All I Want For Christmas Is You
恋人たちのクリスマス


08




マック「……レイジ?」

レイジ「また酔いつぶれてるのか、おまえ」
マック「ん……。あいててて。頭、どうかしたのかな。割れてるように痛い。ちょっと見て? 今、何時?」
レイジ「割れてたら良かったのに無傷だ。今の時間は朝の11時過ぎだ。むしろもう昼だな。
    残念ながら頭痛はただのいつもの二日酔いだ。一晩で全部、飲んだのか?
    良い酒は悪酔いしない筈なんだがな。いいかげん酒に飲まれるなよ。
    鏡夜に図々しく三本もくれと言ったそうだな?」
マック「好きなのが三種類あったんだ。茅野はちゃんとくれたけど?
    でも全部飲んだから、あとは発泡酒とポン酒になったんだよ」

レイジ「ザルだな。じゃ、安酒のせいだ。おまえのツレが辛そうだったから、オマケしたと言ってたよ。
    一本はおれの傲りだが、残りの二本はキョウの給料から差し引いたから謝っておけよ」
マック「セコイですね、あんたも。……あれ? 石やんは?」
レイジ「出て行った。おれと入れ違いで」

マック「そっか……。鉢合わせたんだ。何か、言ってた?」
レイジ「まっくんをよろしくと言ってたな」
マック「なんて答えたんだ?」
レイジ「知らん、と答えたかもな。覚えてない」
マック「でしょうね。ハイハイ。でもレイジは帰らないで居てくれたんだ」
レイジ「続きも、聴くか?」
マック「え? それ以外に石やんと話をしたのか?」

レイジ「本当に来たんですね、と奴が言ったから、やりに来たんだが酔ってるから帰ると答えた。
    そうしたら自分のヤケ酒につきあってくれてただけだから許してやって下さい、と言うから、
    じゃあ仕方がないから赦してやるか、というわけで今、おれはここにいる。
    明け方に来たんだがな。おまえの目が醒めるまで、随分待った。以上だ」
マック「そんな詳細にあんたが帰らなかった理由を説明してくれてどうも。すませんね、お待たせして。
    でもやりに来たっていっちゃったんだ……石やんに」
レイジ「理由がいるんだよ。おれには」
マック「おれに会いたいのは理由にはならないんだな?」
レイジ「それ以外の理由がないと、キョウに説明できないだろ。
    あなたは何故に行くのですかって聴いてくるんだ。今さらだぞ。あいつは鋼の心臓だ」

マック「レイジは俺が男だからバレたくないんじゃなくて、ただ茅野にバレたくないだけなんだな。
    言えばいいだろ、マックが好きだから会いに行くんだってさ」
レイジ「そんなことはキョウにはバレてるから、その他の理由が欲しいのはおれ自身のためだな」
マック「レイジが必要なら、なんとでも理由をつければいいさ。
    俺とつきあってるって先輩たちの前で言ってくれた理由も、ちゃんと用意してあるのかな」
レイジ「あれはおまえがそう言って欲しいと言ってたからそうしたんだ。それだけだ。
    云わない方が良かったのか? 女好きのまっくんは同級生にはバレてまずかった?
    マズイなら撤回してもいいぞ? やりに来たとは云ったけど、どうにでもなるだろ」
マック「それが理由か? 俺がお願いしたから言ってくれた?」
レイジ「そうだよ」

マック「そうか。ありがと。ビックリしたけど嬉しかったよ」
レイジ「お礼を言われることでもないがな。どうした? 気持ち悪いな。
    こう言えば反論して食いついてくる展開だと思ったけどな」
マック「俺が思うことをぶちまけたって、レイジの解決にはならないんだろ。
    ならそれでいいよ。皆それぞれ、自分の中で理由なき結論と戦ってるんだなと思ってさ」
レイジ「それはおまえの同級生のことか? 一晩中、石うすくんと何を話した?」

マック「まぁ、恋の悩みだよ。いい歳してね。恋より深刻な話でもありそうだったけど。
    中学のとき、よくアイツとは夜中に家を抜け出して、バカな話を散々してたんだ。
    アイツの家庭は不和があって、荒れまくってたんだけど不思議とウマがあったんだ」
レイジ「元ヤンか。それで八木社長も、殴ったわけだな」
マック「それ誰? あ、あいつが殴ったエロ社長のことか? レイジはそのおっさんを知ってるのか?」
レイジ「おれと西さんが残って話していた内容には興味ない?」
マック「西さんがレイジの趣味じゃなかったなら、やっぱり示談の相談なのかな?」
レイジ「おれはああいう真面目な男は好きじゃないな。どうも考え方が堅苦しい。
    おれ自身が真面目だから、相手にするなら性格破綻者がいい。おれの好みは歴代、そうだ」
マック「わー、そうなのかー、おいら例外だったんだぁー」

レイジ「ほらな。おまえは現在、上位筆頭株主だ。おめでとう超破綻王者くん」
マック「そんな称号いりませんけど。逆にあんたが真面目っていうのに疑問視したいけどな?」
レイジ「そんなことはない。おれはマジメでお固い男だ。エトーみたいに、身勝手で人の迷惑省みず、
    好きに自由に生きられたらどんなに良いだろうと望んで、すっかり身も心も変身して、
    願いは叶った気分でいたが、実はそうでもなかったらしい。この頃、メッキが剥がれてきた。
    イライラするほど融通の利かない堅物は、所詮根本から変れるものじゃなかったようだ」
マック「全部が当てはまるとは思わないけど、それがレイジのいいとこじゃん。信頼がある。
    自分の芯は変わらないんだろ。そっちこそどうしたんだよ、いきなり反省か?」
レイジ「別に。西さんを見て、少し過去の自分を思い出しただけだよ。気にするな。
    ただの感傷だ。おまえが西さんの解決策の話を聴く必要がないなら、おれたちは次にやることに進もうぜ。
    別に関係のない話だからな。おれがわざわざここへ来た理由は説明したし、
    それともおまえは二日酔いで、できない?」
マック「できるけど、その話は石やんにも関わることだから、先に聴いとこうかな。
    これからすることはすぐに済むことでもないと思うし。
    簡単に済ませてもいいけど、インスタントなのはレイジは嫌いだろ」

