サマータイム・ブルース

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ピアノ・マン






ナルセ「へぇ。そりゃまた凄く恐い夢を見たんだな、レイジ」

レイジ「だろ? エトーの夢は何度か見てるが、ああいう不気味なのは初めてだ。
    本気で久しぶりに背筋が冷えたぜ。死体に黄泉の国へ連れて行かれるのかと思った」
ナルセ「何かの啓示かな。本当に甦ってきたりしてね。もしかしてお盆が近いせいかも。
     レイジはちゃんとエトーさんの墓参りに行ってるのか?」
レイジ「よしてくれ。オカルトに興味はないぞ。
     エトーの墓はあるけど、あいつの家族がちゃんとしてるだろうさ。お盆にだってクリスマスにだって
     おれは墓参りはしない。あんなところにエトーはいないからな。そうか、盆のシーズンか……」
ナルセ「それだ。蔑ろにしているから、エトーさんが怒ってるのかもしれないぜ。
     ま、本当の理由はもっと違うと思うけどな。エトーさんのジェラシーだよ、きっと」

レイジ「なんでエトーが今さら妬くんだよ。冗談じゃない。そんな恨みつらみならおれの方が多い」
ナルセ「だって、ついにデキちゃったんだろ。マックとさ……」
レイジ「できてない。そういう品のない言い方はやめろ。だた愛人にしてやっただけ」
ナルセ「同じだろ。でもマックと愛人って単語、あんまり似合わないけど」
レイジ「確かにおれもそう思ってるが、しょうがないだろ。鏡夜が本妻なんだから。
    あとは愛人かペットの枠しかないんだ」
ナルセ「別に結婚したわけじゃないんだし、大げさだよ、愛人なんて」
レイジ「まぁ、そうだけどな。あいつには二号くらいがいいストッパーだ」

ナルセ「でもそんなに怖い夢を見たのに、オレにも電話しないで、
    わざわざマックのところに行ったんだろ? レイジはマックの傍にいたかった?
    本当はマックを好きなんじゃないの」
レイジ「だから云っただろ、そこに合鍵があったから、だよ。そんな理由じゃない」
ナルセ「恋人の茅野ちゃんのところにも行かず?」
レイジ「キョウに云ったら心配するだろ。こんな話を云えるわけがない。
    早速お墓参りをしましょうとか云って、エトーの墓を掃除しかねないからな」
ナルセ「で、結局マックのところに行ったんだ、レイジは」
レイジ「ひとりで居たくなかったんだ。さすがに落ち着かなくて寝つけなかった。
    ただの夢だっていうのにな。死人が誘ってくる夢は、結構薄気味悪い」

ナルセ「だったらオレのところに来れば、イイコトだってできたのに……」
レイジ「なんだって? 今さら誘惑する気か? 豪に操をたてたんじゃなかったのか。
    貞淑ごっこはもう終わりなのか?」
ナルセ「あのさ。レイジに話しておくことがあってさ。
    オレはさ、やっぱレイジと付き合う方が上手く行くんじゃないかな?」

レイジ「……はぁ?」

ナルセ「マックに合鍵なんか貰ったって聴かされて、俺としては意外にショックだった。
    レイジを盗られるのが、何だかどうしても嫌な気分だったんだ」
レイジ「おいおい。何を云ってるのか分かってるのか?
    また浮気の虫が騒ぎ出したにしても、相手はおれじゃなくてもいいだろう。
    マックじゃなくておれにはキョウという公認の恋人がいるんだからな。
    おまえがそんなことを云うと、究極にややこしくなるだろう」
ナルセ「オレと茅野ちゃん、どっちが好きなんだよ?
    レイジはどっちを愛してるんだ。オレなんだろう?」
レイジ「そうだよ。ナルセだよ?」

ナルセ「だったら、茅野ちゃんとは別れてオレとつきあおうぜ」
レイジ「……まて。付き合う? おれとつきあうって云ったのか?」
ナルセ「云ったけど。レイジが茅野ちゃんも、マックも捨てるなら、レイジひとりと付き合うよ、オレ」
レイジ「豪は?」

ナルセ「別れたんだ」
レイジ「なに?! おまえら、またケンカしたのか!
    しばらく機嫌よく遠距離恋愛を楽しんでたじゃないか。
    いったい、どうしたんだ? 豪が浮気でもしたか?」
ナルセ「そう」

レイジ「はぁ?! 嘘だろ。また何かの誤解だろ。
    豪の話を聴いてやったのか? 何か勘違いをしたんだろ、どうせ?
    早合点するのは、おまえの悪い癖だぞ、ナルセ」
ナルセ「早合点じゃないよ。
    豪から電話があって、あっちで好きな人ができたから、オレとは別れるって、
    別れて欲しいって言われたんだ」
レイジ「――――まさか。嘘だろ。そんなことあり得ない……嘘だよな?」
ナルセ「嘘じゃないけど」
レイジ「おまえ、それで、それを受け入れたのか……?」
ナルセ「レイジ。オレはさ、意外にショックじゃなかったんだよ。
    随分距離が離れてたし、いつの間にかオレ達の心も離れてたんだな……」

レイジ「いやまて、そんな簡単なものか? 別れたくっついたと永遠に繰り返してたのに、
    そんな結末でいいのか? 落ち着け、ナルセ。いや、落ち着くな。
    そうじゃないだろ、何なんだ豪のヤツ……ナルセを捨てるなんて……
    正気だとは思えない。何か理由があるはずだ。ちょっと待ってろ、豪に電話する!」
ナルセ「いいんだ、レイジ。豪とはもう終ったんだよ。
    愛が醒める時ってこんなものじゃないかな。オレも気が付いたんだ。
    本当は、やっぱりレイジがオレには必要なんだってさ。
    マックに合鍵なんか返せよ。オレはレイジを本気でマックに渡したくない」

レイジ「……な、なに?」

ナルセ「レイジ。オレを愛してるんだろ。だったらオレと本気で付き合おう。
    茅野ちゃんもマックも捨ててくれ。どっちもオレの代わりなんだろ?
    気が付くのに長くかかったけど、やっぱりオレにはレイジがいないとダメなんだ」










photo/真琴さま

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