学校レクイエム
登場人物:ブロンクス/テキーラ
場所:有名上流階級の名門学校スクールカレッジ
キ ラ「懐かしいなぁ。この学校、俺が居た頃と、あんまり変わってないな。
もっとも、中等部門の新校舎増設は、俺が卒業してから寄付したんだけどね」
番 犬「お前の寄付した教室で学んでると思うと、嫌な気分だな」
キ ラ「ああ。時々忘れるけど、お前ってまだ中学生坊主だったんだよな。
そーやってると、アタマ悪いフツーのガキみたい」
番 犬「普通に見えるか」
キ ラ「…わけない。でも同じ制服を着てたら、そこらにいるお坊ちゃまお嬢ちゃまと変らないよ。
百歩譲って、ニッコリでもできればだけどな。笑顔だよ、笑顔。やってみ、ホレ」
番 犬「オレが普通なら、お前のボディーガードなどやっちゃいねぇ」
キ ラ「そりゃそうだ。お前は普通じゃないよ。凶暴で冷徹な殺人マニアだ。
笑えば凶悪で、みんな凍りつくだけ」
番 犬「殺人マニアじゃない」
キ ラ「あのな、殺人マニアじゃないなら、このお上品な学校で、
半殺し暴力沙汰なんか起して、保護者呼び出しなんかされないよな!?
学校に呼び出されるなんて、すっごい、迷惑なんだけど?!」
番 犬「お前なんか、呼び出してねぇ。ボスはどうした」
キ ラ「はぁ?!俺だって来たくて来たんじゃねぇよ!
バカラに、お役を押し付けられたんだ!!
保護者が来いって云われて、保護者のバカラは逃げたんだよ!」
番 犬「逃げた?……ボスは、怒ってるのか」
キ ラ「へぇ?あんたでも人の顔色なんか、伺うんだ?
でも残念でした。バカラは怒ってないよ。
ただ、がっかりしてる。お前に失望してるんだよ。
お前なんか拾ってくるんじゃなかったって、云ってたぜ?」
番 犬「…そうなのか」
キ ラ「そうだよ。迷惑なんだよ、お前。もう要らないってよ」
番 犬「ボスがそう云ったのなら、出て行く」
キ ラ「あのな、てめぇ、バッカじゃねぇの!?
らしくも無く何を本気にしてんの?笑っちゃうぜ!!あははッ!
バカラがそんなこと、云うわけねぇだろが!!
この問題児の俺さえも暑苦しく構ってたんだぜ、あの脳天気オヤジは!
中坊のケンカくらいで怒るか、あの変人が!」
番 犬「じゃあ、何故、来ない」
キ ラ「ちょっと。…何?もしかして、拗ねてんの、アンタ?
ひょっとして、バカラが来なかったから拗ねてるってわけ?!
…ははぁ、驚いた。案外、可愛いとこあるんだネ、仔犬ちゃん」
番 犬「拗ねてなんか、いねぇ。仔犬云うな」
キ ラ「それを拗ねてるっていうんだよ、ワンコちゃん。わかった?
でも、気にしなくていいぜ?仕方ないんだよ。
バカラは学校が、大の苦手なんだからな。昔からなんだ。
俺がここでちょっとした悪戯をやってた時に、嫌っていうほど呼び出されて、
さんざん校長に嫌み言われて怒られてさ。長説教にうんざりしちゃって、
バカラはそれ以来、可哀相に学校が大嫌いなのさ」
番 犬「つまり、お前のせいか」
キ ラ「ん?俺のせい?そうともいうの?まぁ、そういう考え方もあるかもね。
だから別に、お前に失望してるとか、そういうんじゃないよ。
安心した?」
番 犬「何だ、安心したかとは。何故それを俺に説明する」
キ ラ「だってあんたがバカラに見捨てられたと思って、落ち込んでるからだろ。
俺だって、根っから酷いヤツじゃないんだぜ。
キラ様は、本来優しいんだから。そうだろ?今だって、来てやってる」
番 犬「落ち込んでる?俺がか」
キ ラ「そーだよ。あんた、落ち込んでなかった?」
番 犬「この妙な気分が、そうか?…落ち込んでいるのか、俺は」
キ ラ「いや、知んねぇよ。お前の気分なんか俺が知るかよ。(ーー;)
ホント面倒くさいな、お前。…ま、いいや。
それで?何をやらかしたわけ?校長の話なんか長くて聞いてなかったよ。
お前がこんな問題起すなんて、これまであんまり無かったじゃん」
番 犬「キールに乱暴した奴を、シメた」
キ ラ「あーそー!なにそれ!
原因はキール?じゃあ、ただの痴情のもつれってか?
