サマータイム・ブルース

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ピアノ・マン





鏡 夜「申し訳ありません、カミロ様。
    要は外出しておりますので、暫くは戻りません」

カミロ「でも、ここにいるって聞いたんだよ。店で待たせてくれないか、セニョール」
鏡 夜「ですが、オーナーはいつ戻るか……」


レイジ「……カミロ?」

カミロ「あっレイジ?! レイジだ!
    良かった、会えた! 探したんだぜ、やっぱりまだこの店にいたんだな!」
レイジ「どうしたんだ……。まだ鉱山を掘ってるのか? それとも引退した?
    一体、何年ぶりだ? 探したって、何故だ?」
カミロ「ああ、うん、鉱山はやめた。危ないし。そしてあまり長い話はできない。
    だけど、あんたに伝えなきゃならないことがあって、来た」

レイジ「伝えなきゃならないこと?」
カミロ「そう。大事なことだ。でもそれを伝えたらオレは速攻で退散する。
    居所が知れると、ヤバイからな。長居はしない」
レイジ「……悪いが、カミロ。おれはもう例のルートは手放したんだ。
    どんな話を持ってこられても、対応はできないと思うぜ。
    他の奴をあたってくれないか。誰かを紹介するから」
カミロ「知ってるよ。レイジの噂は入ってる。たいした制裁もなかったそうだな。
    だけど無傷で抜けられたのは、何故だかわかってるか?」
レイジ「どういう意味だ」

カミロ「レイジ。よく聞いてくれ。あんたは信じないかもしれないが、
    ―――エトーは、エトーは生きてる」

レイジ「!」

鏡 夜「嘘だ―――それは、本当ですか?
    彼が……生きている? 江蕩さんが本当は死んでいないと言うんですか?」
カミロ「本当だ。彼は生きてる。それを伝えにきた。でも、もう帰らなきゃ……」
鏡 夜「待って下さい! 生きてるって、どこで? どこにいるんですか?!」
カミロ「それは言えない。だけど、生きてるってそれだけ言いに来た」
鏡 夜「そんな、そんなことを信じろと言うんですか、無理だ。馬鹿げている。
    誰がそんなことを云ってるんです……」

カミロ「エトーに、言付かって来たんだ。レイジにそう伝えてくれと。
    だけど、会えない。エトーには、まだ会えない。
    まだその時期じゃない。オレは戻らないと。命がけで、伝えに来たんだ」
鏡 夜「江蕩さん本人から? 江蕩さんが彼方にそんな伝言を? まさか……」
カミロ「嘘じゃない。信じてくれ。エトーは生きてるんだ。でも今は帰れない。
    国外に出られないんだ。組織が見張ってる」
鏡 夜「組織? ……いったい、どんな組織が江蕩さんを狙っているんですか。
    死んだことにしたのも、その組織が関わっているんですか」
カミロ「言えない。言えば殺される。だけど、伝えにきた」
鏡 夜「そんな……今さら信じろなんて。どうしても居場所は喋って貰いますよ……」

レイジ「鏡夜。もういい。おまえは少し黙ってろ。落ち着けよ、テンパりすぎだぞ」
鏡 夜「でも、レイジさん……!」

レイジ「カミロ。そんなことをおれが信じるとでも思ってるのか?」
カミロ「信じないのか? レイジ」

レイジ「信じないね。エトーは確かに死んだんだ。
    帰ってきた棺の中にいたのは、間違いなくエトーだった。
    遺体で、奴は完全に死んでいたんだ。おれが見間違えるわけはない」
カミロ「でも、おまえはそう信じたいだろ? エトーが生きていると、
    信じたいんだろう? なぁ、エトーがそこまで迎えにきてるよ、レイジ。
    エトーに会えよ。エトーのところに行けばいい。
    あんたが愛しているのは、一生、エトーじゃないのか」

レイジ「思い出した。カミロ、おまえも確か死んだはずだよな?
    訃報を受けて、おまえの家族におれは香典を送ったんだ。そうだった。
    なんだって死んでまでそんな嘘を云いに来たんだ。
    地獄はそんなに退屈なところなのか? おまえは死んでまでまだ人を騙す気か?」

カミロ「レイジ……香典、アリガトウ。レイジはいつも親切で現地のオレ達に優しかった。
    オレがレイジを騙したことは一度もないよ。ホントウダヨ。
    だから一緒に行こうよ、レイジ。エトーと一緒に、あの世にさ……マッテルヨ……」










photo/真琴さま

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