TONIGHT


9月19日 一週間前 AM02:30


登場人物:マック/レイジ
場所:マックのマンション部屋




マック「なぁ。イベントごとって、まだ一緒にしたことないよな?」

レイジ「……キモイこと言うなよ」
マック「そんなに嫌な顏しなくてもいいだろ。何でキモイんだよ。だいたいキモイキモイって、
    一体、俺の存在を何だと思ってるんだ、アンタは? まだ小石を卒業できてないのかよ、俺は」
レイジ「おまえの存在か? 愛人だろ。おまえみたいなガサツな愛人は不本意だかな。
    だいたい愛人てのもおかしいよな。愛してる人じゃないからな。会う人で会い人か?」
マック「なにそれ。愛の人の方がマシなんだけど。だったら愛人以外の表現で、何かないのかよ?」
レイジ「そうだな。厄介でどうにも使えないのに何故か捨てられない……ゴミ?」

マック「……あのな。酷いを通り越して全うな人間の回答とは思えないんですけど。
    ゴミ? おれはゴミなのか? 要らないもの? 要らないなら何で捨てないんだよ。
    ゴミっていうのは要らなくなってからそういう呼び名になるんじゃないのか?」
レイジ「おっと、そうだな。要らなくはない。ゴミは確かに酷い。ゴミは言い過ぎた。
    謝るよ。たまに役立つから邪魔でも捨てられない、割りばしのようなものかな」
マック「ああ、そうですか。予約ゴミですよねソレ。全然謝られてる気がしないんだけど。
    もうおれの存在確認をするのは今後やめるよ」

レイジ「マック。おまえイベントなんか気にする方だったか? しないよな?
    そんなタイプじゃないだろ? おれの誕生日も全然無視だったじゃないか。
    イベントごとってのは、そういう日のことなんだろ」
マック「だって、初めの年はそんなの聞いてなかったしさ。
    おれの誕生日にはちょうど別れてたから、誕生日もハロウィンもないし、
    寄りを戻したのが今年の1月だから、また去年のクリスマスもなかったわけだし、
    以降バレンタインも、あんたの誕生日も、なんとなく過ぎた」

レイジ「なんとなく過ぎたなら、イベントなんか問題にしなくていいだろ。
    自分でイベントを放棄しといて、何の文句なんだそれは? おかしいだろ」
マック「だって、バレンタインも誕生日も、あんたは茅野とデートだったじゃないか」
レイジ「おれの誕生日を知っているのか?」
マック「知ってるよ」
レイジ「だったら誕生日以外には、祝う気はない?」
マック「あ。……ま、そういう方法もあるけど、別にあんたは他の日にして欲しくないだろ」
レイジ「そこまで手を抜いておいて、イベントを一緒にしたがるおまえの意図がわからんな。
    いったい、何が望みなんだ?」

マック「だから、全国一致で公的なものがあるだろ、世の中にはさ」
レイジ「おまえは何がしたいんだ? 今からできる公的イベントといえばハロウィンか?
    それもダメだぞ。おれは取引先関係の酔狂なパーティに毎年呼ばれてるからな。忙しいんだ。
    あれに出席しないと、狼男に扮した鏡夜に食い殺されることになる」
マック「そうなの? 楽しそうだなぁ。でも10月の前にあるだろ、これから来る9月のアレがさ」
レイジ「9月に何かあったか? まさか敬老の日を祝う気じゃないだろうな。
    おれはまだ老人じゃないぞ。というか、全然老人じゃないからな。
    おれの身体をちゃんと見てみろよ? バカ、触らなくていいんだよ。
    ……おまえは充分、見なくていいとこまで見てるだろうけど」
マック「見てるよ。もう空で想い描けるくらい見てるけども。そうじゃなくて。
    違うだろ、お月さんだよ! 仲秋の名月の観賞だよ!」

レイジ「おまえが月見をするような古風な人間だとは思わなかったな。
    そうか。京都で名月観賞の茶会の誘いがあったはずだが、一緒に行くか?」
マック「や、別にそういう由緒正しそうなイベントに参加したいってことじゃなくてだな……。
    作法とか苦手だから俺。そういうのは無理だって。そうじゃなくてさ、
    ただ、そういう日に、一緒に月夜を眺めたりしたいなって……こと」
レイジ「キモイ」
マック「…………また」

レイジ「つまりはその日におれと会って、セックスしたいってそういう先約か?」
マック「はぁ、まぁ? 簡単に言うとそうですけど。あまりに直接的表現過ぎませんか。
    だってな、いつも会うのは当日の出たとこ勝負だし、時間の隙間でしか会ってねぇからさ。
    今夜だってそうじゃん。たまたまあんたの時間が空いたから来てくれて、こうして俺んちでナニですよ。
    でもたまにはさ、何日も前に約束した日を、楽しみに心待ちにするのもいいなと思うだろ」
レイジ「何を回りくどいことを云ってるんだろな、この男は。ったく何を云いだすのかと思えば。
    約束だと? 初々しい恋人同士でもないのに、そんなことをイチイチ楽しみにするかよ。
    しかもおまえは恋人ですらないしな。会い人なんだ。秘密の関係だ。して帰るだけで満足しろよ。
    いつなんだよ? 今年の名月は? おれは何日の夜、スケジュールを空けておけばいいんだ?」

