Just the two of us


01
5月14日 PM.05:30


登場人物:レイジ/マック
場 所:マックのマンション部屋





レイジ「いるのか? マック」

マック「あれ、レイジ? どうしたんだ。
    えっ、まさか約束の時間、間違えてたか?!」
レイジ「そうじゃない。どうせ遅刻するおまえを待つのが面倒になったんで、迎えに来た」
マック「はぁ? 俺の遅刻を前提って酷くない?」
レイジ「いつも時間通りに来ないだろ。何だよ。起きたばかりか?」
マック「いいや? 眠そうにしてる?」
レイジ「後ろの寝癖が酷い」
マック「マジで。三時には起きてたよ。身支度はこれからするとこだったんだ」

レイジ「昨日もアルーシャに出てたのか」
マック「うん、ヘルプだ。明後日からシックスティーズも始まるし、
    ヘルプは昨日が最後だったんで、皆がサンキュー打ち上げ会をしてくれてさ。
    休んでたベースの奴も途中で合流して、アンプの話で盛り上がって明け方まで飲んでたんだ」
レイジ「ふうん。サワもか?」
マック「うん。でもサワは早めに帰ったよ。
    あ、別に浮気してないからな!? 心配しなくていいよ」
レイジ「そんなことまったく心配してない」
マック「ちぇ。ちょっとくらい心配してくれてもいいじゃん。そんなのしないけど」

レイジ「わかった。確かに浮気をされてると困るな。病気をうつされるのだけは我慢ならない。
    女の口紅を調べるように、サワとの証拠を昨日のシャツで確認するか。
    昨夜のシャツを、出せ」
マック「マジで? 嬉しくて泣きそうだけど、洗濯機に放りこんであるから相当の覚悟がいるかも」

レイジ「おまえは、バカだよな」

マック「それ、何回目?」
レイジ「自分で数えてろ。おれの云うことを何でも正直に信用してるんだから、
    本当にバカだろ。感心するくらい、おめでたいバカだよな。表彰しようか」
マック「もしかして誉められてるのか?」
レイジ「ほらな。やっぱりバカだ」

マック「皆からバカバカ云われると、本当にそうかなって思うよな」
レイジ「じゃ、本当なんだろ。皆は正しい」
マック「それじゃあ、レイジは信用ならない男ってことなのかよ?
    嘘つきで正直者じゃない?」
レイジ「そんなことはない。それは違うな。おれの業界でいちばん大事なのは信用だ。
    誰も騙したりしない。イカサマは嫌われるからな。みんな笑顔で、商談成立だ」
マック「それならいいじゃんか。そのフレーズ、すげぇ胡散臭いけど……。
    でもそれが本当なら、俺のことも騙してないよな?」

レイジ「それがおまえのバカなところだと言うんだ。
    信用できる男と信じたらペテン師なのは、よくあることだ。過信するな」
マック「なんだそれ。意味わかんねぇ。どっちにしろペテン師に答えはないんだろ。
    あのな、俺が何故レイジを信じてるかと言うと、やっぱ素直な反応のせいなんだよな。
    めちゃめちゃイイ時、入るのを焦らすとレイジはさ―――って、いてっ」

レイジ「そういうとこが程度低いっていうんだよ、侮辱するなら法的に戦う姿勢はあるぞ。バカが」
マック「あ、また言った。いいじゃん、俺のイイとこ、そこだけなんだから」
レイジ「まあ、確かにな」
マック「いや、そこを肯定かよ。もっと他にも俺の良いとこ探してくれよ」
レイジ「そうだなぁ。いいとこ、いいとこ……マックのイイとこ……な」
マック「一応は探してくれるとこが、レイジの優しいとこだよな。もう騙されてても良いよ、俺は。
    それにどんな仕打ちも別に怒ったりしませんよ、特に今日はね。
    この特別な日にレイジは俺と過ごしてくれるわけだし、俺はバカだと百万回云われても幸せです」
レイジ「特別な日? 何の日なんだ、今日は」

マック「……え? 今日って、えっと、誕生日……じゃ、ねぇの?」
レイジ「今日が? 誰の?」
マック「えええッ?! 今日、5月14日はレイジの誕生日だって……!
    だって、ナルセが言ってたんだぜ!? ナルセのヤツ、嘘ついたのか!
    なんだよ、もう〜、どういうことだよ〜、今年は誕生日を一緒に過ごせると思ってたのに、
    歓んで損しただろ〜〜」
レイジ「ナルセが? 何でナルセにおれの誕生日なんかを訊くんだよ」