そんなんで俺様が呼び出されたっての?…くっだらねぇ!!」
番 犬「痴情のもつれじゃない。奴らがどう云ったか知らないが、
キールは、上級生に理由の無い嫌がらせを受けていた。
あまりに度を越したから、シメただけだ。
だがあいつらは、上級生徒らの云うことしか聴かない。
校長が言ったことは、全部デタラメだ」
キ ラ「あいつらって、先生たちのこと?」
番 犬「そうだ」
キ ラ「なるほどね。あんたとキールは特別だけど、
本来ここは、お坊ちゃまとお嬢ちゃまの上流学校だからね。
だけどシメる前には、注意喚起くらいしてやるもんだぜ?
注意はできるよな?お前はよく、エンゼルに注意してやってるだろ?」
番 犬「エンゼルはダチだからな。ダチには、忠告はする」
キ ラ「ここの生徒だって友達だろ。学校には、クラスには、友達はいないのか?」
番 犬「いないな」
キ ラ「即答ですか…。はぁ。ここはさ、本来、お前が暴れていいとこじゃないんだ。
金持ちの、頭が良くても甘ちゃんばかりのイイトコのアホ学校なんだよ」
番 犬「お前の母校だ」
キ ラ「…言い直す。ハナタレもたくさん混じってる、天才の学校だ。
だから、わずかに頭が良い位のお前とキールには向いてない。
レベルで云えば、荒んだ下流の学校がお前らにはお似合いなんだ」
番 犬「だったら何故、そういう学校に入れなかった。
お前なら、できるんだろう。俺をここに手続きしたのは、お前だ」
キ ラ「そうしても良かったけど、意外にお前らのIQが高かったから、
俺の気が変わったのさ」
番 犬「キールもか?本当はキールの入学も、お前が手配したんだろう」
キ ラ「そう。キールには内緒だよ?キールもIQは高かったよ。
案外お前らは、おりこうさんだったってわけ。ビックリさ。
おりこうさんなら、俺の手元で飼ってた方が、使えるかもしれないだろ?」
番 犬「俺たちは、お前の道具じゃない。この学校はお前の崇拝者ばかりでもない。
お前を憎悪してる者もいる。その2派閥が、敵対してる状況だ」
キ ラ「分析をどうも。人気者に、敵と味方は不可欠なのよ。ステイタスじゃん。
人が沢山集まると、質が悪いのだって増えてくるものさ」
番 犬「質が悪い方が、お前の崇拝者だな」
キ ラ「いうじゃんか。崇拝者の中にも質が良いのと悪いのがいるってことさ。
お前さぁ、それが身請けに来た親切なオレ様に言う、感謝の言葉なの?」
番 犬「別に頼んでねぇ。校長に、何か言われたのか」
キ ラ「俺が?校長に?まさか。キラ様に意見できる奴なんかいないって。
俺が来たから校長はビビッてたよ?あの狼狽ぶり、見せたかったね♪
まぁたバカラに、散々ねちねち文句云ってやるつもりだったんだろ。
なのに俺が来ちゃったもんだから、手のひら返したように賛美称賛。
お前への注意をちょっとして、あとは次の寄付のお話とか世間話かな〜。
ほら、俺って社交性のある天才エンジニアじゃん?」
番 犬「罰則は、無しか」
キ ラ「いいや、それはあるよ。一週間の停学処分。
一週間まで交渉してやったんだぜ?俺さまの力に感謝しろよ」
番 犬「奴らは?」
キ ラ「それはお咎め無し。だって悪いのは、お前だもん」
番 犬「奴らがキールに手を出したんだ」
キ ラ「それであんたは自分のもんを取り返しただけ、だろ?
ならそんなもの、学校のルールには関係ないじゃん。
お前に正義感があったわけじゃない。…だろ?」
番 犬「そうだ…理屈は、あってるな」
キ ラ「でも、不公平だと思うんだろ」
番 犬「あいつらに何も罰則がないのは、ムカつくな」
キ ラ「腹が立つなら、学校ルールを守ることだ」
番 犬「お前は守ってたのか」
キ ラ「キラ様にルールは関係ないって。俺がルールだもん。
ちゃんと守ってたなら、バカラはPTA役員でも引き受けるくらい
学校大好きになってたと思うよ?」
番 犬「ボスは、どう思う。…停学を」
キ ラ「別に何も思わないね。俺だって散々停学になったもん。
高等部でだったけど。停学くらいは、元気な証拠だとか云うさ。
でも。あんたがキールを庇ったって言えば、多分学校へ殴りこみに来る」
番 犬「ボスは学校が苦手で、来なかったんだろう」
キ ラ「弱い者いじめだと知ったら、話は別さ。
水を得た魚みたいに、俄然ヤル気を出すに決まってる。
乗り込んでって、俺の和解が台無しになる―――だから」
番 犬「だから?」
キ ラ「黙っておけ。バカラに本当のことを云うな。
お前がただうっかりやんちゃして、停学になった方が面倒がなくていい。
少しくらいのやんちゃなら、バカラならしょうがねぇって笑って赦すさ」
番 犬「俺に嘘をつけと、いうことか」
キ ラ「嘘をつけとは云ってない。黙ってろって云ってるのさ。大違い。
でも、嘘をつく事が必要になることもあるだろうな。
人を護るなら、そういうことも必要になる」
番 犬「・・・・」
キ ラ「意味わかんない?俺の云うこと、理解できた?」
番 犬「それは、誰が誰を護るために、つく嘘だ?
