All I Want For Christmas Is You
恋人たちのクリスマス


01




石 田「まっくんやなか?」

マック「え?」

石 田「そうや、まっくんたい! 川野やろ? まっくん、変っとらんね!
    俺たい! 覚えとらん? 中学校で同じかクラスやった、石田ばい!」
マック「あっ! えぇー?! まさか石やんか?! へぇーッ、懐かしかー!
    こがんとこで会うっちや、何年ぶりやっか! どげんしとったと?!」
石 田「いやー、こがんゆうても俺、東京に住んどるけんなぁ」
マック「え、そうなんか? 俺も東京に住んどるけん」
石 田「え! そうなんか? まっくんも?! すげぇ奇遇じゃけんな!」

西先輩「おいおい、石田よ。いい加減にしとけよ。方言禁止だって言ってんだろ。
    お互い東京モンなら田舎語で喋らなくても良いだろが?」

石 田「や。すいません、西先輩。つい懐かしくてお里言葉が自然に出ちまった。
    えーと、まっくん。こちら俺の……会社の先輩で、上司の西さん。
    西先輩、こっち俺の郷里の同級生で、川野くんです」
西先輩「西です。よろしく。田舎語なんて失礼を言って申し訳ないね。
    ただコイツに言葉、いい加減慣れさせないといけないんでね。川野さんは東京、長いの?」
マック「はぁ。なるほどなるほど。わかりますよ。田舎者は言葉で舐められるからね。
    早く標準語に慣れないとね。まぁ俺はね、十年は経ってないと思うくらいですね」
石 田「そうかー。先輩だな。俺は転勤して一年くらいなんだ。結構慣れてきた思うと……てるんやけど。
    でもまだ発音がおかしいって先輩に注意されるんだよなー。
    スパルタなんだよ、西先輩。今さは、ちょっとくらい九州の方言は可愛か?」
西先輩「おまえがテレビCMのズスちゃんならカワイイとも思うけどな」
マック「やー。ハハハ、俺もたまに変だって言われるよ。何年経ってもね」
石 田「そうかー、やっぱ簡単には抜けんと。まっくん、今仕事は何やってんの?」

マック「えー、まぁ……。なんかこう、フワフワっとかな。お固くはないというか。
    きちんとした会社にお勤めじゃなくて、水商売的なサービス業?
    石やんはサラリーマンだよな? スーツだ。見るからに? 出世した?」
石 田「出世はしとらんけどな。まさか、まっくんホストとか? 昔からガチ男前だったからなぁ。
    大人になってもやっぱ変らず男前だよなー。同じ年なのにやけに若く見えるなぁ」
マック「いや〜、照れるじゃん。若いってはよく言われるけど。男前もよく云われますぅ。
    ホストってこの歳でそこまでずうずうしくはないけど、似て非なるかな……。
    詳しくはwebで。いや、詳細は聴かないで下さい」
石 田「俺もさ、一応会社員だけどデザイン寄りの商品企画部だからちょいヤクザな商売ともいえるかもな」
マック「おお。デザイナーさんか? 石やん、手先が器用だったもんな」
石 田「いや、発注かけたり提案する側だよ。デザインは挫折したんだ。向いてなかった」
西先輩「ところで川野さん、こんなとこで立ち話も何だし、今から何か用はあるのかな?」
マック「用事? ですか?」

西先輩「予定が無かったらだけど、これから一緒に俺たちと飲みに行かないか?」
石 田「えっ、いいんですか、先輩?」
西先輩「いいだろ。せっかくこの広い都会の中で、郷里の友人に会えたんだし、
    どうせ今から二人で飲みに行くとこだったし、人数は多い方が盛り上がるだろ。
    もっとも、川野さんの予定と都合次第だけどね」
マック「あー俺、そうですね。いいですよ。お邪魔でなければ。
    今日は仕事オフになっちゃって、フラフラひとりで飲みに行こうと思ってたとこだから」
西先輩「それは良かった。よーし、なら決まりだな。
    実はちょっと変った店に行くとこでね。お得意先のご希望で、接待の下見を兼ねてなんだ」
マック「へぇ。接待の店か。けど高級料亭か何かだと俺、服装のTPOが……」