マック「だって、レイジは訊いても教えてくれないだろ」
レイジ「教えないって? おれに訊いたか?」
マック「……訊いてない」

レイジ「何故、訊きもしないで、おれが教えないと思うんだ?
    それはおまえの勝手な判断だ。勝手な判断は、命取りになることもある」
マック「命まで盗られるような誤解じゃないだろ。じゃ、正しい日にちを教えてくれよ?
    だって、直接訊いたら、警戒されそうだったからさ……」
レイジ「誕生日を訊いて、警戒されると思うなんて、何か悪用することでも考えてるのか?」
マック「まさか! そんなわけないだろ。そんな恐ろしいこと、レイジ相手にできないだろ!」
レイジ「そうだな。気安く生年月日なんかを、他人に教えると危険だ。
    セキュリティが甘いのは、機械じゃなく自分自身だと知る必要がある。
    何かを貰えるからとアンケートにホイホイ答えてると、ろくなことにならないぞ」

マック「個人情報くらい、試供品に替えてもいいさ。どうせ自分で垂れ流してんだからな。
    みんなで共有したがるのが、良い証拠だろ。だったら何かと引き換えてた方が納得できる。
    血液とジュースを交換して、人類を救えればハッピーだよ」
レイジ「ふうん。気前がいいな」

マック「いやそうじゃなくて、そもそも他人じゃないだろ、俺たち」
レイジ「兄弟なのか? それは知らなかったな」

マック「違うって。ナニそれ。どういうユーモアセンス? 面白くないし。
    そうじゃなくて、深い仲じゃん。恋人でもないし、もう愛人でも無くなったけど、
    プレゼント渡す日くらいは、知っていた方がいい仲だろ。違うか?」
レイジ「そんな仲があるのか? 深いってどれくらいだ?
    だいたいプレゼントなんかいらない。去年もそう云わなかったか?
    去年はおれの本来の誕生日を過ぎてから、欲しいものを尋ねてたよな、おまえは?
    しかも誕生日はすでに終わってるのに、自分の都合良い日にオメデトウと云いだしたんだ。
    そうだ。冷静に考えたらおまえって、本当に相当いい加減だよな? ふざけてる」
マック「……そうでしたか?」
レイジ「そうだよ。それで、キョウをおれにくれたんだろ。カードを背中に添えてな。
    だけど背中はまずかった。あれは茅野鏡夜の一生の汚点だ。末代まで敵にまわしたぞ」

マック「そんなに? そうか、あれからもう一年経ったのか。早いなぁ……。
    つーかさ、一年後も同じようなやりとりしてるって、全然、進歩してないのか?」
レイジ「進歩してないのは、おまえの脳みそだ」

マック「マジでか。それで、どうなんだよ?
    何でナルセは、今日を特別な日だなんて、俺に言ったんだ。
    マジ、腹立つぞ、ナルセの野郎め。サングラス、楽屋に隠してやる。
    でも場所のヒントはつけようかな、あとが恐いから」
レイジ「特別な日なのは、正解だけどな」
マック「……今日は、何の日なんだ? あんたの特別な日なのか?」

レイジ「おれが初めて、ナルセのいるシックスティーズに行った日だよ」

マック「ほう。ほうほうほう。へーぇ?(ー_ー) 
    レイジってそんなことを覚えてるんだ。初めてナルセに会った日ってことだよな?」
レイジ「当たり前だ。一目惚れだぞ? ナルセに一発で惚れた記念の日だ。
    忘れるもんか。毎年、この日はシャンパンで祝ってる。まぁそれは嘘だがな」

マック「ふーん。あんたは、ずっとエトーに惚れてたんじゃないのか?」
レイジ「その時はエトーのことは忘れてたんだ。
    長い間、おれとエトーは疎遠だったからな。全然、忘れてたよな」

マック「しかし、よくもあの高飛車なナルセの野郎を、落とせたよな?
    ま、レイジの器量じゃナルセだって、メロメロだったろうけど」
レイジ「そうでもないな。通い続けて時間は少しかかったよ。少しだけどな。
    おれはその頃、冴えないサラリーマンだし、相手はシックスティーズのスターボーカルだ。
    口説くのは、そりゃ度胸がいったさ。おれは今より、奥手だったんだ」
マック「そうなんだ。知らなかったよ、奥手のレイジね」

レイジ「なのにおまえは、おれが努力した時間より、早々にちゃっかり、ナルセと寝たんだからな。
    ラッキーな小僧だ。……ちょっと腹が立ってきたな」
マック「いまさら腹を立てないでくれ。そんなの、知らなかったんだよ。何度も言うけど、
    俺は田舎者だったから、すぐ誘われて都会はこんなラッキーなとこなんだなぁって思ってたんだ」
レイジ「あるかよ。苦労も無しにナルセを抱くなんて、ずうずうしいヤツだ。
    やっぱりふざけてる。相当、おまえは、曲者だ。最初に気づくべきだったよな。侮った」
マック「ちょっと、変な確信しないでくれ。そんな話、どうでもいいだろ」
レイジ「おまえが言ったんだろ。何の日かってな」

マック「くそう、ナルセめ。レイジにとって特別な日が、自分に会った日だなんて、
    なんつーお高いヤツだ……。どんだけナルセさまなんだ?」
レイジ「あと、その日はおれの誕生日でもあったからな。ナルセは一応、正しい」