マック「えっ、いいの? 俺と先の約束なんかしてくれるのか?」
レイジ「おまえがしたいと言ったんだろ。スケジュールが空いてたら入れといてやる」
マック「こ、今年の十五夜は、9月19日だよ。この日のステージが終わってからでいいんだ。
    一時半には終わって、もう速攻で出るから」
レイジ「もうその時点で19日は終わってるぞ。……わかった、19日の翌日タイムだな」

マック「いいんだよ。寝るまでがイベント。寝るまでがお月見なんだよ。
    どっかで待ち合わせしないか。どこか……そうだなシックスティーズ近くの公園とか?」
レイジ「おまえの部屋でいいだろ。なんで外なんだ」
マック「いいじゃん、ムードじゃん。あんた、雰囲気は大事だって言っただろ。デートみたいなことしよう」
レイジ「何がデートだ。おまえと夜中に公園で約束か。ぞっとするな。しかも公園ってどんな発想だよ?
    漁港で散歩とか、おまえのデートコースは本当に田舎の中坊レベルだよな。
    おれを誰だと思ってるんだ? デートに誘うなら予約の取れない高級店に決まってるんだがな」
マック「じゃあ、どっかのフランス料理店をリザーブする? 夜中の二時以降にやってるとこってある?」
レイジ「ふざけろ。おまえとフランス料理? どんな罰ゲームだ。冗談じゃない。
    言っとくが、おれのスケジュール帳に書かれたアポイントをキャンセルすると次はないぜ。
    そんな相手は信用ガタオチだ。もっともおまえに元から信用はないから落ちる心配はないけどな。
    ま、どっちにしてもその点は安心だな。良かったな。破っても単に次回がないだけだ」
マック「大丈夫。絶対、守るよ。これで信用を取り戻します。期待していい。たぶん」

レイジ「早速たぶんなんてつけるヤツに期待はしない。待ちぼうけもしない。
    いいか、ラストステージが終わる時間から15分後に行く。おれが待つのは15分以内だ。
    要するに30分以内に来ないなら帰る。言っとくけど電話やメールの遅延は受け付けない。
    おまえとは破られることを前提で挑んで行かないと、あとで疲れるからな。
    気紛れなお国の海外交渉と一緒だ。たまに守ってくれたらラッキーてなもんだ」
マック「そんなに信用ないわけ、俺って……」

レイジ「ないだろ。自分のやってきたことを思えば、納得するだろ? しないか?」
マック「します……。あのう、レイジ、まだそのこと怒ってるのか?
    そんなに根に持つようなことでもないと思うけどな……どうなのかな。
    ただ、ちょっと言ってたことと違うことをやっただけじゃん。
    あんたを待つつもりだったけど、待ちきれなかったんだ。たったそれだけだろ。
    っていうか、半分はあんたが仕向けたんだから、俺だけのせいでもないだろ」
レイジ「おれは何も仕向けてない。
    おまえがその気になったから、それに応えただけだ。
    文句をいうならアキラに言えよ。元はあいつのおせっかいのせいでこうなったんだ。
    おまえはそれに便乗して、自分で課したタブーを破って勝手にまたおれに食いついてきたんだろ。
    あの時、車を降りたまま引き留めないで、おれをひとりで帰せば良かったんだ。
    そうしていたら、こんな展開の今は、なかった。無かったんだ。
    おまえの部屋の鍵を受け取るような、馬鹿げた酔狂だってなかったさ……」
マック「なんだよ。あんたは全然、その気はなかったって云う気か?」

レイジ「勘違いするなよ。何度も言うが勝手に離れたのはおまえの方だ。
    おれはずっと関係を切るとも離れたいとも前から言ってない。言ってないんだからな。
    おまえがひとりで勝手にやめると決めて、またその勝手な約束をひとりで勝手に破ったんだ。
    合ってるよな? おれは間違っているか? おまえは気ままで身勝手な暴君だ」
マック「間違ってません。何回も云わなくても解ってるよ。気ままな暴君とか言うなよ。
    いつになったら許してくれるんだよ、そのこと……」
レイジ「知るか。自分でもこんなことを何回も云わなきゃならんのが、ムカつく。不愉快だ。
    どう考えたってスマートじゃない。うんざりする。いい加減言わないで済むなら言いたくない」
マック「なら何で言うんだよ」
レイジ「……おまえがおれの心情を逆なでするからだ。腹立たしくて変な気分になる。
    なんでおれはこんなに根に持ってなきゃならないんだ? どうでもいいことだ。
    なのに何でだ? どうしてこんなに腹が立つんだ。この頃おれはおまえに会うとイライラする」

