アンチェインド・メロディ


02
クリスマス前の街角とBAR




リ ン「茅野さん、今日は買い物につきあってくれて、ありがとう」

鏡 夜「いいえ。クリスマスプレゼントを選ぶのは楽しいですよ。久しぶりの買い物です。
    こちらこそ、良い気晴らしになりました」
リ ン「ホント? 良かった。助かったよ。申し訳なかったね。お店、遅刻させちゃったな」
鏡 夜「構いませんよ。今夜は要がオープンからいますし、古いお友達が見えたようで、
    カウンターに入りたかったようですから」
リ ン「そうなの? レイジの古いお友だちって、モトカレとか? また外国のひと?」
鏡 夜「さぁ? 日本人のお友達ですね」

リ ン「お友だち、ね。あ、ねぇ。だったら茅野さん、このあともまだ時間ある?
    良かったらメシ、食いにいかない? それとも店に出ないと駄目かな?」
鏡 夜「いいえ、大丈夫です。今日は休暇を貰っています。誘って頂けるならぜひ」
リ ン「良かった! お礼に奢るよ。きっと茅野さんの方が、給料はいいだろうけどさ」
鏡 夜「そんなことはないですよ。でもリンさんに、今日は奢って頂いて良いですか?」
リ ン「やった!! なんか美麗な茅野さんとメシ、食うのってちょっと嬉しいよな。男でもさ。
    高いレベルの男と一緒だと、俺もそうなったみたいで自慢げな俺になれる気がする〜♪」
鏡 夜「それはリンさんが男前だから、そう思えるのですよ。
    自分に自信の無い方は、私との食事を遠慮される方が多いのです。
    ……下心のあるひとに限っては、別ですけどね」

リ ン「なるほど。ときに俺、下心はないよ?」
鏡 夜「ええ、分かってますよ。だから安心してお誘いを受けます」
リ ン「茅野さんは華があって、カッコイイからね。俺はカッコイイ奴とメシを食うのはスキだよ。
    ナルセやレイジとメシ食うと、なんだか自慢げになれる。マックも……いや違うな。
    アイツは男前だけど、中味三枚目だから、一緒にいて楽しくて面白いし、
    あんま、自慢とか思ったことねーな。アハハ。でも現実、ナルセとレイジとメシ食ってたら
    周りの女は絶対、じっと見てくるけど、マックはないなー。華のない男前だからな、あいつ」
鏡 夜「そうですね。マックさんは面白いひとですね」
リ ン「あ。……まずかった? マックの話題は御法度かな? ゴメン」
鏡 夜「いいえ? 何故ですか? 別にそんなことはありません。
    気を遣われるような理由はないですよ。謝らないで下さい」
リ ン「そう? いや……、なら良かった」
鏡 夜「私もリンさんと食事ができるなんて、夢みたいです。
    憧れのシックスティーズのドラマー、ですからね。自慢です」
リ ン「え? そんなことはないだろー。お世辞を言い過ぎだよ、茅野さん。
    でも、もっと云って欲しいわー♪ なんてなー。やー、楽しくなってきたなー」


                        ★★☆


鏡 夜「ところで最近、リンさんはあまり女性とおでかけになりませんね?」

リ ン「……うッ。いきなりズバッと痛いところを突くね。どうしてそれを?」
鏡 夜「気を悪くされるかもしれまんせんが、要がたまに、
    リンさんはもう女性に興味が持てないんじゃないかと云ったりするもので……」
リ ン「なんだってー!? よく言うよあの無責任オヤジ……。ひとにいらん助言しておいて、なんだよ」
鏡 夜「まだ要の助言を守ってらっしゃるのですか? 関係を急がない、という対策を」
リ ン「あー、パンツをすぐ脱がない、デショ? お上品に言わなくてもいいよ。
    そうあれからファンのコとは致してない。といって、まったくご無沙汰ではないけど」
鏡 夜「あの助言で何か変わりましたか?」
リ ン「んー。どうかな。最初は辛かったけど、最近は無くてもどうってことないっていうか、
    やらなくなったら、女の子が寄って来なくなっていうか……。やっぱりかっていうか。
    やっぱりリンくんを釣って落とすと飽きるだけのお遊び釣り人だったんだなって、実感?」
鏡 夜「リンさんに近寄りがたいスター性がでてきたのかもしれませんよ」
リ ン「うう、なんて優しい慰め言葉なんだ。ナルセの耳にねじり込んでやりたいよ」