マック「……はい?」

レイジ「おれの誕生日の祝いに、知り合いがシックスティーズに連れて行ってくれたんだ」
マック「まてよ。じゃ、合ってるのか?! なんだよ!!」
レイジ「誰も違ってるとは、言ってない。勝手におまえがそう思い込んだだけだ」
マック「だって、なんか違ってるみたいな質問で返すからだろ!!」

レイジ「そうだ。質問に質問で返す奴を、うっかり信用しない方がいいぜ、マック」
マック「……なんだよ〜。そこに戻るのかよ? 訊かれたら答えるのは人間の本能だろ。
    そんなん、どうでもいいよ。俺は、レイジの誕生日に一緒に居たかったんだ!」
レイジ「おまえ、当初はそうでもなかったのに、一時から特別な行事や事柄を一緒にやりたがったりして、
    やけにこだわり始めたよな。何故だ?」
マック「どうしてだと思う?」

レイジ「おれに質問で返すな。信用ならない男になりたいのか?
    残念ながら、おまえは手遅れだからな。元から信用してない」
マック「俺は信用ならない? 俺の言うこと、レイジは信じてないのか。嘘つきだと思ってる?」
レイジ「バカは嘘がつけないからその点でいけば、言うことは嘘じゃないとは思ってるな」

マック「あんた、エトーといつも一緒に居たかっただろ? 忘れてたなんて、嘘だよ。
    それと一緒だよ。特別な日に一緒に過ごしたいって自己満足だよ。ただの。
    俺は途中からあんたのことが、すごく本気で、レイジを好きになったから、
    そういうチャラついたこともしたいなって気になったんだ。単純なだけだ」

レイジ「まっすぐものを云うのをやめろ。恥ずかしくなるだろ、バカ」
マック「照れる? レイジでも照れるのか……」
レイジ「冗談だろ。照れてなんかいないぞ。そんな意味じゃない。
    おれはおまえが、恥ずかしいヤツだと言ってるだけだからな」
マック「あのさ。皆が俺をバカだって言うだろ? 全然、そんなの気にならないんだけど、
    俺はさ、あんたにバカって云われると、ちょっと、疼くんだ。悦びがあるっていうか。
    下半身のほうが、さ。知ってたか? 実はそういう性癖、あるのかな?
    罵られて、反応しちゃうみたいな……。それってマゾとかの域?」

レイジ「この変態。だが、おまえがセックスにおいて、Mってことはないだろうな」
マック「ない? 違う? こんなにゾクゾクくるのに?」
レイジ「違う。絶対に、違う。キョウは少し、そういう所があるけどな。
    相手の嗜虐心を煽るように、巧みにそこを突いてくるんだ。わざと。
    だけど真性Mは、本当の意味で自分の欲望を優位にしたいヤツの性癖だ。傲慢なんだよ。
    でもおまえは、違う。そういうときだけ……逆の方だろ、むしろ」

マック「そうなのか? 茅野はMなんだ。レイジは鳴かせるのが好きか?
    お高くとまった茅野は、あんたに責められてどんな風に乱れるのかな。
    意外と、甘い声? 茅野を、抱きたくなったか? レイジ……」
レイジ「―――そんなに近くで云われたら、答えられない」

マック「なんで? ……近い? どれくらい近い……?
    すぐにキスできそうなくらい、近い…? 息ができないくらい近い……?」
レイジ「……ン、…… マック ……」

マック「レイジ……。……しよう。
    俺、レイジとキスすると、脳内媚薬が精製されるんだ。レイジは危険ドラッグだ」

レイジ「……呆れたな……。まだ夕方だぞ。今から食事に行くんじゃないのか」
マック「あとでいいだろ。食前の軽い運動だよ。ちょっとだけ、だから。もう、引っ込みがつかない。
    レイジだって、そうだろ。やめるか? こんな状態で?」
レイジ「おまえはけっこうS気があるよな。キョウを抱いてみたいか?
    面白いぞ。あいつのプレイは過激だからな。興味があるなら、抱かせてやろうか?」
マック「レイジだよ。俺、レイジを何回だって鳴かせたい……あんたに入りたいんだ。
    変なプレイなんかいらない。剥きだしの本能で充分だ。
    俺はレイジにだけ、レイジがもっとも欲しいものをあげたい……今日は特に……」

レイジ「―――じゃあ、くれよ。最上級プレゼントをな。いつものじゃ満足しないぜ。
    おれが、身体から抜きたくないと思うような、凄いやつだ――……
    中に取り込んで溶かせると思えるような、おれの熱を発するもの、だ……」
マック「もう沸騰してる。だったら、それは、おれにしかできないプレゼントだよ」
レイジ「自信過剰だな…… そんなに自信があるのか」

マック「そう。これに関してだけは、レイジの反応で、俺、自信を持てるんだ」
レイジ「おれは、そん、なに、―― …… ――か?」
マック「うん。そうだよ、レイジ。気づけよ。素直にさ。
    あんたはそんなに、俺を、マックを、めっちゃ愛してるンだよ……」

レイジ「―――― バ…… カ……」





photo/真琴さま

NEXT 02