レイジ「それは良かった。当然、西さんとの話を先に尋ねられると思っていたからな。
    筋立ててドラマチックな説明を考えておいたのに無駄にならなくて良かった。
    それに簡易セックスは好きじゃないが、早く済んで欲求が解消されるなら構わないぜ」
マック「お伺いするのが遅くなってすいませんね。あんたが話してくれるとは思ってなかったんだよ。
    俺はレイジが話したくない話は、聴かないことにしたんだ。レイジが話すなら聴くよ」
レイジ「話すよ? お前の友達にも関係のあることだからな。ただ関係のないことは話さない。
    だがおまえはそう言っておきながら、すぐまた言ったことを覆すんだろ?」
マック「まー、そうですね。そんな気分のこともあるよな。人間だもの」
レイジ「そういう理性のない自由さが羨ましいよ。どうやったらなれるのかね。一度講義してくれ。
    結論から言えば、おまえの同級生はクビにならずに済む」
マック「西先輩もか?」

レイジ「彼もだな。しかも、八木社長とも関係を清算できるオマケ付きだ」
マック「後腐れなく? 西先輩はそれを望んでたのか? それでいいって?」
レイジ「西さんの好きなのは、おまえの郷里の友達だろ。石うすくん」
マック「そう言ってたのか? いや、石田くんだよ。さっきから。あのさ、レイジはちょっと茅野を見習えよ。
    興味ないヤツはとことん覚えないよなアンタって。本当に俺、石ころから昇格できて奇跡だ」
レイジ「降格されないよう気をつけるんだな。興味がないと見えなくなる体質なんだ。特技かな。
    西さんがおまえの同郷に気があるのは見ればわかる。おまえは解らなかったのか?」
マック「勿論わかったよ? 俺は速攻、一発で見抜いたからな!」
レイジ「そうなのか? 鈍感なおまえが?」
マック「失敬な。なんていうか、会話に甘えを感じたんだ……。
    恥ずかしいほど二人の間に……通じ合ってるものを感じた。きっとあれは両想いだ」

レイジ「なるほどな。八木さんは、おれの裏の仕事の関係先でもあってな。関係に上下はないが、
    この世界の特定の場所では、おれの名前を出すだけで、色んな収拾がつくようになっているんだ。
    要レイジを怒らせたという噂でも出回ったら、八木さんはすべての信用を失くすんだよ。
    たったそれだけで、おれは新条社長に貸しをつくれるし、名前の使用料だけならお安い御用だな」
マック「おそろしい世界ですね。そのネームバリューの中味が、すごく恐怖ですけど」
レイジ「安心しろ。おまえには今のところ、関係ない。
    おれの名前は、色々なところで役立つんだ。破天荒な真似事をやってきた功労だな」
マック「でもただの破天荒なら敵も多いだろうけど、あんたには味方の方が多そうな気がするな」
レイジ「まぁそうでもないが、確かに実際には破綻した性格でやらかしてきたことより、
    必ず約束を守るクソ真面目さが先に立って功を成してきたこともたぶん多いだろうな。
    とにかくエトーが酷かったから、おれが天使に見えるんだろう、みんな。わかるよ。
    エトーの名を出せば、一も二もなく速攻で撃ち殺されそうなことの方が多いからな」
マック「聴けば聴くほどエトーて極悪だったんだな。そうか、やっぱりマジメで合ってるんだな。
    レイジはマジメだ。悪かったよ、疑って」
レイジ「そうだよ、おれは真面目な男なんだ。初めからそう言ってる。
    おまえみたいな、生粋の不良遊び人とは資質が違うんだよ、まっくん」
マック「わかったよ。だから、クソ真面目なレイジは、こういうことで、
    あの最中に時々乱れ過ぎると、羞恥心ですべてを抑えたくなるんだな?」

レイジ「なん……、だ、おまえが、こういう、ことを……する、からだ、ン…… まだ昼だぞ、
    明るいだろ、よせ……。なんだよ、その気になったのか? エトーの話を出したせい?」
マック「違う。でもなった。どんなこと? こう、こんなこと? 興奮するよな、レイジ……
    簡易セックスなんかで我慢できるか? できねぇよな? あんたを愉しませたいんだ。
    出会ったときよりも、レイジが果てしなく好きだ、俺……たまらなく好きなんだ」
レイジ「……ン、うるさ、い……、マック…… ア、」

マック「あのさ……レイジは、俺に入れたいとか思ったことねぇの?」
レイジ「――――。なんだ、挿れて欲しいのか? 妙な色気でも出たか。お望みならいつでもいいぞ」
マック「いや……。レイジがこれが苦痛でないなら、逆は特に望んではないけど……」
レイジ「おれが、苦痛そうに、見える、か――――? 替わってもいいが、この波が退いてからだ。
    今はダメだ。絶対にダメ。カーテンを閉めて集中しろよ、もう石うすたちの話は終わりだ……。
    マック…… おれは今、おまえのが、喉が渇くほど欲しいんだ―――――」

マック「レイジ――――」




photo/R

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