鏡 夜「ナルセさんは優しくないですか?」
リ ン「うん。実に優しくないね。あんなドSな俺サマ男は見たことないよ。
    ほんと、ヒデェこと云うんだよ、あの男。まったく毎回話してると怒り心頭だよ?
    ステージのナルセと本当のナルセは全然違うんだよな。
    ほんとよく喋るし、冷徹で酷いことをつらっと云う嫌な男だからアイツって。
    ある意味、あのクールさはステージと同じと言えるかもしれないけどね」
鏡 夜「でも、リンさんはナルセさんのご親友なんですよね。
    遠慮をするような関係じゃないから、何でも辛辣に言えるのですね」
リ ン「まーね。ナルセは結構、長いつきあいだからね。バンドの中でも一番長いし。
    云いたいこと言って、あと笑える関係って気も遣わないし、確かに楽だけどね。
    茅野さんも、レイジとはそんな感じだよね。レイジは茅野さんにすごく心を許してる」
鏡 夜「そう、でしょうか。……そうですね。私も最近、要に云いたいことを云いますね。
    私の態度は、オーナーに対する態度ではないかもしれません。過ちですね。
    今後は改めたいと思います。おかげで良い気付きになりました。ありがとうございます」
リ ン「いやいやいや、なにそれ。そういう意味で言ったんじゃないって! なんで改めるんだよ?」
鏡 夜「リンさんはシックスティーズの店長に偉そうに口ごたえをしますか?」

リ ン「それは、絶対ないかな」
鏡 夜「ですよね。それと同じことです。やはり、今後は改めます……」
リ ン「いやいや(^_^;) 茅野さんて、意外と面白いなぁ。
    茅野さんたちはそんな間柄じゃないだろ。なんかさ、可愛いよなー、茅野さんて。
    レイジが茅野さんを手放せない理由、分かる気がするよ」
鏡 夜「私は可愛いですか? リンさんから見ても?」
リ ン「うん。カワイイひとだよね。いつも隙がないのに、どこか天然なとこがあるっていう感じ。
    俺さぁ、酔っぱらうと男でも誰でも口説く癖があるのかなぁ?」
鏡 夜「ナルセさんと飲んでいて、彼を口説きますか?」
リ ン「ない。それは絶対ない」
鏡 夜「では、マックさんは?」
リ ン「ない。それも絶対ない」

鏡 夜「では、誰でも良いわけではないと思いますよ。別に私は口説かれているとは思いませんが、
    そういうのは誰でもではなくて、無意識に心の中で選んでいるものだと思います」
リ ン「そう? 俺、茅野さんだからって、やっぱり選んでるかな?」
鏡 夜「リンさん。私は口説かれたら本当に寝ますけど、いいんですか?」
リ ン「……えっ、と。どうしたの、茅野さん? いつもの茅野さんらしからぬ、回答だけど」
鏡 夜「リンさんは、ステキな男性です。私にとって寝てみたい相手だというだけのことです」
リ ン「素敵な男性ってどういう意味? 見た目のこと? 見た目イイだけで寝ちゃえるのか?
    それ、イイ女に速攻パンツ離脱の俺と同じじゃない?」
鏡 夜「同じでしょうね」
リ ン「いや、それ、悩まないの? 寝ちゃったあとでさ」
鏡 夜「相手を好きではないなら、悩みませんね。逆に好きなら、好都合でしょう。
    どちらも悩む要素はありません」

