Deep Dream


登場人物: マック/リ ン
場所:マックのマンション

9月8日




マック「あー。今夜、仲秋の名月だって、そういえば」

リ ン「えーそうなのか? 十五夜? 今年の名月はやけに早くね?」
マック「よし、見ようぜ、月。仲秋の名月を、今夜、拝もうぜ」
リ ン「めんどくせぇよ。外にでるなら、リンくんの分も見てきてくれ」
マック「うちの天窓から見えるけど……。そこは寝室だからな……」
リ ン「なんだよ? 寝室には入れないってそういうこと?
    やーらしいなぁ、マック。いいじゃんか、男同士なんだし」
マック「いや、俺はいいよ? 俺はいいけど、リンが嫌かなぁと思って」

リ ン「なんでだよ? 俺のこと、ベッドで押倒そうとか思ってるわけ?
    いやーん、やめてください、マックどの! ナニをなさるの〜
    あら背丈に比べてそんなに大きいの? そんなの入らないわ〜なんちゃって」
マック「見たのかよ。背丈は余計じゃ。酔いが醒めそうなこと言うなよな。
    リンなんか襲うわけねぇだろ。そーじゃなくて、俺の寝室ってことはだよ……」
リ ン「ストップ。分かった、皆まで言うな、マサツグ殿」
マック「レイジとメイクラブなナニを紡いでいるところなんですけど」
リ ン「バカ、だっから! 言うなって!! こっちの酔いが醒めるわ!」

マック「お前が下ネタ振るからだろ。
    ベランダに行こう、ベランダ。あそこでも月が見えるから」
リ ン「初めからそこを案内しろっつーの。くそ、何の自慢なんだよ、……ったく」



リ ン「おお、すげーな、良い月じゃないの。今夜が仲秋の名月って?
    今日はよく見えるなぁ……酒盛りに最適だ」

マック「でも、今夜は満月じゃないんだってさ」
リ ン「そうなの? 仲秋の名月が満月じゃないってどうなの。
    何をもって、名月というわけだよ?」
マック「しらねぇよ。月をもって名月っていうんじゃないの。月の名は、とかさ」
リ ン「なんだよ、それダジャレ? 最近のステージMCの中で一番、酷いな」

マック「ステージ持ち出すなよ。今日は臨時のオフですよ、オフ。
    うー、リンは酔っとるばい……この時間までって飲み過ぎたろ」
リ ン「語尾に方言が失禁してるぞ。まだまだ俺はお前よりマシだよ」
マック「そんなことはない。俺は酔ってまてん」

リ ン「酔ってまてん言う奴くらい真実味のないことはないよな。
    てんてなんだよ、すっかり酔ってんだろがそれ」
マック「んー。。。あ、そうだ、あれ飲もう! アレ」

リ ン「ひとの話をきけよ、お前はさ。マックの空気感を分かる人間は、そうはいないよ?
    人の話をきかないのは、ステージ中のMCだけにして下さいだよ」
マック「レイジがくれた日本酒。チーズとサーモンマリネに合う酒って、書いてある」
リ ン「ホント、聞いてないよなぁ。
    しかし相変わらず洒落たものくれるな、レイジは。
    だけどサーモン・マリネなんてお洒落なフードが、独身男の冷蔵庫にあるわけないよな」
マック「あるよ」

リ ン「えっ、あるのか?」
マック「あるって。サーモン・マリネ。独身男の冷蔵庫に冷えてありますよ。
    この酒のために、今朝作っておきました」
リ ン「マジかーーッ! マック、俺と結婚してくれプリーズ!!」
マック「えー、リンさんと? そんな急に求婚されても、照れるぅー」 
リ ン「そうそう、味次第で嫁にしてやるよ。お、美味そう〜。
    どれどれ、いただきまーす♪」