お前がボスを護るのか。ボスを学校に来させたくないということか?」
キ ラ「あんたはバカラを学校に来させたいのか?
バカラは嫌いなんだよ、学校が。云うことが窮屈だからな。
バカラもこういうエリート校じゃ、本当は良い顔されてない。
金とコネだけがある下等な庶民だからな。底辺の成金ものだ。
校長はここぞとばかりお前をネタに、ネチネチ常識を問う筈だ。
そうするとバカラは困るし、あるいはキレて…また色々立場が悪くなる」
番 犬「ボスは、みんなに好かれてる」
キ ラ「本気で云ってんの?どこまでお馬鹿さんなの、お前。
そんなの、底流にいるところだけの話さ!
お前のいる底辺の世界なんか、ごくごく小さなスペースだ。
ハッカーとか犯罪者、色々貧しいとこの弱者だけだろ。
いいか、この学校は一般世界の中でも上流で、底辺とは違うんだ。
電タブ社の取引先である上流側の大手企業なんかは取引の手前、
バカラを贔屓にしてるけど、足元を見てくるやり手のバカラが、
本気で好かれてる筈はない。狸の化かしあいだ。
中には本気で好意を寄せる物好きもいるけど、そんなの極一部の層だ。
バカラはこの上品で低俗な上流の世界では、異端の鼻ツマミ者さ。
低俗なゴシップを扱ってる、ジャンクな職種の底辺だ。世間じゃ嫌われてる。
バカラだって、エリート側の人間は本来苦手なんだ」
番 犬「じゃあ何故、ボスは、お前をこの学校に入れた?
俺もここに入れたことを、ボスも賛成した筈だ」
キ ラ「教育だよ。人間的には同意できないことが多くても、
この学校は、勉学では最高レベルの方なんだ。
俺に教養をつける為に、バカラは我慢して俺をこの学校に入れたんだ。
確かに学ぶには高レベルで、教育も教材も最新技術も、ここには全て揃ってる」
番 犬「お前の人格形成には、この学校はあまり貢献しなかったようだがな」
キ ラ「ある程度までは、貢献したさ。
俺の社交スキルは学校で学んだことだ。学校は無駄じゃない。
だけどそこから先は、俺の性格だし、しょうがないだろ。
でもすぐに覚えることが無くなって、授業が退屈になったから、
スキップして先に進んだんだ。12歳には、大学も卒業した」
番 犬「らしいな。おっさんが云ってた」
キ ラ「あんたも嫌なら、やめていいぜ?
せっかく誰もが羨望する特別な学校で、普通なら経験できない恵まれた世界を、
お前は何も学習しないまま、不公平だからって、逃げればいい。
アホ学校への転入手続きをしてやろうか?きっと校長もその方が喜ぶぜ?
新しい学校では、お前と同レベルのお友達…いや手下かな?
たくさん出来ると思うよ?その方がお前には、楽しくて幸せかもね」
番 犬「ボスが俺に学校へ行けと云ったから、俺はここにいる。
判断がつかないうちは、そうしろとボスは言った。
だから、まだこの学校に、俺はいる必要があるはずだ」
キ ラ「そう?すっかりバカラの言いなりなんだ。さすが飼い犬ポチ。
バカラは、傲慢だからなぁ。すぐこうしろああしろっていうし…煩いよな。
でも大人のいいなりになる良い子ちゃんになっちゃうんだ、お前?」
番 犬「違う。分からない内だけだ。俺は逃げないし、誰の言いなりにもならない。
ボスは…もし、俺がキールを護ったといえば、すぐに信じると思うか?」
キ ラ「信じるよ」
番 犬「校長に、確認をする前にか?」
キ ラ「そう。お前を信じる。決まってる。
考えなくても分かる。そういうひとだから、バカラは。
そして慎重じゃないから、校長に確認もしない。
お前が嘘をついても、それを信じるよ。
そこがバカラのマヌケなとこなんだけどね」
番 犬「…」
キ ラ「バカラは、お前が話さなければ、ケンカの理由は聞かないぜ。
ただのやんちゃなケンカと思うだろう。だから嘘はつかなくて済む。
ならそのままにするか、真実を話して面倒にするか、どっちかだ」
番 犬「キールとは、学校での守護契約がある。
お前の言った通り、俺はそれを守っただけとも云える」
キ ラ「おりこうさんだ。なら決まりだろ。黙っていれば、解決だ。
腹を立てなくても、どうせキールにちょっかい出した奴らは、
明日から絶対に学校には来ないさ。そんな根性はない。
案外、お前の登校日には、すでにもう転校した後かもしれないよ?
