Mr.moonlight
ミスター・ムーンライト

03


登場人物: マック/レイジ
場所:豪の高層マンションの近所





マック「はー、驚いたな。まさか豪が、帰ってくるとはな。
    ……あれ、前もこんなことあったような? デジャブ?」
レイジ「デジャブじゃないだろ。
    前はおまえが、ナルセといちゃついてて、豪にパンチを食らったんだろ。
    良かったな、まだ3P を始める前で。おまえ、今度こそ豪ちゃんに殺されてたぞ」
マック「だから、そんなのしないし、してないって。恐いこと言うなよ。
    ……あいたた、気のせいか殴られたときの腹の痛みが、甦ってきた。
    どうする、レイジ。こんな夜中に、二人して追い出されちゃったな?」
レイジ「まぁ、あれじゃしょうがない。三人じゃ、どうせ朝まで飲んだくれるのがオチだし、
    下手に酔っぱらって、三人でそれこそあんなマネがエスカレートしたら大問題だ」
マック「いやー、それにしても、スリリングな夜だったなー」

レイジ「……まぁな」
マック「え、今、同意した? 俺、あんなことして、怒られると思ったんだけど、
    まさかレイジが、あのままノッてくるなんてさ……」
レイジ「止められる状態じゃなかっただろ。ナルセも本気で寝てると思ってた」
マック「へー、俺と早くしたかったから、ナルセが邪魔で機会を狙ってたんじゃねーの?」
レイジ「……そうだな」

マック「へ?」

レイジ「そうだな」

マック「ど。ど、どうしたんだ、レイジ。――――やっぱり怒ってるのか?!」
レイジ「怒ってない。どうしてだ?」
マック「いや、だって、なんか、アレだろ……その、そんな意味深な返事されたんじゃ、
    調子が狂うっていうか…… 戸惑うよな、俺が」
レイジ「どんな返事?」
マック「いや、俺と……早くしたかったって、意味にとれたから」
レイジ「そう言った。おまえがあんなキスをするから、ちょっとその気にはなった。
    だが、冷静になるとあれはないよな。おまえといると、おれの理性が外れる。
    おまえはキケン人物だ」

マック「マジで。レイジは俺を興奮させるセリフを言って、煽るのハンパないよな……」
レイジ「おまえが単純すぎるだけだろ。おれは、欲求に忠実なんだよ。
    痩せ我慢をして、無駄な時間を過ごすのはやめたんだ」
マック「どうして、やめたんだ?」
レイジ「おまえ相手に我慢するのが無理だからだ。動物並みだ。すぐ欲情する。性欲の奴隷だ。
    なぁ、おまえのマンションは、ここから近いか? マック―――?」



マック「……ここから、おれんち、シックスティーズを挟んで反対方向だから、歩いて、2、30分くらいかな……
    レイジ…… 歩いて、帰る? どうしようか……」
レイジ「―――月が、明るいな。いくら夜中だとはいえ、こんなところで、
    男二人がこんなふうにキスしてるのは、ヤバくないか…… マック……」

マック「だったら、自分からやめたらいいだろ……。
    何も素直にされるまま、俺に応えなくても、いいんだぜ、レイジ?」
レイジ「言ったよな? おれは今、欲求に忠実なんだ。リードはおれだ。勘違いするな。
    おれが近くの公園のトイレで、コトを済ませたがらない内に、
    おまえは自宅に帰る最善の方法を考えたほうが良いんじゃないか?
    公衆トイレで済ませたことあるか? おれは手慣れたものだ。 
    こんなところで、ロマンチックにキスを交わしてるとは、余裕だな?」

マック「ストップ。OK、わかった。恐ろしげな脅迫をしないでくれよ。
    俺、そういうのは解んないんだって。元からのモノホンじゃねぇからさ。
    レイジさんを甘く見てたら、痛い目に合うのは、たぶん俺の方だよな?」
レイジ「分かってるじゃないか。
    おれだって、できればこの歳になってのハッテン場は避けたいよな?
    だったらさっさと、表通りでタクシーを停めてこいよ、ボウヤ」

マック「かしこまり。少々、こちらでお待ちください、ご主人様」



★★★



レイジ「―――つかまえたか?」

マック「ぜんぜん無理。この辺、この時間じゃ、あんまり回って来ねぇんだよな……。
    近場で乗るヤツ、敬遠されるからさ。やっぱ、歩いた方が早いって」
レイジ「そうか。ちょっと夜風に当たったら、欲も萎えてきたな。
    そんな気分でもなくなった。……帰るかな。
    鏡夜を呼ぶか。迎えに来させる。おまえも一緒に乗って帰れよ。送ってやる」
マック「!!!!」

