灰色の朝 Dismal Day
01
登場人物: 鏡 夜/レイジ
場所:鏡夜のマンション
鏡 夜「こんなことを、ずっと続ける気なんですか、レイジさん」
レイジ「……何を?」
鏡 夜「私と今まで通りに、こんな関係を続けることです……あ、レイジ、さ、ん……」
レイジ「こんなときにするような話か? 余裕だな、キョウ。
終わってからでもいいだろ。今は真っ最中だぞ。
それともキョウはおれとこうしてると罪悪感は感じても、快楽は感じない?
そうは見えないけどな。おまえのここは特に……聴いてみようか」
鏡 夜「や、嫌……レイジさん、違います、でも、……あっ、あああッ……!」
レイジ「鏡夜……愛してるよ。そんな話は、今するなよ」
鏡 夜「私も、です、レイジさん、あなたが好きです……好きなんです。誰にも渡したくない……
ハァ、アァッ……誰よりもあなたを愛して、います……ん、、嗚呼ッ!!」
☆☆★
鏡 夜「あなたは……罪悪を感じないんですか。こんな酷いことをしておいて」
レイジ「おれがどんなヒドイことをした? 後ろ手に縛っておまえを犯したとでも言うのか?
それともそうしなかったから逆に酷い? そうなのか?
そういう趣味はないけど、おまえがそうして欲しいなら今後はそうしようか」
鏡 夜「違います。あなたは……マックさんを、裏切っている」
レイジ「は、小僧を裏切るだと? ヤツはもともと信用ならないんだ。
気分次第であっちフラフラこっちフラフラ、そのくせ、おれを独占したがる。最悪だ。
一緒にいると疲れるんだ。日増しにうっとうしくなってきて、もうすでに飽きてきた」
鏡 夜「だけど、あなたは彼に約束したんでしょう?
彼だけと付き合うと。私とは別れると言ったのでしょう」
レイジ「言ったよ? だからなんだよ。それくらいの嘘はつくだろ。約束なんかあっちも守らないんだ。
おれの言うことを素直に信じるあいつがバカだろ。直情バカだ。仕組みを解ってない。
おまえのことがおれには一番必要なのに、オンリーワンを要求するから仕方がなかった。
小僧を手放すのはまだ早いからな。時期が来るまでごねないでもう少し我慢しろよ」
鏡 夜「ごねてはいませんけど、なんだか後ろめたいんです。
彼とのことは本気じゃないと信じていますけど、少し不安で……」
レイジ「何が不安だ。おれがただのバンドマンなんかに本気になる筈がないだろう?
あいつだってちょっと考えれば解る筈だ。なのに逆上せ上ってまわりが見えてない。
愚か者だ。だったら都合良く利用させてもらうまでだ。そうだろ?」
鏡 夜「あなたは、マックさんを結果、傷つけることに平気でいられるんですか」
レイジ「傷つくことなんかないだろ。バレなきゃいいんだからな。おれの演技は完璧だ。
時期が来れば、上手く別れたらいいんだ。初めから騙してたと思わせなきゃいい。
おまえがおれを譲ると言ったのを、奴はあの日、しっかり信じたんだろ?
実際上手くやったよな、キョウ。きっとおまえの方がおれより罪深いぜ?」
鏡 夜「あんなことは……したくなかったんです。でもあなたの命令だから仕方がなかった」
レイジ「そうだ。割り切れ。仕事の一環だ。これは大事な【取引】だからな。
おれはどこぞの小僧にウツツを抜かして腑抜けになっていると思われている方が都合がいいんだ。
大事な時期だぜ。些細なミスは許されない。仏心を出してる場合じゃないぞ」
鏡 夜「そうですね。大きな仕事ですからね。緊張は常に保っています。心配ありません」
レイジ「それにしても、あいつを良いタイミングで使える時期に来たよな。
利用できるものはしないとな。でなきゃ、嫌々ケツまで掘らせてやってる価値がない」
鏡 夜「あなたは裏の仕事のためなら、本当に何だってやるんですね。
酷いひとです、本当。悪魔のようなひとですよ、あなたってひとは……」
レイジ「おれが悪魔だから、おまえは陶酔しておれに服従しているんだろ?」
鏡 夜「ええ。その通りですよ」
レイジ「これはエトーのやり残した大事な仕事だからな。実際は闇の仕事も捨ててない、
警察に捕まりそうなヤバイことも行ってる、なんてことがもし小僧にバレてみろ。
厄介この上ないからな。あんな金になる黄金ルートを捨てるわけがない。
小心者のアイツのことだ、バレたらビビって警察に駆け込むかもしれない。
そうなったら命取りだ。今が大事なときだからな。小僧の行動には充分警戒していろ」
鏡 夜「ええ。解っています。もしもこの取引のことが明るみに出たら、すべてが無駄になります。
もしもそんな状況になったら、私はあのひとを始末しなければなりません。
そうなるのは、幾らなんでも気が重いですからね」
レイジ「まぁ、そうだな。あいつの落ち度はバカなだけだからな。死ぬほどでもない。
おまえにはいつも通り簡単なことだろうが、後味は悪いよな。
だがな、近いうちに取引が片付いたら、逆にそうしてくれた方がいいんだぜ?」
鏡 夜「え……、マックさんを、消すのですか?」
レイジ「あいつは嫉妬深くて、独占欲が強いし、本当にうんざりだからな。
会えばすぐ突っ込んでくるし、性欲が強くてつきあってられん。たいして上手くもないしな。
無事にこの取引さえ済めば、あいつは捨てる。それでごねる場合は、おまえの出番だ。
ヤツの役目は終わりだからな。長いことご苦労さんだったと言って、始末しろ。
さんざんおれとヤリ倒して良い思いをしたんだから、特に未練もないだろ」
鏡 夜「こんな現実は知らずに死んだ方が、彼には幸せなのかもしれませんね。
あなたを本気にさせた男として、死んで行けるんですからね……」
レイジ「ククク……キョウ、おまえも相当な悪人だよなぁ。
気が重いとか言っておいて、けっこう愉しんでるんだろ? 本当は?」
鏡 夜「いけませんか? あのクリスマスの日……思い出しますよ。
私の嘘を鵜呑みにするなんて、本当に単純で純情なひとですよね、可愛いひとです。
マックさんには敬意を表して、一番苦しまない方法で逝かせてあげることにしますよ」
レイジ「そうしてくれ。なんだかんだと、おれもそれなりに愉しませて貰ったからな。
セックスが捨てがたい……か。フフ……あっはははははッ。ケッサクだよな、キョウ?
ナルセも豪もリンも、みんな信じているんだぜ。こんなに上手くいくとは思わなかった。
おれとおまえの、完璧で素晴らしきクリスマスの脚本に乾杯しようぜ、今夜は―――」
鏡 夜「ええ、レイジさん。
すべてはあなたのお望みのままに……」