リ ン「相手は? 相手だけが茅野さんを好きだったら?」
鏡 夜「……私を好きな相手とは、寝たくはないです。本来は。でも」
リ ン「え、でもって?」
鏡 夜「でも自分があまりに寂しい夜は、寝るかもしれませんね。
    相手が私を好きで、私が相手を好きではなくても求められたら応えます。
    それがたぶん、相手には酷いことになると、分かっていても……。
    私は自分勝手なんですよ。自分の寂しさだけしか考えていない」
リ ン「茅野さんは、寂しいときは誰でもいいってこと?」
鏡 夜「多少のより好みはあるかもしれませんけど、
    私は行きずりの知らないひととでも、できるような人間なんですよ。
    リンさんとは、基本的に違うのだと思います。幻滅しましたか」
リ ン「でも俺だって、ソープのおねーちゃんとヤッちゃうよ? 同じだよね?」
鏡 夜「私のその夜限りの相手は、金銭報酬では成り立っていませんので、はやり違うかと思います」
リ ン「お金で買う方が酷い気もするけどなー。茅野さん、優しいよね。
    ナルセだったら、抱かせてやったんだから感謝しろって云うよ、ぜったい」
鏡 夜「そこまでの境地に私はまだなれませんね。まだ未熟です」

リ ン「だったら、自分勝手じゃないよ。ナルセみたいなのを自分勝手っていうんだよ。
    茅野さんは、相手の気持ちを推し量る気持ちがあるじゃん」
鏡 夜「自分をその相手と重ねるから辛いのですよ。他人を推し量っているわけではありませんから、
    それは優しさではありません」
リ ン「それって、自分も報われない恋をしているってこと?」
鏡 夜「……リンさん、誘導がお上手ですね」
リ ン「それはハズレ。今日の茅野さんは、おかしな受け応えをしてるからそうなっただけ」
鏡 夜「そうですか?」
リ ン「そうだよ。いつものピアノマンじゃ、こんな展開には絶対ならないよ?
    そうだろ? 今日の茅野さんは、ちょっと饒舌で、変だ」
鏡 夜「そうかも、しれません。ここは、店の外で、プライベートです。
    素の私はとても精神的に脆い……と、いう感じで、相手を誘います」
リ ン「ん?」

鏡 夜「リンさんは、何という答えをお聴きになりたいですか? 本当に私と寝たい?
    本気であれば、それは簡単なことですよ」
リ ン「ちぇ。俺とかけひき? そんなにカチガチの鋼のガードで、疲れない?
    俺はさ、茅野さんとただ、脆いハートについて、話したかっただけなんだけどなァ」
鏡 夜「……すみません。つい。かけひきの多い私生活でもあるので、方向が違っていましたね。
    リンさんと話すような内容ではありませんでした。申し訳ありません」
リ ン「いや。俺が悪いんだろうね。茅野さんの欲望も叶えられないくせに、変なことを云っちゃった。
    茅野さんさ……。サワと、寝たんだよね」
鏡 夜「ちょっとしたゲームでした。お互い、甘い気分の上ではありませんよ。
    気になりますか? サワさんとは、その後、会ったのですか?」
リ ン「うん。会ったよ。普通にね。随分久しぶりだなって、会話は今まで通りだったよ」
鏡 夜「彼は何も変わっていなかったですか?」
リ ン「いいや。変ったことはある。前みたいに冗談も言うし、笑って悪態もつくけど、
    俺と二人だけで飲みに行くことは絶対無くなったし、俺に触れてこなくなった」
鏡 夜「触れてこないとは?」

リ ン「変な意味じゃないよ。要するに握手もなるべく避けるし、胸を叩いたり、足を蹴ったり、
    肩を組むことも、頭を小突くことも、身に触れることはぜーーんぶ、しなくなったんだ」
鏡 夜「それで距離を感じるんですか?」
リ ン「そりゃ、感じるね。めちゃめちゃ、距離を感じるさ。もちろんだ。腹が立つよな。
    あいつは結構、触り魔だったからね。嫌がる俺に対してさえ、スキンシップは欠かさない奴だった。
    だからあの事件以来、故意に触れないんだとしたら、どういうことなのかなって思うよな。
    キスしたことが気まずくて、無かったことにしたいのかな。でも友達の座も下りたって感じだ。
    ただの音楽仲間、かな。以前の悪友みたいな仲の、友達関係じゃないのは明らかだ」
鏡 夜「寂しいと感じますか? ただの音楽仲間では嫌ですか?」
リ ン「どうかな。実は不思議にほっとしてる自分もいるんだ。サワが触ってこなくてほっとしてる。
    この距離感を、壊されることの方が恐いんだ。どう思う?
    そういうのって俺はなんだか気持ち悪くて、白黒をはっきりさせたいタイプなんだけど、
    サワに対しては、こう、腫物に触るような、真実を知りたくない気分なんだ。
    ねぇ、茅野さんはこんな俺ってどう思う?」
鏡 夜「そうですね。……リンさんらしくない、と思いますね」
リ ン「だよね? 俺らしくない。そうなんだ。サワの態度より俺の態度が問題だ。
    この先も友情を壊したくないなら、はっきりサワの態度について怒りを感じてるって言うよな、俺なら。
    今までなら。でも俺、言えないんだよな。……おかしいよな?」
鏡 夜「サワさんが気になるのですね」
リ ン「……どうだろ。気にならないと言えば、嘘だよな。
    でも俺って男に興味ないし、誰かと試してみたいって気もしないしさ。
    もちろん、サワとも寝たいなんてまったく思わない。本当だぜ?
    あいつの尻の軽さは知ってるし、惚れっぽさも飽きっぽさも知ってる。
    そんなのに巻き込まれるのは冗談じゃない。俺は、サワをそういう意味で好きじゃないよね?」