お前に咬みつかれて、恐怖を感じない奴なんか、いないだろうからな」
番 犬「噛み付いてない。ちょっと、ぶっ飛ばしただけだ」
キ ラ「ああ、何だか、よく飛んだらしいよね?」
番 犬「今度は窓硝子を、人間で割らないように気をつける」
キ ラ「そうしてくれ。寄付は、ガラス代より高くつくからな。
あの校長、ホントがめつくいとこ昔と変わらないよなぁ…」
番 犬「キラ」
キ ラ「なに。まだなんかあるの」
番 犬「嫌いな母校に、足を運ばせて悪かったな」
キ ラ「Σ( ̄□ ̄)!うわ…お前が謝るなんて…心底不気味なんだけど。
どうしたの?さすがのお前も、キラ様に悪かったと思って反省したの?
そっか…でもお前の保護者っていう立場でいると、地獄の番犬でさえも、
なんかこう、愛しい気分になるなぁ♪なんだかちょっと可愛く思えてくるわ。
出来の悪い弟って、こんな感じなのかな?ねぇ?
おにいちゃんって、云ってみ♪(*^_^*)ホラ♪」
番 犬「気持ち悪い。お前は俺の保護者でも、兄貴でもねぇ。
…だが」
キ ラ「ん?」
番 犬「お前の云うことは、歪んでいて理解不能だが、
馬鹿にしているようで、俺に何か必要なことを教えている、気がする」
キ ラ「別に教えてないよ。でもキラ様の言葉から、勝手に何か学ぶのは自由さ。
そのお頭で、意味が分かるんなら、だけどな」
番 犬「今は分からなくても、じきに分かる。
俺は、頭が良いらしいからな」
キ ラ「フン(-_-)
アタマがいいなら、今度からは呼び出し食らわないよう手際よくやれよ」
番 犬「努力はするが、俺はお前のようにズル賢くはないからな」
キ ラ「あーそー。やっぱ可愛くなーい!前言撤回。
地獄の番犬なんて弟、いても全然自慢できないしな!」
番 犬「そうか?お前は、俺を用心棒として連れ歩くことは、自慢じゃないのか。
キールはその名を持つ俺と居るだけで、自慢だと云うぜ」
キ ラ「何のステイタスだよ、ソレ(-_-)くだらねぇ。
そんなこと考えてんの?…あ〜、幼稚だなv(-_-;)v
やっぱ所詮あたまの中身、中学生だよな、おまえらってさ。
中坊って一番アタマ悪い時って言うもんな。俺は違ったけどね。
まぁ、俺はさ。中学時代は大人や教師から、愛らしくて天才の神童!
とかって?そう云われ続けてたけど、別に自慢とは思わなかったよね。
だって事実、それって本当のことだしね。
本当のこと言われても、気にならなかったよ、うん(*^_^*)>」
番 犬「お前も充分、幼稚だろ。
それで――学校へ行って良かったと思うのか、お前は」
キ ラ「うん?学校はいいよね。小・中の頃の子供ってすごく残酷だし、
無邪気に見えて罪深い。高等になると、善悪がちょっとマシになる。
だけど友達で人脈を作っておくのは、悪くないだろ。
将来利用できるし、なんせ、上流の顧客が一杯だし、
今とっても役立ってるよ。学校縁故万歳だろ」
番 犬「商売のためにか」
キ ラ「そうさ。他になんて、何もねぇよ。学校にいる人間なんか、
アホばっかりで、つまんなかった」
番 犬「アホ息子も一緒にいたんだろ。つまらなかったのか」
キ ラ「学校の記憶って俺にとっては不用だ。でも葬りたくても実際なくならない。
だけど、そんな状態でもさ、学校には行っておけよとアドバイスする。
葬りたい記憶を持つのと無いのでは、重さが違うのさ。
あれば面倒だが、その経験が無駄になるとこはない。わかるかな」
番 犬「参考にしておこう」
キ ラ「まぁ番犬ごときが偉そうに。
さっきまで尻尾垂れて、きゅーんてなってたくせにな。
バカラが来てくれなくて、番犬が拗ねていじけてたって行ってやろ〜♪」
番 犬「…云ったら殺ス。ボスには絶対、云うな」
☆END☆
Photo:『Do U like?』
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