Hope
01
3月18日 PM.09:06
登場人物:鏡 夜/マック
場 所:ピアノ・マン
鏡 夜「どうされたんですか」
マック「・・・俺? 飲みに来てますけど?」
鏡 夜「どうして貴方が、水曜日のこの時間にいらしてるんですか?」
マック「俺が水曜の夜9時過ぎにピアノマンにいたら、何かオカシイのかな?」
鏡 夜「そうですね。今日、シックスティーズは貸切でしょうか。
それともマックさんは、失業されたのですか?」
マック「あんたは俺が、セブンレイジィをクビになったら嬉しいか?」
鏡 夜「嬉しくも、悲しくもないですね」
マック「あっそ、興味なしか」
鏡 夜「そういう意味ではありませんよ。シックスティーズのベーシストは嫌いじゃないですが、
そのベーシストがあの方と別れてくれたら、好きになれそうな気がします」
マック「直球で来たね」
鏡 夜「はい。自分の気持ちは正直にはっきりと言えとあの方に云われましたので。
特に、悪びれもせずピアノマンに毎回というほど飲みに来て、
恋敵の私が出す酒を飲むような、心臓に毛の生えている貴方にはね」
マック「まさか恋人の愛人に毒を盛るような愚かなことはしないだろ、あんた?」
鏡 夜「さぁ。分かりませんよ。恋のために優秀な人間が愚かになりうる事例はいくつもあります」
マック「すいませーん、栓を抜いてないビールをお願いしますー」
鏡 夜「冗談ですよ。愚か者になるつもりはありませんから安心して下さい。
明らかに私が疑われるような場所では、しません」
マック「良かった。いや良くないけど。脅かさないでくれ。俺、心臓が弱いんだ」
鏡 夜「弱いから外側に強力な剛毛コーティングを施されてるんですね」
マック「シックスティーズは改装中で、長期の休業中なんだよ今」
鏡 夜「そうなんですか。知りませんでした」
マック「知らなかったの? 本当に? あんたは何でも知ってると思ってた」
鏡 夜「ええ。本当に知りませんでしたよ。暫く忙しかったもので。
そうなんですか。改装中だったんですね。いつからですか?」
マック「3月からだよ」
鏡 夜「では、レイジさんも知らないでしょうね。貴方は彼に言いました?」
マック「言ってない。突然会って驚かそうと思ってたんだけど、まだ帰ってないのかな」
鏡 夜「今は出張中です」
マック「いつ帰る?」
鏡 夜「聞いてないんですか?」
マック「……今、ちょっと優越感っていう顏しただろ? 感じワリー」
鏡 夜「申し訳ありません。わかりましたか?」
マック「ちぇっ。余裕だよな、正式な恋人さんは。そんなふうに俺も笑ってみたいよ。
ほとんど俺にいつ帰るなんて言って行かないんだ。
ちょっと忙しくなるから暫く会えないって、そう言うだけだ」
鏡 夜「そうなんですか」
マック「あんたは良いよな。ちゃんとスケジュールは把握してるもんな」
鏡 夜「勿論です。私はオーナーの秘書でもありますから」
マック「恋人だからじゃないの?」
鏡 夜「それは、きっと違います。恋人だから聴かされてる、なんてことはないですよ」
マック「そうかな……でも恋人だったら、帰りはいつか聞いても怒られないよな」
鏡 夜「愛人の貴方が聴くと、怒られるのですか?」
マック「知らない。別に帰りなんか聴かねェもん、俺」
鏡 夜「聴かないんですか?」
マック「嘘です。本当は聴くよ。でも聞いて期待しても、しょうがないからな」
鏡 夜「期待……帰ると言ったその日に、自宅に来なかったから気落ちしますか?」
マック「あんたはさ、もしレイジが帰ると言ったその日に、
迎えに出した車が俺んちに寄ったら、どう思うのかな。
勿論、わかるんだよな? どこに立ち寄ったかなんてことはさ」
鏡 夜「もちろん分かりますよ。愛人宅に寄ってからお帰りになるのですね、と思います」
マック「そうなの? それだけ? 大人だね」
