星に願いを
When You Wish Upon a Star

04
June

登場人物:レイジ/マック/リン
場所:ピアノマン




レイジ「で? ここは出来損ないミュージシャンの中二病お悩み相談室じゃないんだけどな?」

マック「真剣なんだよ、レイジ。冷たいこと言わないで、リンを助けてやってくれよ」
レイジ「冗談じゃないぞ。帰れ。うちは幼稚な精神的未成年者は、来店禁止だ。シッ、シッ」
マック「犬扱いかよ。そんなこと言うなよ。リンがステージでミスするくらい、悩んでるんだぜ?」
レイジ「リンが悩んでるのは、パンツを脱ぐ速さだけだろ。リンのパンツの悩みはもういい」
マック「でも、その相手が男だった場合には? どうしたらいいんだ?」

レイジ「なんだって? リンが男を? ……訊こうか、話を。
    大人の苦い恋バナは、真夜中の止まり木のアクセサリーだからな。さ、よし、話せ」
マック「あ、食いついた。けど、なんだか恋の悩みじゃないんだってさ」
レイジ「恋の話じゃない? 肉体的な生理的な欲望の話なのか? リンが男相手に? 女装の麗人か?」
マック「女装はないと思うぜ。ちょっとハッキリしないんだよな。どうなの、リン?」

リ ン「……二人とも、なんだか楽しそうだよな? 面白がってるのか?」
レイジ「そうだけど? 面白くないわけないだろ。小僧だって、だからここに来たんだろ?」
マック「いや、レイジさん、それは違いますよ。誤解です。失敬ですよね。
    僕は面白いとか不謹慎に思ってるんじゃなくて、非常にワクワクする興味があってですね……」
レイジ「同じだろ。それで? その相手は、誰なんだ?」

リ ン「……マックが……。ラブホでヤリ損ねたヤツだよ」
マック「げッ?! そういう云い方はどうなのかな、リンくん!?」
レイジ「ほほう。そうか。サワか。サワなのか。サワね。おまえとサワ?
    それは面白いな。そりゃ小僧がそわそわするような興味も出るわけだ。
    それで小僧は嫉妬心から、この真実を正に暴きたいってわけなのか」
マック「えええ?! 嫉妬心てどういうこと?!」
リ ン「案外そうなんじゃないかなー。まだマックは、サワに未練があるんだと思うよね……」
マック「どへ!? 急に何を云うとるばい、リン!!」

レイジ「へぇ。そうなのか。なるほどな。小僧はサワに未練が、ね」
マック「い、いや、ねーよ!! あるわけないだろ! リリリンさん!?」
リ ン「なんとなくマックの食いつき方が、普通じゃなかったと思ったよね……」
マック「オイオイ、てめぇ、こんなとこで裏切る気か、ここで報復に出るのかよ?
    分かったよ。ちゃんと真剣に聴くから、俺を陥れるのはやめてください、リンさま神さまナルセさま」
リ ン「ホントか? 真面目に俺の話をちゃんと聴く?」
レイジ「おれはどっちでもいいぞ。どっちでも関係ないからな。
    でも小僧がサワに未練があるなら、気になるだろうから、リンとの関係をはっきりさせようぜ?」

マック「リーーン? これでこっちが拗れたら、お前のせいだからなァー? とんだとばっちりだ!!」
リ ン「そんなのお前の日頃の行いのせいだろ? 俺だって、解らないんだ。
    解らないけど……アタマが、なんだかぼんやりしちまうんだよ」
レイジ「状況を話せよ。さっぱり話が解らないだろ。ただの酒の事故なのか? お互い、酔ってた?
    それとも小僧を襲った時みたいに、サワが正気で、おまえに食いついてきた?」
マック「いちいち俺を例に出さなくていいだろー。んだよ、しつこいなー」
リ ン「俺とサワは、友達なんだよ。あいつはゲイだけど、俺はそうじゃなくて、女子が好きで……。
    俺自身もサワの好みとは、ほど遠くて、まったくお互いにそういう関係じゃないんだ。
    あいつは、けっこう、俺のイイ意味での口喧嘩の飲み友達的なとこもあって、気の合う悪友っていうか……」
レイジ「で? それがどうなったんだ」

リ ン「こじれてたんだ。サワが……新しい男と。最近、つきあってたガタイの良い男だよ。
    いつだってあいつの自業自得なんだけど、ちょっとしつこい系統の男で、サワが困ってたのは知ってた―――」
レイジ「それで、おまえが美人局的な役割で、諦めさせた? サワはそんなことをおまえに頼んだのか?」
リ ン「違う。頼まれてない。偶然、雑居ビルの合間で、居合わせただけなんだ。目撃したって感じ。
    俺は音楽仲間と飲みに行ってた帰りで、結構、酔ってたから気も大きくなってて、そしたら、
    人の争う声がして、サワが、殴られて路地で男に抑え込まれてて、シャツはボタンも飛んでて、
    それで、その、なんつーか……」

レイジ「犯られてたのか」
リ ン「……そう。まさかのケツに突っ込まれてた……信じられない光景だった。何の悪夢の芝居かと思ったよ。
    でも芝居じゃなかった。俺、初めて生で見た。驚愕だった。ああいうの…… 男同士の…… ナニ?」
マック「マジか。男の青カンレイプって壮絶だな。都会って怖いとこだ。無法地帯だな。気をつけよ」
レイジ「女性の強姦現場だって見ればショックに決まってる。
    正義感の好青年リンは、もちろんサワを助けに行ったんだろうな?」
リ ン「勿論、助けに行ったさ。相手をボコボコに殴ってやった。半殺しにしたかもな……。
    サワはあんなでも、俺の友達だからな。ダチが襲われてて、見ぬふりはできない。
    サワは明らかに嫌がってたんだ。それで俺はドタマが沸騰して怒りが湧いて、男を一心不乱に殴ってた」

レイジ「サワは? サワは無事だったのか」
リ ン「放心してたけど、男をボコッてるのが俺だって分かって、止めに入った。
    ヤラれてたサワの方が、俺よりも遥かに正気だったね……」
マック「なんかドラマみたいな展開だなー。でも、なんでそれでサワとキスすることになっちゃうんだ?
    まさか、サワのそんな乱れた姿みて、リンは欲情したわけでもないよな?」
リ ン「欲情なんかするわけねぇだろ! ふざけんな!! サワは酷い目にあってたんだ!
    ……恐ろしかったよ。俺は。友達が、目の前で、殴られて、ナニをケツに突っ込まれてるんだぞ。
    あり得るか? 女なら百歩譲ってあるかもだけど、男友達だぞ。
    あとでナルセと豪も、レイジたちも、ああいうこと普通にしてんのかと思ったら、
    凄くブルーな気分になったっつーんだよ……。想像するのと見るのでは違いすぎだよ」
レイジ「リン。レイプとセックスを混同するな。まったく違う。おまえが見たのは、ただの暴力だ」
リ ン「……うん。ああ、そう、だよな。あれは暴力だ。酷い現場だった。とにかく最悪だったんだ。
    あんたたちとは、違うよな。ごめん。混乱した。俺が見たのは、卑怯で卑劣な暴力だった。
    殴られてるダチを助けることなんか、いくらもあったけど、正直、あんなシーンでなんてないし、
    俺、サワになんて声かけていいのか、戸惑って、わかんなかったんだよ……」





NEXT 05