羨望癖の堕天使

登場人物/キール ブロンクス
放課後 殆どが帰ってしまった教室
キールの机のそばに 5人くらいの生徒が近づく
リーダー格の生徒Aが にこやかに話しかける


生徒A「ねぇ キール うちの学校に転入できたなんて
     君 どれくらい頭がいいの?」
キール「え?」
生徒A「ここの前はどこの学校だったのかな」
キール「学校は はじめて…なんだ」
生徒A「なんだって?今まで学校に行ってなかったっていうの?」
キール「あ…違うよ そうじゃなくて…」


キール 娼館にいたことは
言うなと口止められていたことを
思い出し口ごもる
生徒A「この学校は それなりの人物でないと入れないんだぜ
     今まで家に専用教師がいたとか そういうご環境?
     それとも どこかの王子さまなのかい?」
他の生徒等が耳ざわりに笑う

キール「ここは ウオッカのお父さんが 入れてくれたんだ」
生徒A「ウオッカ?あの電脳タブロイド社の社長の息子か
     それじゃ まさかキラさんのコネ? キール!
     君ってすごいな キラさんに目をかけられているんだ」
キール「違うと思う…だってキラは俺がここに入ったこと
     知らないみたいだった」
生徒A「キラさんと会ったことはあるの?」
キール「ちょっとだけ タブロイド社のバイトをしたんだ
     キラに仕事を教えて貰った 最近も会ったよ」
生徒A「へぇ びっくりだな
     彼に何度も会えるなんて滅多にないことだぜ
     でも気をつけた方がいいよ
     彼に敵意を持ってる奴ら多いからね
     派閥があるんだ でも君がキラさんの友人なら
     僕らは歓迎派だ 僕らのそばにいれば
     心配ないよ 聞いてみて良かった」
キール「じゃあ ブロンクスとも 君ら仲が良いの?」


他の生徒等がその名前にざわつく
生徒Aが大きく息を吐くのがわかる
生徒A「あいつは 別格だよ なんていうのかな
     キラさんの用心棒だろ 俺たちとは関係ない」
キール「そうなの?」
生徒A「まさか 君
     ケルベロスとも仲がいいんじゃないだろうな?」
キール「別に…相手にして貰えてないよ多分」
生徒A「そう 良かった 誰だって解ってる話だけどね
     あいつに関わらない方がいい
     っていうか誰も近づかないだろうけどね」
キール「どうして?」
生徒A「どうしてだって?あいつ 恐ろしいだろ?!」
キール「そう かな」
生徒A「あれは人殺しの目だよ 多分ね いや絶対そうだ
     だって目が合おうもんなら ビビって動けなくなる
     殺される!って思うよ 学校じゃなきゃ殺されてるね
     あいつは空気のような存在にしておけばいいのさ」
キール「でもクラスメイトだよ」
生徒A「ははは キールは可愛いな そんなこといってると
     痛い目にあうかもよ」
キール「痛い目?」
生徒A「そう たとえば…」

生徒B「お前の前歴のお仕事で奉仕しろ、とかね」
生徒等がキールの耳元に口をよせ
ニヤついて囁く

生徒C「お前 体売ってたらしいな 何十人のじじいと寝た?」
生徒D「じじいのアソコ舐めて お尻に入れて〜って
     あんあん鳴いて頼んでたんだって?」
生徒E「俺たちにも えっちなことさせてくれよぅ
     いつでも 濡れてるんだろ?
     卑しい汚れ野郎のくせに
     学校に来れるとは いいご身分だな」
キール驚いて 絶句する
次々と生徒等は
卑猥な言葉を浴びせる



キール取り囲まれて
全員に衣服の上から体を撫でられる
キール「やめて! 嫌だ 何するんだ…離せ!」
生徒A「お前は 下等ランクにキマリだよ
     俺らのストレス発散の慰みものとして
     登録してやるよ 良かったな子羊ちゃん
     毎日 放課後に可愛がってやるぜ
     これでお前を変な目で見る奴らからは
     俺たちが守ってやる 安泰だろ」
キール「俺…キラの キラの知り合いだから心配ないって
     いったじゃないか なのに どうしてこんなこと…」
生徒A「さぁ?
     キラが色んな人間に恨まれてるからか もしくは」


「キール」
錆びた地の底から響くような低い声

地獄の扉が開いたかと思うような
恐怖感
気配を感じさせず
ブロンクスが生徒等の背後に
立っている
生徒等はその場に針金のように
硬直して動けない

ブロンクス「帰らないのか」


キ ー ル「!待って 一緒に帰るよ!」



ブロンクス 何もなかったように
その場を立ち去る



キール その後を追う
生徒等は誰も引き止めない
キ ー ル「ありがとう ブロンクス 助かったよ」
ブロンクス「何故 前歴がバレた
       バカ息子の細工じゃ無理があったか」
キ ー ル「分からない… どうしてバレたのかな
       ネットカフェの人種や 俺がいた世界の住人とは
       学校っていうのはまったく違うと思ってたのに」
ブロンクス「どこにでも 交わっている奴らはいる
       それが普通だ
       だからデータの改ざんはどれだけ完璧でも
       意味がないことが多々あるがな
       どうせバレるなら キラとの繋がりは
       否定すべきだったな
       これでアンチ・キラ派のターゲットにされるのは
       間違いない」
キ ー ル「俺… まだキラに友達だって言ってもらってないけど
       友達になりたいって思ってるから…」
ブロンクス「本気でそう思っているのか」
キ ー ル「そうだけど?」
ブロンクス「物好きだな」
キ ー ル「ブロンクスだって キラの友達だろ」
ブロンクス「違う 俺は仕事であいつのガードをしているだけだ」
キ ー ル「でも 仲良さそうに見えたよ 羨ましかった」
ブロンクス「…お前 変っているな」
キ ー ル「どうして」
ブロンクス「俺が怖くないのか」
キ ー ル「会った時は怖かったよ
       でも今は そんなに怖くない 自分でも不思議だけど」
ブロンクス「不思議か」(ブロンクス 声なく笑う)