鏡 夜「私は大人です。貴方もね」
マック「いつか俺が、レイジをあんたから奪うって危機感は、全然ないんだ」
鏡 夜「それは冗談ですか? 笑って差し上げた方が親切な反応でしょうか?」
マック「可笑しければ笑ったらいいけどね」
鏡 夜「では、笑いません。危機感などありませんけど、可笑しくもないですから」
マック「真剣な恋を、笑ったりしないってこと?」
鏡 夜「真剣な恋、ですか」
マック「うんそう。いい歳した大人が、何を云ってるんだって思うよな」
鏡 夜「……いいえ。正直で、いいと思います」
マック「ふうん。滑稽な役割の俺を笑わないんだね、茅野さん」
鏡 夜「お客様の本気の独白を、笑ったりはしませんよ」
マック「良いバーテンダーだ。毒殺しようとしたわりには」
鏡 夜「彼方は、おかしなかたです。
私なんかと慣れあうような心情ではないと思うのに、
何故、私に会うことを避けないのですか? こうして私に会っても平気ですか」
マック「それはあんたの方だろ。
あんたがレイジの浮気相手の俺のことを避けないからだ。笑顔で挨拶だ。
しょせん余裕なんだろうけど、俺は精一杯、これでも抵抗してる」
鏡 夜「余裕ではありませんよ。できれば、貴方とは敵対したくない。
マックさんは、シックスティーズのベーシストで、私には憧れの立場の人です」
マック「以前、俺に敬意をはらってるって言ってたよな」
鏡 夜「そうです。でなければ、貴方は今、ここに来ることもできない」
マック「俺がただのマックなら、叩き潰す?」
鏡 夜「ええ。潰しますよ。どうでもいい雑魚なら既に、ね」
マック「コワ……。やっぱ怖いな、茅野さんって。暗黒街の裏方みたいだ」
鏡 夜「私はこれでも用心棒なんです。あの方に悪い虫が付くのを見逃しません。
くだらない虫がつかないように、ずっと傍で見張っています」
マック「俺、あんたにとっては、悪い虫だったんじゃねぇのかな」
鏡 夜「そうです。でも気がついた時には遅かったと言うべきでしょうね。
こう言っては失礼ですが、貴方のことはノーマークでした。油断していた。
あのひとの思いつきの気まぐれが、こんな厄介な展開になるとは、
まさか思わなかったんです」
マック「そっか。俺も我ながら予想外だし、そこはしょうがないと思うよ」
鏡 夜「諦める選択肢は、これからもないのですか?」
マック「ないよ。あんたは、どうなのかな。
あんたは、どうしてそんなにレイジに執着するんだ」
鏡 夜「どれだけ執着しようとも、私の意志は、あまり関係ありません。
あの方が、私を捨てるといえば、受け入れる準備はあります。
ただ彼がそうは云わないので、私は傍にいるだけです。簡単な図式です」
マック「それが厄介なんだよな。レイジはあんたを必要としてるから、
それならもう俺からレイジにプレゼントしたわけだ。茅野鏡夜のことを」
鏡 夜「ええ。ありがとうございます。
貴方はプレゼントにメッセージカードを添えるロマンチストだったんですよね。
私の背中に、素敵なカードまで添えて下さった。あれには感服しました。
気の効いたお心遣いは、忘れません。大変ユニークな体験でしたよ」
マック「ユーモアは大事だろ。だけど、あんたに譲ったわけじゃないぜ。
あれはあんたの口車に易々とのせられたから、お返しのつもりだよ」
鏡 夜「お相子ということですね。あの時は、本当に貴方が私を抱いて征服することで、
納得するものだと思ってました。甘かったですね。
敵を舐めるとは、私らしくありませんでした。傲りですね」
マック「あんたは身を差し出す覚悟だよな。
そこまでしてレイジと離れたくないなんて、ずいぶん健気だ。
でも本当は俺を油断させて、もっと何か黒いこと考えてるんじゃないのかな」
鏡 夜「考え過ぎです。石橋を叩きすぎて壊してしまうタイプですか?