石 田「大丈夫、大丈夫。今から行くとこはそんな気取った店でもないらしいからさ、ね?」
西先輩「特殊なジャンルなんだ。あまり一見が行く店でもないけど、気取った店ではないよ。
    一応、今日は三軒ほど回るんだ。ただ最後の店はもしかしたら少し高級かもしれないけどね。
    まぁでもその恰好くらいなら、たぶん大丈夫だろ」
石 田「そうそう、そこはさ、俺らの業界では今、ちょっと話題の洒落た大人の隠れ家的な店なんだよ。
    取引先のダンディ社長が行きつけの高級クラブで、一見が誰でも入れる店じゃないんだと」
マック「つまり会員制ってこと?」
石 田「表向きはそうじゃないけど、初回は常連客の紹介がないと、絶対に入れない店なんだ。
    そこのマネージャーは一度みた客の顏は忘れなくて、次からは顏パスで通してくれるらしいぜ」
マック「へぇー。高飛車な店が多いよな、都会はさ。気取ってるよな。バブルっかての。
    俺もそういう、す〜ぅごい気取った店、いっこ知ってるなぁ。
    そこは支配人がオッケーっていえば、誰でも入れるけどな。しかし五万とあるよなそういう店」
西先輩「実は社長に俺は以前、連れて行って貰ってるんだが、かなり前だし覚えられてる自信がないから、
    今回は社長の紹介で予約をお願いしといたんだ。後輩を連れて門残払いは嫌だからな」
石 田「え。先輩、もうすでに行ってたんですか?! ズルいですよ!」
西先輩「だから今日、一緒に行くだろ。でもその前にまず、最初の一軒めに行かなきゃな。
    この界隈では有名な、オールディーズの生演奏をメインで聴かせてくれる店だ」
マック「えっ?! オールディーズを?!」

西先輩「お。川野さんは知ってる方かい? オールディーズ。さすがだなー。
    見習えよ、石田。同じ年なんだろ? 石田はオールディーズを知らなくてさ。
    コイツ、世間知らずだよな。懐かしの洋楽アメリカンポップスを知らないなんて」
石 田「先輩、酷いですよ。よくテレビのCMとかで聴く曲でしょ? 古い時代の曲。スタンドバイミーとか。
    初めにそう言ってくれたらわかったのに……。でも俺、先輩とは年代が違うんでぇ。
    俺の懐かしのアメリカンなポップスは、ボンジョビっすよ。な、まっくん?
    でも何でお前はそんなの知ってんの? そういうの好きだったっけ?」
マック「はー、まぁその時代を聴くくらいは嗜みだよね、チミ。だから田舎者と云われるのだよ。
    つーかおまえ、ボンジョビ好きだったんだね。それで……どこの店へ?」

西先輩「やっぱ、老舗はシックスティーズって店なんだけどね。行ったことある?」
マック「い、いいいいいえ。生演奏の店はちょっと……」
西先輩「有名なライブハウスだせ? ボーカルがメチャメチャ上手くてさ。歌も音も最高なんだよな。
    昔に一度だけ連れてって貰ったんだけど、ステージがビシッとカッコ良くてねぇ……。
    あれは大人の音だったよな」
石 田「えー、先輩、全部もう行ってるんじゃん!」
西先輩「全部は行ってないぜ。社長とご一緒した時、ルート的に決まってたんだよ」
マック「そ、その店に、行くんですか??」
西先輩「いやいや、それがさ。今日は貸切でやってないんだよ。残念だよな。
    忘年会シーズンだからな。しょうがない。
    せっかく世間知らずの石田にオールディーズのなんたるかを教えてやりたかったのにさ」
石 田「だーから、世間知らずっていうか、世代の問題でしょう? な、まっくん。
    でも音楽に厳しい先輩がそんなに良かった云うなら、やっぱり残念だなぁ」
西先輩「だろ? 本当に良い演奏なんだよ。おまえにもあれを聴いて欲しかったよ。
    でも次にお勧めの店に行くから安心しろよ。そこはコリンズって店で……」
マック「ひッ、コリンズ?!」

西先輩「あれ。やっぱりひょっとして川野さんって相当知ってるひと? そういう音楽とかの店?」
マック「いやいやいや、お客さんからの噂で聴いたことはあるって程度ですぅって感じですかね……アハハ」
石 田「なんだよ、知識だけの知ったかぶりかよ、まっくん」
マック「やー、田舎者の癖、抜けなくてなーアハハハハハ!!」

西先輩「そこもなかなか良い曲をやるんだよ。こっちは二回ほど行ったかな。
    社長に連れて行って貰ったあと、気に入ったんで曲の趣味が会う連中を誘って行ったんだ。
    イーグルスのホテルカりフォルニアとか、ビートルズも結構やるんだ。いいぜぇ」
石 田「あ、ビートルズなら、俺でも解りそうかもしれない♪」
西先輩「でも中に入って驚くなよ? 老いも若きもお客がフロアでバリバリ踊ってる世界だからな。
    ちょっと初めは引くかもしれないけど、結構、慣れたら楽しいぜ?」
石 田「えー、老齢ディスコなんスか?」
西先輩「70歳くらいのお爺ちゃんが、ツイストでブイブイいわせたりするスゲェ世界だよ」
石 田「マジで? それ、笑える……」
西先輩「いやいや、昔取った杵柄なんだろうな。ちょっと異質だけど、笑うのは失礼だ。
    紳士の嗜みって感じだ。俺も初めての時は苦笑ぎみだったけど、途中で思い直したんだ。
    歳をとっても楽しく踊れるって、カッコイイ生き方だよなって思うよ」
石 田「そりゃ、すげぇですけどねー! まっくん、楽しみだな? 未知との遭遇だぜ?!」
マック「ハハハ、た、楽しみだなー?」



photo/R

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