マック「どう? 俺、ヨメになれそうか? うまかね?」
リ ン「おう、イケる。つーかな、よく考えたらサーモンマリネって、
    サーモンをマリネ液に漬けただけだろ?
    そんなん料理いわねぇよな。破棄だ破棄。婚約破棄」
マック「それをいうなよ。そんなこと言ってるから、女子に振られるんだぜ、リンは。
    今はスーパーで買ってきた中食で『あのひとに美味しいと言わせたい!』って
    言って通じる時代なんだからな」
リ ン「スーパーで買った出来あいもので、美味しいと言わせてどうだっつんだよ?
    さすが君の選んだスーパーのお惣菜だねって意味かよ? 冗談じゃねぇよ。
    俺は嫁の手作りの料理が食いたい」

マック「それじゃ嫁も逃げるぜ。嫁よりも彼女が先だけどな」
リ ン「うっせぇよ。リンくんは、今、女断ち中です。あー、この日本酒、イケるな。
    甘口だけど、サーモンマリネにすげぇ合うよ。
    レイジに、リンにもあげてくれって云っといてくれよ」

マック「そうか、じゃ、レイジにお礼のメールしよう。
    ええと、

   『今日は仲秋の名月なんですよね?
    僕は月見をしながらレイジに貰った日本酒で今夜を過ごすつもりです』

    ハイ、送信、と」
リ ン「リンくんの要求、どこにも載ってないんですけど?」
マック「リンと飲んでるなんて、書けないだろ。レイジが妬くと困るからな」
リ ン「あはははは。お前は平和だよな。現実が見えてない可愛そうなコだよ。
    レイジが妬くなんて、ナルセ相手じゃあるまいし。お前ごときに妬くかよ。
    大体、そんなくだらないメール、レイジにするなよ。絶対返信なんか返ってこないぜ」
マック「返ってきたけど?」

リ ン「えっ、もう? 早いな。なんて? なんて書いてあるんだ。
    レイジのメールなんてレアだからな。俺にも見せろよ。こんなチャンス滅多にない。
    ええと、なになに? 

   『今日は良い月が出てる。月見日和だ。もう酔っぱらってるのか?』

    ……いいとこついてる。良い読みだな、レイジ」

マック「うるせー『まだ酔ってませんよ。こっちもベランダから良い月が見えます』と。
    そうだ、月の写メールも送っておこう。ベランダのお月さん、ハイ、チーズ!」
リ ン「でもレイジのとこにも、名月はあると思うよ?
    携帯のカメラじゃあんまり良い写りとも言えないしな。なんか、縦長じゃん月」
マック「いいや、絶対、うちの月のほうが良いに決まってる。うちのコが一番です。
    うちに来れば良かったって、後悔させてやるんだ」
リ ン「どんな張り合いだよ。やれやれ。返信きた?」

マック「まだだよ。今日みたいに気まぐれにすぐ返信くれる時もあれば、
    一週間後だったり、なかったり、基本的に返信はない方が多いんだ。
    今日、すぐ返ってきたのは珍しい方だよ。これで打ち止めかもな。
    もしかすると、レイジも飲んでて、酔ってるのかもしれないな」
リ ン「酔っぱらってメールするのは、お前だけだろ」
マック「いいだろ。ひとりで飲んでると寂しくなるんだよ」
リ ン「俺と一緒に飲んでるのに、寂しくなってレイジにメールするのかよ」

マック「まぁそれはソレ、アレはアレですよね」
リ ン「ラインとかにすりゃいいじゃん。今やメールってもどかしくねェ?」
マック「いいんだ。レイジはラインやってないしな。そんなやり取りするなら電話が早いって言うし。
    急ぎでもないし、レイジとはメールくらいのツールがちょうど良い距離感なんだよ。
    会ってない時は特にさ……」
リ ン「うわぁ、また俺にはどうせわからないだろうけど、みたいな言い回ししたな。
    腹立たしいな。どうせ彼女いない俺には、全然わかりませんよーだ」
マック「んなこと言ってねェだろ。被害妄想だぞ、リン。
    あ。返信が来たな。珍しい、こんなに何回も続けてくれるなんて」

リ ン「なんて?」

マック「ええとね……
    
   『月の見えるベランダか。良い物件だな。もう酔っぱらってるだろ。
    酔って後悔するような写真でも送ってくればいい。SNSに載せてやる』

    だってさ」

リ ン「レイジって、SNSなんかやってるのか? FB?」
マック「しらない。やってないだろ、多分。返信しとこう♪
    『(笑)同じ月を見てるといいな』……と。そうしーん」