あまり慎重すぎては、信頼も得られなく、大きなこともできませんよ」
マック「ま、そうかもな。小心者だから、俺って。こういう性分なんだ。
こんな都会の店で働くことも、実はけっこう、悩んだし。
シックスティーズなんて、有名な店、俺なんかに務まるかなって。
俺は方言しか喋れん田舎者だし、洗練された都会人に太刀打ちできるかなって」
鏡 夜「普段はそうでもありませんが、貴方は酔うと、少々個性的な発音をされますね」
マック「……やっぱ、わかる? 出るもんなんだね、訛りってさ。
俺って心配し過ぎて考え疲れると、どうでもよくなるんだよな。
悩み過ぎたから結局、全部投げ出して、えいやでシックスティーズに来たんだ。
意外にそれが良かったパターンが、この今の仕事と、レイジなんだよ」
鏡 夜「最初が良かったからと云って、ずっと上手く行くとは限りませんよ」
マック「そうだね。シックスティーズは俺の実力次第だけど、レイジはそうもいかない。
あんたが脅威ですよ、俺には。でもレイジのことは、信じてる。
だけどやっぱり、どっちかを選んでくれって云えば良かった……」
鏡 夜「言えばいいのですよ。今からでも遅くはない」
マック「ソレ絶対、自分が勝つと思ってるだろ?」
鏡 夜「そんなことはありません。五分五分です」
マック「嫌な奴だよな。あんたってレイジといつ、知り合ったんだ?
出会った時って、どんなだったのかな。教えてくれないかな」
鏡 夜「私とレイジさんの出会いについては、お話しすることはありません」
マック「俺には話す筋合いじゃないってこと? 二人の出会いは秘密?
なんかヤバイとこで、出会った系? 吊り橋の恋?」
鏡 夜「詮索しても無駄ですよ。あの方との出会いは、
二人だけしか知らないことなのですから。彼は私の唯一の希望でした」
マック「そうなの? じゃ、レイジに聴けば分かるんだよな?」
鏡 夜「そうですね。彼が貴方に話せば、ね」
マック「聞いてみようかな」
鏡 夜「どうぞ。もし、私との経緯をあの方が貴方に話すようなことがあれば、
私はあのひとのことを諦めてもいいですよ。潔く身を退きましょう」
マック「えっ、ほんと?!」
鏡 夜「私との本当の出会いを貴方に喋ったりすれば、私は彼への忠誠心が揺らぎます」
マック「秘密にするって、約束なのか?」
鏡 夜「墓場まで持って行くと、言われました」
マック「レイジは誰にも話さない?」
鏡 夜「おそらく」
マック「逆に言えば、あんたはレイジがあんたの秘密を漏らすまで諦めないってことかな」
鏡 夜「そうともいえますね」
マック「それ以外に諦める理由はないの? ぜんぜん?」
鏡 夜「残念ながら。申し訳ありませんが。
マックさん。貴方が思っているより、遥かに私は彼のことを、愛しています」
マック「いや相当、あんたはレイジが大好きだとは俺も思ってるよ。異常なほどに思ってます」
鏡 夜「では、解るでしょう。私は異常なほどに、あの方を愛してるんです。
貴方に毒を盛ることさえ、このままだと可能にするかもしれまんせん。
もしくは、私はあの方と一緒にいられないのなら、私自信を殺す覚悟もあると貴方に言った。
私は今後も一歩だって退きませんよ。あの方が、私を捨てるまでね。
こんな状況なのに、愛人関係をまだ続けるつもりですか?」
マック「俺はレイジを好きだから、しょうがないよな」
鏡 夜「私と共有するのは、お嫌なんでしょう?」
マック「当然、嫌だよ。絶対。でも、あんたはレイジと寝てないんだろ」
鏡 夜「……寝ていない? 彼と私が? あの方がそう言ったのですか。
まさかそれを、貴方は本気で信じている?」
マック「信じてるよ。嘘なのか?」
鏡 夜「いいえ、そうですよ。体の関係はありません。まったくね。
彼がそう言っているのなら、そうです」
マック「嘘でも、話を合わせるってことかよ」
鏡 夜「どうでしょうね?」
マック「……俺はさ、基本的には疑り深いんだ」
鏡 夜「先ほど聴きました」
マック「そうだっけ。もう酔ってるからね。酒に飲まれてますよ。
常に人の言うことなんか疑ってるんだ。基本、信じてない」
鏡 夜「猜疑心の強い人間は、じきに対人関係を己で壊しますよ」
マック「あんたはそれが狙いで、楽しみなんだろ?」
