大きな固い胸。

次第にきつく抱きしめられて、ほわんとした感覚に思考がとろけだす。
無意識に俺は背中に腕をまわし、しっかりと縋りつき、顏を上げる。
唇に噛みつかれるように、キスをされる。いつも野性的なのに優しいキス。
互いの舌を絡ませ、暖かくて熱くて頭の芯が振動して揺らぐ……。
動悸が伝わってくる。


なんてこった。


雪の中、立ち尽してキスをするなんて。
しかもクリスマスの街角で。
まるで絵に描いた恋人同士のように。
もしくは飢えた野良犬のようだ。


こいつは、俺が好きなのだ。

知ってた。ずっと。昔から。ガキだった頃から。

俺のことが、好きだった。


だから大人になって、
つきあってくれなどと俺にふざけたことを告ったのだ。


でなけりゃ、あんな酷い仕打ちをされて黙って笑っていられるわけがない。
でなけりゃ、交通事故にでもあって、あの仕打ちの数々を忘れてしまった愚かなマヌケ野郎だ。
でなけけゃ、俺にいつか復讐するために、こんな滑稽な役割を演じているのだ。騙している。

そうか。理由は最後のだな、きっと。

過去からのリベンジ。

こいつの言うことなど、誰が信じるものか。

たとえ何を云われても、信じない。
この俺さまが、騙されるものか。



エンゼル「……あのな。今日、呼び出した理由なんだけどな」

キ ラ 「なんだよ。好きな相手でもできたかよ? もう別れる?」


エンゼル「結婚してくれ、キラ―――」



街角の電光掲示板に『 Please marry me 』と映し出された。


うそだろ。冗談じゃない。





Mary Christmas……



END

2012.12.25