リ ン「あーあ、見てられん。どこの女子高生のノリじゃ。いい歳したおっさんの書く文章か。
    だけどSNSは、商売してるレイジならやってんじゃないのか?」
マック「じゃ、やってるのかも」
リ ン「どっちだよ?」

マック「どっちでもいい。
    俺ら、SNSで繋がってるような間柄じゃないから」
リ ン「へぇへぇ、さいですか。もっと濃厚なやらしいもので繋がってるんだよな。
    あ、自分で言ってて、気持ち悪くなってきた。俺は生理的にダメ。
    なんか、音楽ねぇの? オールディーズ以外でさ」
マック「こんな月夜に、最適な音楽アルバムがあるぜ?
    レイジが貸してくれたCD。ジャズなんだけど、アルトサックスのオリジナルなんだ。
    これがスゲー良いんだよ。CDタイトルはビヨンド・スカイ。これをBGMにかけよう」



……♪ …… ♪ ♪ ……




リ ン「……へぇ。さすがレイジ。クール&セクシーってとこか。センスいい音だ。レイジの知り合いか?
    体の穴の全てがリラックスしそう。ムーディだし、恋人と一緒ならもっといい感じだったな。
    なんでここにレイジがいないんだ? もしかしてリンくんがお邪魔したから?」
マック「違うよ。今日レイジは、京都で名月会なんだよ。毎年いつも行ってんだってさ。
    去年は……その、俺との約束を優先して行かなかったから、今年は行ってる」
リ ン「ああ、あの事件だな。まさかのレイジ待ちぼうけ事件だ。お前、けっさくだったよな(笑)
    そうか、この時期だったんだな。京都には茅野さんと?」
マック「そうだろ」

リ ン「あらら。聞かなくていいこと聞いたみたいだな。スマンねぇ」
マック「なんだか嬉しそうだな、リン。仕事がらみでもあるし、しょうがないだろ。
    それに一応、茅野が恋人だからな、レイジの。俺に文句言う筋合いはないんだよ」

リ ン「いいの、それで?」
マック「いいわけねぇだろ」
リ ン「だよな」
マック「だよ」

リ ン「うーん、飲もうぜ、色男?」
マック「飲んでますよ、もうずっと延々と」
リ ン「まだ宵の口だろ」
マック「どうかな……。かなり良い気分だ。
    ジャズの調べは心地いいしさ、気分はリラックスして、酒もつまみも美味いし、
    夜風がイイ感じで、お月さんはキレイで、最高だよ。
    下らないことを話せる、お喋りな親友も傍にいる」
リ ン「今さら俺をヨイショしてもおせーんだよ。
    リンくんの親友は、ナルセだけだからな。もうそれ以上は、面倒でワガママな親友は要りません」
マック「片思いでもいいだろ。何人とか決まってないし。俺は片思いばっかが得意なんだよ。
    今夜は良い夜だよ……。そうだろ」
リ ン「そうだな。良い夜だな……」


マック「夜の音って、いいよな」

リ ン「夜の音?」
マック「うん。俺、田舎育ちだろ。
    夜に遊ぶとこ、あんま無かったからよく夜中に家を抜け出して、
    サントリーオールド持って、近くの土手にさ、座ってダチと一緒に喋ってたんだ」
リ ン「うわー、田舎の不良クンだね。そのダチって女子?」
マック「いや、女子じゃねぇよ。男友だちだ。だってボク、まだ中三だったし」
リ ン「中三でウイスキーかよ」
マック「コークハイなるものが、早ってたんだよその頃。
    飲んで結局、吐いたけどな」
リ ン「ガッキだなぁ」

マック「うん、ガキでした。その時の音なんだよな。夜の音。
    夜中、しーんって音と、静かな遠い道路の車の音や、虫の声や、波の音だよ。
    変にそれ以外は静まって、自分の声とダチの声だけが、その世界に浮いて聴こえるんだ。
    それが夜の音なんだ。俺はあの音が好きでさ。つい、夜中の散歩とか行っちゃうんだよな」
リ ン「ふぅん。シチ―ボーイのリンくんには、あまり分からねぇなぁ」
マック「そうか? 都会だって、それなりの時間になれば静かな処もあるだろ?
    この辺だって、そんなに賑やかな方じゃない。夜の音は……してるよ。
    今もさ。音楽はちょっと余計だけど、良い曲だからオプションで」
リ ン「それはさ、俺が横で喋ってるからじゃないの」
マック「なに?」

