2012☆クリスマス★妄想ショート・ストーリィ
60’sシリーズ

アメリカン・パイ
American Pie


登場人物: 豪/ナルセ



 豪 「ナルセ、こっちだ!」

ナルセ「豪!! っと。こんなとこで抱きついたら、怒る、よな?」
 豪 「いいや。ここは男同士だって抱き合う国だからな。こいよ。アメリカにようこそ。
    人前での抱擁くらい、慣れた。なんなら、キスしてやろうか?」
ナルセ「ええっ、そこまで懐柔されたのか?! 別人みたいだ、豪……」
 豪 「冗談だ。でもまあ、まったくの冗談でもないけどな。周りじゃ、よくある光景だ。
    男同士となると、俺にはまだちょっと抵抗あるがな。
    まだこの国でも偏見は多いし、一応、注意はしないと」
ナルセ「それでも凄い。ありえない。そんな冗談が出るなんて。
    やっぱ文化の違いって、偉大だな。
    豪のテンションが上がってるのって、すごく異様な感じだけど」

 豪 「俺は浮かれてるように見えるか? そうかもな。
    こっちに少し慣れてきたから、日本にいる時の俺らしくはないよな。
    こっちでちょっと気持ちが高揚してるのは確かだ。
    疲れただろ。メシ、食いに行くか? それともアパートへ行くか?
    一応、家で何か食べられるくらいの支度はしてきてある」

ナルセ「もちろん、アパートに行きたい……。
    外じゃ人目が気になって、豪が降参するくらい自由に触れないだろ。
    抱擁だけなんて、眩暈がする。俺、来て早々がっつきすぎかな?
    でも、やっと豪に会えたし、我慢できなくてさ」
 豪 「俺だって、同じだ。行こう。観光は明日だっていい」

ナルセ「観光なんて、いい。あんまり時間はないんだから、家でゆっくりしたい」
 豪 「せっかくアメリカまで来て、何処へもいかないのか?
    セックスしに来たとか、言うなよ」
ナルセ「そうだけど、本音は」
 豪 「どうせ誰かとやってたんだろ」
ナルセ「してない。豪がこっちに来てから、一度だって浮気してないんだ、俺。
    本当だ。そんなこと言っても、信じないよな?」

 豪 「悪かった。着いて早々する話じゃないな。
    そんなことはいい。おまえはケンカしにアメリカまで来たんじゃないんだ」
ナルセ「……まぁね。じゃあバンドメンバーくらいは、紹介して貰おうかな」

 豪 「いや……それは、ちょっと。それは、観光よりも難しいかもな」
ナルセ「なんでだよ? 何かやましいことでもあるのかよ」

 豪 「いや、ないよ。つまり、あいつら、ちょっと会話がオープンだからな」
ナルセ「意味がわからない。でも、大事なことは分かってるよ。
    俺が豪の恋人だって言うのは、マズイんだろ? 言わなきゃいい」
 豪 「いや……それはまずくは、ないんだ。むしろ、逆、かな」

ナルセ「え。言ったのか? まさかカムアウトしたのか?!」
 豪 「させられたんだ……。ちょっとした罰ゲームに嵌って。
    だから連中は、そういうことは気にしない。
    というか、わりと多いんだ。ゲイって。でも、誤解するなよ?
    別にメンバーとは何もないからな。気の良すぎる連中だから」
ナルセ「オープンな風習に、豪の道徳観念まで変わったんじゃないだろうな。
    まさか、その誰かと浮気してるのか?」
 豪 「するはずないだろ、俺が。ずっとお前に会いたかったんだ」
ナルセ「……ますます怪しいな。豪がそんなセリフを吐くなんて」

 豪 「俺を疑いに来たのか?」
ナルセ「違うよ。分かった、ゴメン。会って早々ケンカはよそう。
    早くお前にゆっくり触れたい。ずっと待ちきれなかった、お互いに。
    そうだよな?」
 豪 「ああ、そうだな」
ナルセ「でも何故、俺が豪の恋人だってわかってて、気のいい連中なら、
    紹介してくれないんだ?」
 豪 「しないとは言ってない。難しいってだけで……気が良いじゃなくて良すぎるんだ」
ナルセ「紹介したくないんだ、俺を」
 豪 「そんなことはない。変な意味にとるなよ」
ナルセ「じゃ、俺がオープンな豪のバンド仲間と浮気すると思ってるのか?」
 豪 「違う、そうじゃない……そうじゃなくて」
ナルセ「分かった。もう言いたくないならいいよ。
    別に豪のバンドなんかどうでもいいし。俺は豪に会いたかったんだから」