鏡 夜「私は以前、サワさんにはお相手は星の数ほどいて、出方次第であなたもその一人になり得ると云いました」
リ ン「そうだね。そういう感じの辛辣なコメントは、聴いた気がするな。そうだろうなって思ったよ」
鏡 夜「ですが……。そうならないこともあるかもしれません。ひとは相手によって変わることもあるからです」
リ ン「変わる? サワが真面目に、真摯になるってこと? 俺に対して?
    リンだけとおつきあいするとか云いだすわけ? まっさかー! 無いね、無い」
鏡 夜「本気でサワさんがリンさんのことを意識し出したのだとしたら、という可能性です」
リ ン「いやいやいや、無いだろ、マジで。サワに限ってないわー。あいつ、本当に病的なヤリ魔だからね。
    どっちかと云えばやっぱ、俺との貴重な友情を守りたいから、いっときの成り行きは避けたいってとこだろ。
    おお、友情だって。そうか、それくらいの分別はあったんだな、アイツにも」

鏡 夜「無い、と、私も今までは思っていました。サワさんはそういう人種なのだと。変わることはないと。
    ですが、変らないと思っていた人物が、変わることを最近、目の当りにしました」
リ ン「それ、当ててもいい?」
鏡 夜「わかりますか」
リ ン「レイジのことだよな? ええー? どこか変わった? レイジはいつも通りだと思うけど?」
鏡 夜「それは上辺だけですよ。失うものが何も無かったあのひとは、恐れるものが皆無でした。
    だからこそ、強かで何にも屈しなかった。でも今は少し変化しているように思います。
    死ぬことをやめて、命をないがしろにしなくなったのは非常に喜ばしいことですが、
    人は自分自身を保守し始めたとき、それゆえに戦いを避け、弱くなります。
    今まで鋼だったレイジさんに躊躇するものができたせいで、それが弱点となり、露見する。
    それはとても危険なことのように感じます。私はそれを恐れるのです」
リ ン「あー、仕事のことを揶揄しているなら俺には分からないけど、レイジは違うよ。茅野さん」
鏡 夜「違いますか?」
リ ン「うん。レイジはさ、今も昔も友達思いで、いつでも皆が困っていたら文句云いながらも助けてくれるんだ。
    もっとも俺は、ナルセの云う『もっと昔のレイジ』は知らないけど、俺が知るレイジはそうだ。
    死にたがるとこはあったけど、それはいつも二の次だったと思うよ。
    以前から、レイジは強い意思を持った、優しく頑固な天邪鬼でお節介な男だよ」
鏡 夜「頑固で天邪鬼でお節介。確かにそうですね」
リ ン「レイジのまわりには大事なひとたちがいて、それは以前も今もずっと変わらない。
    いつでもレイジは俺たちの味方だ。帰れって嫌な顏をして悪態をつきながらも、ちゃんと相談にのってくれる。
    だけどプラス、自分のことも大事にし始めたことが、レイジには今まで無かった新しい概念だと思うんだ」
鏡 夜「そのきっかけは、あのひとだと私は思います」
リ ン「うん。たぶんね。きっとマックがそれを、レイジに伝えたんだと思うよ。
    マックの想いは通じたんだなぁ。ビックリだよなァ。
    レイジは、それをゆっくりと受け取ったんだな。知らずに浸透しちゃっただけかもしれないけど」
鏡 夜「あのひとは、優しすぎて、同情してしまうところがあります。そうならいいのにと私は今も思います」
リ ン「同情ねぇ。同情にしてはリスクが高すぎるだろ。同情なんかしてやる態度じゃないでしょ、あのバカベース。
    マックはマジでバカだけど、本気で真剣にレイジが好きで、レイジを好きな自分を大事にしたいんだ。
    それはレイジに笑ってて欲しいからだ。俺はそういうアイツを好きだし、偉いと思うよ」