レイジ「嘘だよ。本気にするなよ。なんて顔してる。笑えるな。
    歩こう、おまえの家まで。もう慣れっこだ。
    最近はおれも、散歩が得意になった。オーナーの趣味に追加してある」
マック「嘘って。酷いな、レイジ……。心臓が止まるとこだった」
レイジ「大げさだな」
マック「俺、茅野鏡夜恐怖症なんだ。毎日、刺されるんじゃないかと脅えてる」
レイジ「鏡夜は、刺さない」
マック「本当に?」
レイジ「ああ。目撃者がいるところではな。あいつは完璧だ。下手なことはしない」
マック「やっぱ暗殺されるんじゃん、俺。茅野、こぇぇ〜」






レイジ「月が、きれいだ。やけに大きいな」

マック「ああ、今年の十五夜もスーパームーンだって、お客さんが言ってたよ。
    去年は、京都の月見会にレイジは行ったから、一緒には見れなかったよな」
レイジ「別におまえと今年は一緒に見るって、約束をしたわけじゃないぞ。
    ナルセの久しぶりのお誘いだったから、おまえはついでだ」
マック「ハイハイ。そうでしょうね。約束はしてません。
    そうだ、月といえば、ラディスは元気か? かれこれ一年だよな」

レイジ「あいつは元気だよ。忙しくて、世界を駆け回ってるけどな。
    あれでも大手美術商のやり手若社長だからな。結構、本人に会うには至難の御仁なんだぜ」
マック「えー、そうなんだ」
レイジ「サインを事務所でするばかりの俺とは、大違いだ。現地の直接交渉は、楽しそうだよな。
    でもシンちゃんと契約して日本での商談はあっても、いつも代理人ばかりが来てるよ。
    たまに泣き言メールが届くが、無視してる。甘やかすと調子に乗るからな」
マック「ふーん。そういや、シンちゃんは、こっちに今、住んでるらしいな。
    ちょくちょくシックスティーズに来るんだよ。お客さんも連れてきてくれるんだ。
    それでそのひと達が、また別の客を連れて来てくれる」

レイジ「そうか。ありがたいな。シックスティーズは、相変わらずなんだろうな。
    最近、行ってないよな。新しい曲は上げたのか?」
マック「レイジも、なんだかんだと忙しいよな。
    あんたに聴いて欲しかった『クリスタルの恋人たち』も、やっと完成して、
    最近は、最後のステージでよくやるよ。最終にふさわしい曲だって評判だ。
    それと組み合わせで、続けてワッツ・ゴーイング・オンも演るんだ。
    わけあって、まだインストだけどな。ナルセがまだ、歌いたがらない」

レイジ「そうなのか。そういや、聴きに来いって招待状を、結局、無駄にしたよな。
    演奏すると言ったのは、七月だったか……。随分と前だ。一年なんかあっという間だな。
    ヘミは、ジュウリにプロポーズできたのか?」
マック「ああ、伝わってたみたいだよ。あんまり知らねェけどな。詮索するのも、アレだし。
    人の色恋、犬も食わない。あれ、違ったっけ。直接、訊いてみたら? 幸せそうだぜ、ヘミは」
レイジ「あの招待は、おまえからの誕生日プレゼントでもあったのに、悪かったな」

マック「いいよ。そんなの謝るなよ。来てくれたらラッキーくらいに思ってたんだ。
    どの客も、次も来るっていいながら、なかなか来ないからな。
    でも来てくれた時は、やっと来れたんだって、また次も来るからって、
    ステージを見てから、良かったって握手までして帰ってくれる。初めてのお客もそうさ。
    そういうの、嬉しいよな。バンド冥利に尽きるってやつだ。
    だから次、来てくれた時に俺たちは、より最高の音をみんなに聴かせるだけだ」
レイジ「そうか。シックスティーズの客層は良いよな。ピアノマンでも、よく評判は聞く」
マック「ベースのあのひと、カッコイイ〜♪ とか、言ってない?」
レイジ「それはないけどな」
マック「ちぇ。近頃、ニノがやたらとセクシー番長でモテてるんだよな〜。
    ホットスタッフとかさ、ニノのギター、アドリブをガンガン入れて来て、
    俺の音を聴けって感じで、派手にバッキング・プレイやってさ、
    惚れ惚れするくらいメチャメチャ、カッコイイんだよなぁ……」

レイジ「でも」

マック「うん?」

レイジ「でも、おれはベースが、カッコイイと思ってるぜ」
マック「!」
レイジ「お世辞じゃない。マックのリズムラインは揺るぎがなくて、安心して聴いていられる。
    どこのステージでも、曲の土台が安定してないと、アドリブだって巧くは聴こえない。
    シックスティーズはそれで云うと、どこの店よりもリズムが正確だ。
    セブンレイジィロードがオールディーズの王者と言われる所以は、そのせいだ。
    多少それぞれの楽器が遊んでも曲が壊れないのは、ベースを弾くヤツが良いからだ」