鏡 夜「ええ。そうですね」
マック「俺、本音を言えば、レイジの言うことは、疑ってる」
鏡 夜「それは正しいと思います」
マック「でも、本当にレイジ自身を信じてるんだ」
鏡 夜「まるで哲学みたいな言い回しですね」
マック「感覚的なもんだよな。音楽みたいなものかな……フィーリングだ」
鏡 夜「音楽。バンドマンである彼方の得意分野ですね。
ところで一度、バンドマンに聞いてみたいことがあるのですが、伺ってもいいですか?」
マック「どんなこと?」
鏡 夜「バンドの人達は、あまり同ジャンルの店にお客として行かないようですが、
それはどうしてなんでしょう? ライバルの演奏には興味がないんですか?」
マック「そんなの個人によるんじゃねぇの? 俺はメリナのソロライブはたまに見に行くけど、
まぁ、最もアイツのはジャンルが違うというか、人間ワザが違うんだけど。
変なヤツだからな。今度もこの休暇を利用して、面白いソロライブやるって言って……」
鏡 夜「メリナさんが? いつですか?」
マック「四月一日だよ。エイプリルフール。あ、ヤベ。これ内緒なんだった。
えーと、俺も確かにオールディーズ関連なら、ほぼ行かないな」
鏡 夜「どうしてですか?」
マック「全てが予定調和だからだよ」
鏡 夜「予定調和? また難しい回答ですね」
マック「難しくないよ。単純な意味だ。オールディーズなんかは特にそうなんだ。
きっとああいうふうに弾くだろうなとか、こういう終り方なんだろうなって、
想像がつくんだ。実際、その通りだし。スタンダード音楽って、たいていそうだろ。
だから自分でやるような演奏を、聴きに行ってもつまんねぇよな」
鏡 夜「なるほど。スタンダードナンバーは、オリジナルを変えるようなアレンジをされても、
違和感というか、懐かしさが無くなりますね」
マック「だろ。でもシックスティーズでは最近、ニノが色々仕掛けてくるんで、
ちょっとたまに予想できない展開になる時があるんだ。
あれが老舗でアリかどうかわかんないけど、店長から今のとこ文句はないよ」
鏡 夜「そういえば、ルート66を4ビートでやっているとレイジさんから聞いたことがあります」
マック「うん、ジャジーな感じでね。ニノの提案なんだ。同じが飽きてくるみたいでさ。
ホットスタッフは、単音を使わないギターのバッキングソロだったり、
ルート66も、一括りのコード進行だけ変えてJAZZっぽくするって打ち合わせても、
ステージでやっていく内に、どんどん代理コードや経過コード付けてって、
最終的にはすこぶるJAZZじゃん!! になったりするんで、
なんかもうさ、演ってて愉しいんだよなァ。何ステージに一回あるかどうかだけどさ」
鏡 夜「―――そうなんですね」
マック「あ。ゴメン。茅野さんには、音楽野郎のつまらないお話でしたよね」
鏡 夜「いいえ。そんなことはないですよ。音楽の話は好きですから。
でもマックさんは、とても楽しそうに演奏の話をされるのですね。
……あの方にもそんな話を?」
マック「たまにはするけど、レイジは興味なさそうだね。
なんか、俺の話をただ黙って聴くだけだし、呆れた風にバカにした笑みをもらしてる。
だいたいセックスのあとは色々面倒くさそうなんだ、レイジは」
鏡 夜「そうですか……」
マック「おっと、悪いな。俺には枕トークくらいしか、勝つネタがないからな」
鏡 夜「それ以上は赤裸々に語り出さないで下さいね。すでに退出ワードですよ。
カウンターでは、紳士でお願いします。ここはそういう店なんです」
マック「あー、ピアノマンは、お上品なお店なんでしたね。
へいへい、わかりました。下品なバンドマンは、もう帰りますよ」
鏡 夜「気をつけてお帰り下さい。ご来店、ありがとうございました。
またお越し下さい。おやすみなさい。いつでもお待ちしておりますよ」
マック「……社交辞令ですか?」
鏡 夜「いいえ。お客様に対する心からの気持ちですよ」
マック「ここに座れば、俺はいつでもあんたには客だよな? 憎きレイジの愛人じゃなくてさ」
鏡 夜「そうですね。マックさんは、楽しいお客様ですよ。貴方を憎んではいません」
マック「俺のこと、憎んでないのか? 嫌いじゃない?」
鏡 夜「嫌いではありません」