リ ン「その夜の音ってさ、ダチ付きなんだよ。
    きっと相手の声がよく聴こえるんだと思うよ。静かだと特別に響くんだろうな。
    だからお前の好きな音って、夜の音じゃなくて、ダチと夜中につまんねぇことを、
    外で楽しく喋ったガキの頃の想い出だよ。それが夜の音だ」

マック「そうかな……。そうかもな。
    そういや、懐かしい気がするもんな、こんな状況」
リ ン「だろ。恋人同志じゃ、ムラムラしてこうはいかねぇだろ?」
マック「そうだな。レイジだったら、今頃こんなムーディーな曲を聞いてたら、
    押倒して目下、挿入中だよな」
リ ン「そういうリアルなこと言うなって。ナルセといいお前といい、節操がないぞ。
    モーホはそんなんばっかりかと思うだろ。体が目当てってイヤラシイわ。
    だけど、この曲、しっくりきすぎるなぁ……もし今、お前に押倒されたら、
    俺もなびいてしまいそうよ。お友達の野郎同士には向いてないんじゃねぇの。
    今のこの曲、なんて曲名?」
マック「今かかってるやつ? えーと、三曲目か?
    ジャケットどこだっけ。ああ、あった。この曲は……『ディープ・ドリーム』だな」
リ ン「マジか。まいったね。タイトルにまで、してやれちゃう曲だな」
マック「深い夢の中に、潜ったままの気がするなぁ……うん」

リ ン「それ、レイジのことを云ってんのか?」
マック「やぁまぁ、そうだな。そうかも……」
リ ン「夢ならいつか醒めんじゃないの」
マック「夢なら醒めないでってのもあるじゃんか」
リ ン「そりゃいかんな。切なすぎるよ。
    今頃、レイジは仲良く茅野さんとナニしてるんだろうな?」
マック「しらねぇよ。やめろよ。何でそんなこと言うんだよ。
    人が気持ち良く、良い気分で月見してんのによ」
リ ン「現実を教えてやってるんだよ。夢見心地なボーヤに」

マック「現実なんか知ってる。今まさにあっちがリアルで、ガチ恋人と月見デート中だよ。
    ムード良くなって、抱き合ってても、俺には止めに入る権利はねぇんだよ。クソ」
リ ン「……だな。悪かったよ」

マック「リンは、俺の味方か敵かわかんねぇよな」
リ ン「俺は敵じゃねぇよ。おそらく俺は、マックの味方だと思うけど、
    お前とは少し意見が違ってるだけ。見解の違い」
マック「お前ってレイジが好きなのか? リン」

リ ン「はぁ? 好きってどういう好きだよ?」
マック「高校生みたいな返ししてくんなよ。
    決まってるだろ、そんなの。レイジとしたいかしたくないか、どっちなんだよ」
リ ン「……レイジかぁ。レイジはカッコイイよな。大人だし、財力もあるし、影もあるし、
    顏もいいし、スタイルもいいし、タッパもあるし、ウイットだし、センスいいし……
    そりゃ誰だって、男ならレイジに憧れるよな。
    レイジみたいになれたらなって、そういう類の好きだよ、俺のは。別になりたくねぇけど」
マック「そういう好きじゃないみたいに聞こえたから、一応確認しただけだよ」
リ ン「そう? そんなふうに聴こえた? それはきっと君が嫉妬深いからじゃないの。
    レイジをひとりで独占していたいからそう思うんだろ」

マック「俺、嫉妬深い方じゃないと思ってたけど、正直、茅野の話をされると、
    機嫌は悪くなるな。もどかしいのは事実なんだ。
    ……やめよう、リンと二人で月見してるのに、そんな話しなくてもいい」
リ ン「だな。分かった。それは無しにしとくけど、だいたいお前がレイジにメールとかするからだろ」
マック「そうか。スマン。つい……お月さんがきれいだったから」
リ ン「好きなひとが居るって、それだけでいいよな。羨ましいよマックが」