キ ー ル「笑うと凶悪だって 言われない?」
ブロンクス「言うヤツはいるな そいつは笑わなくても
       俺といい勝負のツラだがな」
キ ー ル「その人は友達なの?」
       (ブロンクス 少し考えて)
ブロンクス「そうだ」
キ ー ル「良かった さっきあの人達が 
       あんたのことは空気のようだと思えばいいって
       言ったから キラがいない時は
       いつも一人なのかと思った」
ブロンクス「ひとりで困ることはないな
       エンゼルは学生じゃないから学校にいないしな」
キ ー ル「その友達はエンゼルっていうの?
       コワイ顔なのに?」
ブロンクス「名前がエンゼル・フェイスだ
       中身は意外と驚くほど天使さまで鳥頭で
       うかつだ」
キ ー ル「想像できないよ どんな人」
ブロンクス「カフェでハッカーチームの集会日に行けば会える」
キ ー ル「そんなとこ 一人じゃ怖くていけないよ
       ウオッカは よく出入りして羨ましかったけど
       俺は連れてってくれなかったし」
ブロンクス「お前 何でも羨ましいのか」
キ ー ル「俺が憧れることを持ってる人は羨ましいよ」
ブロンクス「そんなものか」
キ ー ル「ブロンクスは 誰かを羨むことないの」
ブロンクス「ないな」
キ ー ル「ふうん 羨ましいな」
ブロンクス「…お前 これからどうする
       ターゲットにされるのは目に見えてるぜ」
キ ー ル「俺のそばに いてくれないの」
ブロンクス「俺に守って欲しいのか」
キ ー ル「今日 庇ってくれたろ?
       俺 すごく気持ちが 良かった」
ブロンクス「庇ったわけじゃない ちょっと気になったからだ
       お前に絡んでいた奴等は キラのとりまきの筈だ」
キ ー ル「じゃあ 俺はキラに贔屓にされてると
       勘違いされて 羨ましがられたのかな?」
ブロンクス「お前の頭もエンゼルといい勝負だな」
キ ー ル「でもブロンクスがいてくれたら 大丈夫な気がする」

ブロンクス「報酬は何だ」


キ ー ル「え?」
ブロンクス「お前 締まり具合はよさそうだな
       週一で 性欲処理をさせるなら
       学校でのみ お前のガードを 引き受けてもいいぜ」



ブロンクス 凶悪な笑み






キール 息を飲み 青ざめる
キ ー ル「性欲処理?酷いこと 云うんだね」
ブロンクス「何が酷い? 金は必要ない
       キラの用心棒の給料は ボスに貰っている 
       だが お前は俺を雇いたい
       だから現時点 俺が必要で
       お前の提供できそうなものを 提案しているだけだ」
キ ー ル「それじゃ 彼らと 変わりないじゃないか」
ブロンクス「奴等は複数 俺はひとりだ お前の受ける負担が違う」
キ ー ル「じゃあ あんたの慰みものに なれってそういうこと?」
ブロンクス「俺の仕事報酬だ お前がどう思うかは関係ない」
キ ー ル「仕事なんか頼んでない」
ブロンクス「守れと言っただろう」
キ ー ル「いて欲しいって言ったんだ もういいよ
       今日はありがとう 明日からのことは自分で考える
       どうせ俺は娼館出だもの 好きにすればいい」
ブロンクス「…お前 少しキラと似たところがあるな」
キ ー ル「どんなところ」

キール 少し感情が乱れる
怒気を含んでいる様子
ブロンクス「無駄に強情」

キ ー ル「それはウオッカにも言われたことがある
       無駄とは 言わなかったけど」
ブロンクス「キラと友達になりたいなんて
       自虐癖があるか アホな策士か どちらかだ
       だが案外 お前にキラは異色かもな」
キ ー ル「どういう意味」
ブロンクス「電タブ社へ来るか?
       キラに接触できるぜ
       ボスにもう一度会って お前が以前キラに
       薬をうって失神させた件が帳消しになるか
       直接頼んでみろ ボスはキラを溺愛している
       そのボスに雇ってくれという 度胸があるならな」
キ ー ル「行くよ 社長さんに頼んでみる
       キラと友達になる第一歩なんだろ
       何でも一歩は大事だって ウオッカは言ったよ」
ブロンクス「面白い
       キラの反応が 見物だ」

キ ー ル「さっきの話だけどね
       別に俺のこと守ってくれなくても
       ブロンクスが 俺としたいのなら…してもいいよ
       でも俺の心は ウオッカのものだ」
ブロンクス「お前が誰と付き合っていようが関係ないな
       最近性交のルールを守れと うざったい
       首を絞めてやるのは 禁止だと言われた
       それが一番よく締まるのにな
       いちいち文句を聞いてると 萎える
       俺のやり方に文句を言わない奴が必要だ」 

キ ー ル「…もう一度 考えとく」

ブロンクス 顔を上げ
キールを 斜に見下げて笑う
ブロンクス 珍しく興味を持ったように キールをゆっくり眺める

キール 地獄の番犬に舌なめずりされているようで 落ち着かないが
なんとなく心地良さを感じていることに 自分では気がついていない


…恋の予感?


END
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photo/真琴 さま
 (Arabian Light)