マック「え……イライラするのか? そんなに自分から俺を振らなかったことを根に持ってるわけ?
    自分が振られるなんて赦せないってことかよ? プライド?」
レイジ「そんなことは言ってない。おれはナルセじゃないからな。
    大体、おれはおまえに振られたわけじゃない。間違えるなよ。
    おまえが最後まで未練たらしく、おれを好きだから覚えておいてくれと懇願したんだ。
    どう考えても自分が不利だから勝負を降りた、おまえの負け惜しみだ。犬の遠吠えだろ」
マック「……悪かったな。女々しい負け犬の遠吠えで本当にスイマセンでしたね。
    だけどそうでも言わないと、あんたがおれを忘れちまうと思ったんだ。
    何もなかったみたいな素知らぬ顔して、茅野と仲良くやってくんじゃないかって……。
    それじゃあまりに俺が辛いだろ」

レイジ「忘れるって? 忘れる筈だったさ。でもおれはその間に考えたんだ。
    おまえが勝手に距離を置いて―――――わずかだけど、今後をどうしたらいいか、考えた」
マック「マジで? 何を、考えてくれたんだ?」
レイジ「おまえがそのまま、おれを忘れてサワと出来ちまったらいいって思ったんだよ。
    それで、おれは鏡夜だけを愛せたらいいと、……思った」

マック「本当に? それは本心から? おれがあんたを忘れたらいいって?」
レイジ「そうだよ。なんでそうしなかった。サワに迫られてたんだろう。
    何でサワを抱かなかったんだ。寝れば良かったんだ。
    まったく腹立たしい……せっかくそう思ったのに、なし崩しにしやがって……」

マック「レイジ……ごめん、あんたが考える時間を台無しにしたんだな、俺」

レイジ「うるさい。おれは、キョウ、だけ、と、決めかけてたんだ……ん……マック……それを……
    おまえ、は、……ッ……どうして……」

マック「……ゴメン、反省してる」

レイジ「イラつけばイラつくほど、おれはおまえが、欲しくなる……反省なんかしてないだろ、
    口先だけだ、ムカムカする……どうにか、して、くれ、なんでおれは、こんなに、おまえに欲情するんだ……」

マック「……同じだよ……俺も、レイジと居ると何だかたまんなくなる……
    何度しても、どういうわけか、初めてみたいな気分になる……」

レイジ「マック…………、何故おれの欲望を、おまえだけがこんなに知ってるんだ、
    胸の中がざらついて、不快だ……軋むような、耳障りな嫌な音が、中から聴こえる……辛いんだ、
    聞こえないのか? マック、ちゃんと耳を澄まして聴けよ……マック、聴けよ」

マック「レイジ―――レイジ、好きだ……。もっと、おれの名前を呼んでくれよ。
    聴いてる。聴いてるよ。でも、ぜんぜん嫌な音じゃないって。辛くなる必要はない。
    俺、レイジを茅野に渡したくない……。茅野から奪いたい……俺だけを選べよ。
    ……あんたが欲しいんだよ、おれ……。レイジが欲しがる快楽はおれにはわかる。
    あんたも、おれを欲しがってるじゃないか。なぁ、おれの形を、待ってくれてるだろ……」
レイジ「待ってなんかない……、ふざけるな、待って、なんか、いない……ア……
     はァ……ァ……ッ……マック……マック……、マ……」

マック「そんなふうに切なく呼ばれると、まるでおれが好きみたいに聞こえる―――」
レイジ「ふざけろ……そんなわけ、ない」
マック「そうかな。口に出して言ってみれば、楽になれるぜ。
    おれが好きだって、言えばいいのに。声に、出せよ。一回そう言ってみればいいんだ」
レイジ「……好き、じゃない―――ムカつく……おまえなんか、好きじゃな、い……自惚れるな……」

マック「なぁ……そんなに締め付けてくると、俺もうヤバイし………ッ は、急ぐなよ……レイジ、
    ちょっと壁に背中、つけてくれ、そう、な、もっと深く……入れるだろ……ウッ……ハァ、、、
    はー、なんか、おかしくなりそ……コレ……良すぎる……大丈夫か、レイジ……?
    ちょっと一旦休止だ。ちゃんと呼吸しろよ……止めてると意識、落ちるぜ」
レイジ「おまえは信用できない……全部が調子、いいだけだ、結果に落胆なんか、しない」

マック「いいさ、信用できないならしなくていいよ。でも結果は、あんたが信じた最終的な判断なんだ……」
レイジ「心底、おまえが、入ってくるのを、心臓が壊れそうなくらい欲しがってる自分にムカつく―――
    体だけ、言うことを聴かない……あ、、、う……ハァッ……ク……」
マック「……レイジ、息、止めるなって……動くぜ? キツイ? なんか今日は文句が多いけど……イイんだよな?
    イイってことだよな? あんたに届くだろ? コレはいつもレイジに届くよな?
    体と心は繋がってるんだ、レイジ……」

レイジ「バカいえ、繋がってない、体以外には繋がりたくない……、ア、ア、……や、ハァッ……マック……」
マック「ッ……、もう喋んなよ、舌を噛むぜ、どうしたんだ、今日は……なんか、おかしい……」

レイジ「なんであのまま、諦めなかったんだ……あいつに誘惑されしまえよ……本当にそうしてくれ、、
    今からでもそうしろ、、マッ、ク、……マッ……あ、ア、嗚呼ッ、、イ、
    ―――――――――!!」








Photo/Do U like

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