マック「そうか、好きでもないんだっけ」
鏡 夜「シックスティーズに行けば、私もセブンレイジィロードのステージを、ただ愉しむお客です。
暫く休業では、残念ですけれどね。いつごろ開店なんですか?」
マック「4月中にはリニューアルオープンの予定らしいよ。でも工期が決まってないんだ。
まだ始まってないらしいし。ちょっと長くなるかもしれない。5月にずれ込むかも」
鏡 夜「珍しく長い休暇になるんですね。腕が鈍りませんか?」
マック「俺はその間、ちょっとクラブアルーシャで、ヘルプのバイトに入ったりしてるんだ」
鏡 夜「サワさんの41で?」
マック「そう。サワ……のとこ。あの、何か聞いてるかもしれないけど、サワと俺は何もないからな。
でもレイジには、なんとなく知られたくないんだけど、黙っててくれ……る?」
鏡 夜「私がリークしない保障はありませんよ」
マック「でもカウンターの秘密は、守られるんじゃないの」
鏡 夜「勿論です。お客様とのお話の内容は、誰にも言いません」
マック「ま、言ってもいいけどな。別に何もないんだし、ぜんぜん問題ないよな」
鏡 夜「サワさんは、恰好良いですよね。ヘルプに付くときは教えて頂けませんか。
私も行きますよ、アルーシャにね」
マック「ほんと? ひとりで?」
鏡 夜「恋人と行っても構いませんか?」
マック「絶対に教えません!」
鏡 夜「貴方は本当に可愛いですよね、マックさん」
マック「俺に惚れても無駄だぜ、ベイビーなんちゃって」
鏡 夜「あの方のことがなければ、貴方のことを好きになれたかもしれないのに」
マック「俺に惚れても以下同文」
鏡 夜「とても残念ですよ。
ところで、帰るところをお引止めして申し訳ありませんが、
貴方に言っておきたいことがあります。最近私は、軌道修正を考えているのです。
そろそろお互いに再度、ゆっくり考え直してみる時期ではないでしょうか」
マック「……何を?」
鏡 夜「貴方も私も、あの方には必要ですが、今は少し落ち着いてきたように思います。
ですから今、貴方の方から別れると云われても、以前よりは冷静でいられるでしょう」
マック「はぁ? 別れろってか? 俺を焚き付けておいて、今さらまた身を退けって云うのか?」
鏡 夜「そうですね。勝手で申し訳ありません」
マック「勝手すぎるだろ。俺は一旦諦めかけてたのに、あんたが煽って引き留めたんだ。だよな?
あんたは俺が勝負を降りたあの時、レイジを独り占めできたのにそうしなかったんだぜ。
俺をペテンにかけたクリスマスの日のことを、まさか忘れたんじゃないだろうな?」
鏡 夜「そうですね。私にとって、レイジさんの心の健康は何より重要で大事でしたから、
私だけでなく貴方も傍に居た方が、彼の為には良いとその時は思ったんですよ。
あの頃、レイジさんの精神状態は、良くなかった。でも今は少し違います」
マック「レイジが安定してるのは、俺のおかげだとは思わないわけ」
鏡 夜「そうかもしれません。
だけど彼は以前も今も、貴方の方だけを選ぶことはできない。
たとえ私を、ほぼ愛していなくてもね。それは彼自身もよく分かっていることです。
もしも貴方を選んだ場合、現状がどう変化するかということをよく承知している」
マック「あんたは、レイジがもし俺を選んだら、ここから消えるつもりなのか。
まさかそうやって、レイジを脅してるんじゃないだろうな?」
鏡 夜「さぁ。そうかもしれないし、そうではないかもしれません。
ですが、私を失うことは、彼にはできないんです。
仕事に必要だと言うのも本当ですが、心情的に私を見捨てることは無理です。
私が少しづつ、焦りを感じているいることも、彼は承知している。
ですから、常に考えているでしょうね。この先を、どうするかを。
決心すべき時期は、いつか来る。今の彼には決断できない。でも私は諦めません。絶対にね。
だから、もう一度、白紙に戻して貴方にお願いしているんです。彼を苦しめない提案です。
貴方がレイジさんを、諦めて頂けませんか?」
マック「いやですけど」
photo/真琴さま
参考:咲子の妄想ライブ日記 2015-03-15付
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