マック「……」
レイジ「照れたのか?」
マック「照れるさ。当然だろ。レイジは、ズルいな。……時々、おれに飴を用意する。
    痛い鞭と甘い飴。俺はどう答えていいか、わからない。
    だけど、ただ、ベース・マックのスキルを誉められてるんじゃなくて、
    こうだったらいいのに、って思ってる」
レイジ「どうだったら良いって?」

マック「今のがピアノマンのオーナーのセリフだったら、最高の褒め言葉だよな。
    大事なシックスティーズのお客だから、ありがたくて、嬉しい。
    だけど、俺の隣にいるレイジの言葉なら、レイジが俺に惚れてるから、
    俺のベースが好きなんだって、……思いたいかな」

レイジ「……」
マック「なんちゃって」
レイジ「おまえに、俺は惚れてる―――と、
    月夜のリップサービスで、たまには譲歩してやってもいいけどな」

マック「口先だけのサービスなら、嬉しくないよな。本当でないとやっぱりさ」
レイジ「お月さんの前では、真実を語らない方がいいって云ったよな?」
マック「そうだっけ?」
レイジ「満ち欠けは誠実とは、ほど遠いだろ。言ったことはもう数日後には、形を変える。
    おれの言うことなんか、所詮都合の良いビジネストークと変わりない」

マック「レイジと俺は、ビジネスな関係じゃないよな?」

レイジ「そうとも言えるし、そうとも言えないな」
マック「俺がステージにいて、あんたがフロアにいる時は、演奏者と客だよな」
レイジ「そうだな」
マック「だけど、俺に足を開いて、俺自身を挿れさせてくれようとするあんたは、
    月の光の逆光で、最高に妖しいレイジは、俺の……何だろう?
    俺は、月光の下、いつまでも夢をみてるような気分になるんだ。
    この月夜はいつも幻で、一瞬にして消えて無くなるんじゃないかって、思う」
レイジ「……考えてみろよ。おまえの、その自身で。おまえのソレは、信じられるモノか?
    少なくとも、いつだっておまえに忠実だ。頭で考える言葉に答えがあるか?
    夢を見ているなら、尚更、頭で考えても無駄だろ」
マック「つまり、早く、家に行こうってことだよな?」

レイジ「答えは出てるだろ。元々思いつきで始めたことだ。飽きるまでのつもりだった。
    だけど―――まだ、続いてる。自分でも不思議だが、夢じゃないなら、現実だ。
    もちろん、現実である保障もないけどな。それでもいいなら、続けよう」

マック「さきの話を以って、月の下でされる告白って、信じていいかな?」

レイジ「さぁな。捉え方は自由だが、きっと信じない方がいいだろうな」
マック「またそんなイジワルを言う」

レイジ「ナルセは今頃、絶頂かな。豪はかなり凄いらしいぜ。
    スーパームーンを背にヤルのは、なかなか盛り上がりそうだ」
マック「あんたも、天井を背にすれば、月光を浴びられる。
    この時間だと、もしかするともう、窓からは見えない位置かもしれないけど。
    俺は豪に負けてるつもりない。豪がどんなかは知らないけどな。
    やっぱり、ちょっと見てから去れば良かったかな……。
    俺の部屋の無駄にオシャレな天井窓が、役立つとはこうなるまで思ってなかった。
    レイジの細かい傷跡のある陶器のような肌は、月灯りが似合うよな」
レイジ「傷ものの陶器は、歴史があるんだ。奥深い物語が、眠ってる。
    そうっと、大事に扱うことが、重要だ。素人には扱いは無理だがな。
    ものによっては、吐息がかかるだけで、バラバラになるものもあるからな」
マック「ほんとに? 息を殺さないとダメ? 慎重に、壊さないようにしなくちゃな」
レイジ「おまえは、たいていが雑だから、骨董品には不向きだよな」

マック「ええッ!? それ、否定?!」

レイジ「吐息がかかる距離だけで、壊れる――― そういう意味だ……マック」






―――参るよな。
要するに、いつもこんな調子だ。

俺の半身自身の、制御が壊れるのも、このせいなんだ。
人目も憚らず、キスしてしまうのも、このせいなんだ。

憎たらしくて、愛しいレイジ。
真意不明な、謎めいたレイジ。

不誠実だって云う月灯りの下で、俺を誘惑するんだ。
レイジの口説き文句には、いつもヘナヘナのメロメロ。
骨董ロマンは、奥深いよな。







マック「なぁ、レイジ。帰ったら、お願いがあるけど」
レイジ「なんだよ」
マック「……最中に壊してって耳元で囁かれたら、すげぇ、俺、燃える」

レイジ「百均の皿でも、投げてろ、バカ」





知らねェの、レイジ。
百均の皿って、意外と丈夫なんだよな。
あれっ?
なんか、骨董品より百円皿の方が、愛着あるな。


……え、俺みたいだって?
マジか。

photo/ako


mr. moonlight
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・:♪◆END◆♪:・
≪2015 月夜とハロウィンナイト≫


参考:咲子の妄想日記2015.09.23付