マック「リンはいねぇのかよ」
リ ン「今? 俺は、今か……。どうしよう、マック。
    ぜんぜんいねぇよ。なんでいないんだろう? 思いつきもしない」
マック「リンは、今までがつきあい過ぎなんじゃねぇのか」
リ ン「そうかな。ま、その話もいいじゃん。今は恋愛御法度。酒、ないのもう?」
マック「ああ、無くなったな。結構、小瓶だったからな、この酒。
    他にもあるよ。40度のいも焼酎。ブランデーみたいに濃厚なやつなんだけど」
リ ン「すげぇな。なんて酒?」
マック「天使の誘惑」

リ ン「出来過ぎだろ〜!! 綺麗なお月さんとディープドリームと、天使の誘惑!
    何だこれ、どこの天国のベランダだよ? ゲラゲラゲラ……
    俺、ここでお前に口説かれたら、ちょっとチューくらいできる気になってきたわー」
マック「なに言ってんだよ、くッくくく……ギャグだろ、もうそれ。リンとチューはねぇよ。
    してもいいけど、したらセックスしたくなるかも。天国のベランダで!」
リ ン「バカか〜、酔ってんのかよ、てめぇ……! 俺とセックスしたら終わりだぜ、もう。
    なんかちょっと笑いがツボったな……ハハハハハハ……!」
マック「こんなちっぽけなベランダで、雄大すぎるタイトルだよなぁ、アハハ……」
リ ン「はー・・・・ダメだ、可笑しい。可笑しすぎる。何を云っても聞いても笑える。
    完全に、泥酔じゃねぇの俺ら? そうだ、マック、レイジに聞いてみろよ?」
マック「俺達、酔ってますかって? もう完全に酔っ払いのメールだろ、それ」

リ ン「ちがいねーな(笑) ハハハ……」






俺たちは、ひとしきり笑ったあと、
脱力してぼんやりと月をみながら黙り込んだ。

お互いに黙っていても、気にはならない。
気遣いが、必要ない。
間が持たないのじゃなく、二人でこの間を愉しんでいる感じだ。

わかるかな?

流れるのは、夜の音とちょっと切ないジャズサックスの調べ。


何もない「間」を苦無く共有できる間柄の人間が、
人生の中でどれだけいるだろう。

リンは職場のバンドの同僚だ。
同時に友達。
だだし、俺の親友片思いらしい。

大人になってからできる友達も、いいものだと思う。
レイジのことに関しては、この先、意見が衝突することもあるかもしれない。
無条件で受け入れることも友達ならば、言いたいことを云うのも友達だ。
でも激しく言い合えるのだって、損得の思惑がないからできることだ。
相手を蔑むことさえなければ、ケンカは良い形で成り立つ。
壊れるケンカは、いつも相手への敬意を忘れた時だ。


携帯がメールの着信を示した。
リンはそれに気が付いていたようだが、寝たふりをしていた。

俺は黙って、文面を見る。

 『 同じ月を 見てる おれも 』



満ち足りた気分って、あるんだ。
俺は、それになった。

短すぎるメールを見詰めながら、口元が緩むのが分かった。
遠くにいるのに、近くに想う。愛しい、君。

レイジはきっと、メールを送る時だけは俺のことを考えてくれている。


こんなに近いのに、レイジは――――




長い長い夢になればいい。
醒めぬ夢であって欲しい。

深く深く心地良い幸せに浸りながら、
酔っぱらうのは、やはり悪くはないなと思うのだ。
陶酔がなくては、とても向き合えないこともある。
酒に溺れてしまわないよう、気をつけるだけだ。

けれど深い夢には、今は溺れていても良いだろうと、
何度もメールを読み返し、
片目を開けたリンには、ニヤニヤしてると言われながら、
俺は、また月を見上げた。
レイジが見ている月と、同じ月。


足早な仲秋の名月。

だけど満月じゃない、完全じゃない十五夜。












♪Deep Dream
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photo/M

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