聖 夜

セリフ劇場

photo/真琴 さま (Arabian Light)



クリスマス前夜 雪が舞っている
ラスの自宅
一夜の情人(客)を
ベッドから送り出したラス

扉で見送りながら 佇んでいると
1本の薔薇と酒のボトルを持った
陽気な男が登場



バカラ「メリー・クリスマス!先生!
    ウオッカはクラスのガキどもとクリスマス会だとさ
    ようやく二人きりのクリスマスの念願叶ったりだ」

ラ ス「…今日はそんな気分じゃないんだけどな」
    
      (気だるそうな仕草さをしながら
       それでも部屋に招き入れる)


バカラ「いつだって気分じゃないくせに
    お盛んだろ 俺だけつれなくすんなよ」
    




しばし暗転 大人の情事が終るまで消音


ラス ベッドから体を起こして 
傍らの キャンドルを 灯す
灯りは薄暗いが
光は やわらかく 優しい






ラ ス「もう 止めにしないか」

バカラ「なにを」

ラ ス「俺たちのこういう関係」

バカラ「良くなかったか?それとももう体力の限界か?」

ラ ス「俺たちの だと云ってるんだけどな 悪くはなかったよ」

バカラ「いやだ」

ラ ス「やっぱり」

バカラ「何故そんなことを言い出す?らしくないじゃねぇか
    クリスマスの神聖ムードに罪悪感か?
    俺はお前を束縛しやしないし 他の奴と付き合うのも
    気にしちゃいないぜ 止めだと云われる理由がない」

ラ ス「ウオッカが来たよ オヤジと別れてくれないかって」

バカラ「畜生!あのクソガキ!
    人様の色恋には口出ししちゃなんねぇって
    云ってあるのにな」

ラ ス「最初は愛のキューピットをやるって言ってたんだけどな
    最近になって気が変ったらしい お前を好きなんだよ」

バカラ「まぁな」

ラ ス「ウオッカは賢くて優しい子供だ
    お前のガキにしちゃ 少々デキすぎだけどな」

バカラ「ほっとけ あいつの頭の良さは女房の遺伝子だ
    知ってるか?あいつの初恋はお前なんだぜ
    趣味の良さは俺似だな」

ラ ス「それは初耳だ オヤジの交友関係が乱れてると
    子供はおじさんしか選びようがないものな
    可哀想に」

バカラ「よせよ 俺はお前とだけつきあってるんだぜ
    俺の相手はお前だけだ」

ラ ス「それが重いっていってるんだよ」

バカラ「重い?へぇ?
    重いなんて感じてくれてるのか そりゃ光栄」

ラ ス「俺には忘れられない想い人がいる
    それは前にも云った筈だ しかもその人は
    俺を選ばす違う奴を選んだ 昔昔の話で
    もうその人はこの世にいない
    お前はいつまでたっても死人に勝てることはない」

バカラ「言ってくれるじゃねぇか
    そんなことは百も承知だろ 今更なんの理由になる?
    俺の本気はそんなこととは何も関係ねぇ
    何か勘違いしてるんじゃねぇか?」

ラ ス「報われなくてもいいっていうのか」

バカラ「報われる為に お前を愛してるんじゃない」

ラ ス「正面きっていうなよ
    変な男だなお前は 今更だけどな」

バカラ「お前のそばにはいつでも俺がいる
    お前はそう思ってていいんだぜ
    他の男とも好きに寝ればいいし
    俺はお前のベッドに相手がいないときは
    いつでも飛んでいく」

ラ ス「だからさ おっさんは好みじゃないんだけどな」

バカラ「贅沢いうなよ 自分だってオッサンのくせに」

ラ ス「俺にもし本気で好きな奴ができたら?
    その時お前は黙って身を引くか?」

バカラ「だから勘違いしてるっていうんだ
    俺はな ストーカーの類なんだよ
    あきらめるわけないだろ 邪魔はしないがつきまとう
    ラスティ・ネールのストーカーだ
    だけど本当にお前を愛してるし恋もしてるし
    メロメロだ 死ぬまで一生お前だけ愛すと誓う」

ラ ス「情熱的だな旦那は 死ぬまでねぇ…
    何故俺が年寄りを相手にしないか 知ってるか?」

バカラ「なんでだ?ところで年寄りって俺のことかよ」

ラ ス「はやく死ぬからさ 俺よりも先に死ぬ
    一緒にいられる時間が短いからだ」

バカラ「俺は死なないぜ」

ラ ス「子供の答えだな 俺の寿命はやたら長いんだよ
    俺があまり出会った頃と変らないことに
    いつ疑問を持ってくれるのかねこの色ボケおやじは?
    何も云わないが 気付いてないわけじゃないんだろう?
    何故一度も俺に尋ねた事がないんだ?」

バカラ「それは贅沢のいいすぎだ
    お前だって歳をとってるぜ
    だいたい会ったときからお前は老け顔だったんだ
    一定の年齢に達すれば顔なんてそんなに変らない
    第一 男が子供を産む時代でだ
    お前のような人間がいたって普通だろ
    テロメアだかテロメラーゼだかで
    寿命が延ばせたってな
    時間の差こそあれいずれは衰えて生物は死ぬんだ
    神様が決めたことだからな」