鏡 夜「保守的になるとは、弱さではないでしょうか。敵に弱みを握られることは致命傷です」
リ ン「そうかな? 大事な人に元気をあげたり、護ったりするには、自分が元気で、強くなくちゃ出来ないだろ。
    自分に気を配るってことは、自分を必要としてくれている相手に心配をかけさせないためにも、大事なことなんだよ。
    いつも元気にしていれば、相手もいちいち心配しないだろ? 自分のことを心配させてちゃ、相手の負担になる。
    だからレイジは、保守的になっても、さらに強くなるんじゃないかと思うけどね」
鏡 夜「……そうとは、考えませんでした」
リ ン「うそ。マジで? クールで賢い茅野さんらしくないよ。どうしちゃったんだ? スランプ?
    まぁ、ドラマとかだと、愛する家族が誘拐されたり、確かに主人公には痛手だけどさ。
    でもそんな世界に生きてないし、俺ら。茅野さんはそういう世界にもしかして生きてるとか?」
鏡 夜「いいえ。そんなハードなことはありませんよ。……今はね」
リ ン「あはは。今は。だって。あはは。聴かなかったことにしよ〜っと」
鏡 夜「レイジさんが言ったことがあります。あれは、お二人が最初に別れたときの理由でした。
    あの小僧は俺を弾除けにしてでも、自分は生き残るつもりなんだと言いました。
    そんな身勝手な奴は御免だと。あのとき、私は違和感を覚えましたが、
    それはそういう意味にとれるのですね。私ならばレイジさんを護って代わりに死ぬと答えました。
    でも彼はレイジさんをひとり残すような、自分勝手で残酷な選択はしないという答えなんですね」
リ ン「いやいや。必ずしもそうとは言えないけどね。
    本当に弾が飛んで来たらら、マックはきっとビビって逃げるよ、うん」
鏡 夜「……そうでしょうか?」

リ ン「そうだね、絶対だね。あいつは基本、ヘタレだからねー、ワハハハ。
    まぁ、たぶん、ひとりで逃げてる途中で思い出して、レイジを連れに戻るだろうけどね」
鏡 夜「上げたり下げたりするのですね。ナルセさんや、バンドの皆さんは面白い関係です。
    仲間、友達。私はそんな人間関係を今まで築いたことが無かった。難しいスキルです」
リ ン「スキルって。茅野さんには人情くさいのはちょっと似合わない感じだね。でもそれぞれで良いじゃんか。
    人生色々、ひとも色々。俺はそういう茅野さんも、好きだよ。面白いよな。心を持ったロボットみたい。
    人間ってさ、自分が面白いと感じるかどうかで、一緒に居たいかどうかが決まるとこあるよな。
    茅野さんも俺の友達だと云ってみたいけど、恐れ多くてちょっと気後れするかなぁ」
鏡 夜「そんなことを云わないで下さい。とても嬉しいです。私をリンさんの友達にしていただけますか?
    私には友達と言える人が、皆無なので」
リ ン「いないってことはないだろー。だって身近にはレイジがいるじゃん?
    レイジと茅野さん、大概じゃん。羨ましいくらいのなんとも言えない関係性だよ?
    さっきも言ったけど、レイジと茅野さんって、俺とナルセみたいな、俺とマックみたいな、
    俺とレイジみたいな、そんな感じだよ? 漫才みたいに面白い時もあるよ? ぜんぜん同じだと思うけど」

鏡 夜「……そんな、感じ、ですか? 要と私が? 同じ?」

リ ン「あはははー。いやー、茅野さんてさ、本当にユニークだよね。
    そんな世界の終りみたいな顏もできるんだねーーッ(^_^;)」






photo/R

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