ラ ス「神様がねぇ…神様がいると思ってるのか?」

バカラ「いるね 絶対いる」

ラ ス「もう寿命が尽きてあの世に
    逝っちゃたかもしれないぜ」

バカラ「バカめ 神様はもともとあの世だ」

ラ ス「ああ違いない」 (笑う)


ラ ス「なぁバカラ…お前は女だって抱ける
    手遅れになる前にまともな恋人を持てよ
    ウオッカだって可哀想だ
    俺に執着することはない
    
    俺はお前を裏切るぜ 手ひどくな
    もう裏切ってるかも知れない
    お前のまっすぐで おキレイな愛などに
    俺は答えられない
    まともな愛なんかで満足できない
    頭のおかしな人間なんだ
    俺の情操システムは 壊れてから長い
    お前が知ってる以上にな」

バカラ「お前に変態性癖があろうが殺人鬼だろうが
    異常体質だろうが改造人間だろうがどうだっていい
    俺はお前をずっと想い続けるストーカーだって
    いっただろう どんなことで驚いても
    俺はお前の友達で仕事のパートナーで
    セックスフレンドだ それは変らない」

ラ ス「俺の恋人だとは云わないんだな」

バカラ「お前が認めてないだろ
    そこまでずうずうしくはないつもりだ」
 
バカラ ラスの頬に手をかけて 接吻する
そして 優しく見つめる



バカラ「お前は出逢った時から魅力的だった
    女房が天に召されてから俺はずっと教会に通ってた
    
    …ある日 お前は教会の司祭の部屋にいた
    司祭は明らかに禁断の情事のあとを見られて
    蒼白になってた 
    でも俺はいい人だから黙っててやった
    人の趣味にケチをつけるのは無粋なことだ
    それにお前をひとめ見た時
    キリスト様かと思ったからだ」

ラ ス「いい人のお前は司祭を脅して俺の家を突き止め
    俺に‘いくらだ’って聞いたんだぜ
    あんたはキリスト様を金で買って抱いた
    罰当たりな男だ」

バカラ「惚れたから抱かせろって云ったら
    お前が金を要求したんじゃねぇか
    人聞き悪いこというなよ」

ラ ス「いきなり初対面の人間にそんなこというからだろ」

バカラ「俺たちにとってクリスマスは特別な日だ
    お前の生まれた日だからな」

ラ ス「勝手に俺の誕生日を決めるなよ」

バカラ「じゃあ俺たちが出逢った日だ」

ラ ス「あの日はクリスマスじゃなかったぜ」

バカラ「お前な 細かい男だな
    そんなこと大きな問題じゃねぇだろ」

ラ ス「あんたはバレンタインの時も
    さんざん俺たちが出逢った日だとか
    抜かしたじゃないか
    結局どうでもいいんじゃないか!」

バカラ「何怒ってるんだ?」

ラ ス「呆れてるんだよ」

バカラ「俺と二人で過すのは嫌なのかよ」

ラ ス「…わかったよ 無駄な討論だった
    今日は泊まっていけるんだろ?
    ウオッカはいつ帰る?」

バカラ「日付が変る前には帰ってこいと言ってある」

ラ ス「(さらに呆れた顔で)

    本気で俺と二人のクリスマスを
    過す気があるのかバカラ?
    泊まりもせずにさっさとセックスを済まして帰る?
    いいぜ 今後一切 俺に‘客’扱いをして欲しいなら
    そうしな」

バカラ「だってウオッカはまだ15歳だぜ?
    泊まりでクリスマス会は早いだろ
    キラを連れて出てるしな キラはまだ11だ
    未成年の外泊はうちでは禁止だ」

ラ ス「過保護だな もう15なんだぜ
    でも子供の成長は早いし気をつけなきゃな」

バカラ「けどな 親同伴の外泊は許可してるんだ
    今日はここに親子で泊まる予定だからヨロシクな
    息子どもは11時に迎えに行く」

ラ ス「…絶句だな ムードも何もあったもんじゃねぇ
    まぁいいか ウオッカもキラも俺は好きだしな
    夜通しのパーティーは多い方が楽しい
    じゃあご馳走の買い出しに行かなきゃな」

    (ラス 外出の仕度を始めコートを着る)


バカラ「もう買い物に行くのか?まだいいだろう
    まだ時間はあるんだぜ」

ラ ス「もうセックスはしたじゃねぇか
    行くぜオヤジ!」

バカラ「お前さっき言ってたコトと行動が違うぞ」


ラ ス「(微笑む)
    
    …いいだろ  恋人同士みたいに
    二人でクリスマスの買い物に行くのもな

    早くガキども育てあげて
    いつか…ゆっくり俺のもとへ来な
    恋人に昇進させてやらないこともないぜ」










二人コートを着て寒空の下へ
恋人同士のように寄り添いながら




メリー・クリスマス…

もう同じ日は二度とこない 今日だけの

幸せな聖夜を




END

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