★★
場 所:豪のアパート


ナルセ「ここが、アパート? いかにもな感じだな。
    もっと高級なとこにいると思ってたけ……ん、んんんッ……!」

 豪 「ナルセ……会いたかった」
ナルセ「……はっ、豪、ちょっと、苦しいよ。何を慌ててるんだよ……?
    俺、どこにもいかないから、焦るなよ? ここに、豪に会いに来たんだから。
    ちょっと、落ち着いて、靴と服ぐらい自分で脱がせろって……」
 豪 「ダメだ、待てない。どれだけ俺が我慢してたと思う……」
ナルセ「豪……分かった、豪の好きにしていい……」





ナルセ「ン……、豪?
    何やってんだよ……。ちょっと待って、やだよ、そんな恰好……や、やだって!」
 豪 「大丈夫だ、大丈夫。俺に任せとけば、いいから……」

ナルセ「だって、あッ……ちょ、や、やだ! あ……はァ……嗚呼ッ 豪ゥ……!!
    や…… ア アッ!!! ァ……ッ!!」

 豪 「大丈夫か? 辛いかな? ……どう、だ?」

ナルセ「ン……ちが……すご……イイ……なに……どこで、
    こんなの、覚えた、んだよ……ハァ、なんか、腹が立つ……誰に仕込まれたんだよ……」
 豪 「誤解するなよ、映画を見たんだ。こっちのポルノってやつ。
    修正なしの裏のだ。相手が凄く良さそうだったから……触発された」

ナルセ「そ、んなの、誰と見たんだよ……相手って誰が気持ち良くなってたんだ」
 豪 「映像の中の役者に決まってる…………試せって……」
ナルセ「……は、ぁ?」

 豪 「恋人に、試せって……バンドの奴が、とっておきのをくれたんだ。
    もちろんひとりで見たさ、本当だ。誰とも見てない」
ナルセ「! そんなこと……ッ……!」
 豪 「……も、黙ってろよ、ナルセ。続けるぞ?
    ゆっくり、呼吸しろよ。大丈夫だ……。
    なぁ、ずっと、思ってたんだ、小刻みに痙攣してる役者にお前を重ねて、
    あれくらい……お前を、気持ち良くさせたいって……。
    こんなに感じるのは、俺だけだって……思わせたいって。
    そしたら、俺だけになる。お前が求めるのは、俺だけになる。
    他の男なんかじゃ満足できなくなる。離れてたって浮気なんか、したくなくなる。
    いいから、別の世界だと思って、呑まれてろよ……。ここは異国だ。
    もっと解放されていい。もっと、これから良くしてやるよ……」

ナルセ「バ、バカ……! 喋り過ぎる豪って、なんだか変だよ。
    全然、変わりすぎだろ……ンン……ご、う、……ア・ア・アッッウ・・・――――」















 豪 「ナルセ。……ナルセ!!」

ナルセ「……? 豪? どうしたんだ」

 豪 「大丈夫か? 呼んでも反応がないから、焦った」
ナルセ「マジで? もしかして俺、失神した? 落ちちゃったんだ。
    そっか……ビックリした……。だってあんなの、久々だった……」
 豪 「初めてでは、ないんだな」

ナルセ「違うよ。その初めての相手も豪だよ。誤解するなよ。やだな。
    豪とすると、いつも満たされて気持ちいいけど、
    今夜は特別……その、なんというか……驚いた。新鮮だったよ。
    今さらあんなにいいとは、思わなかったな……ちょっと冷静になるとかなり恥ずかしい……
    俺、乱れすぎじゃなかった?」
 豪 「ああ……ちょっと、その、やりすぎだったかな。すまん。
    ガキじゃあるまいし調子に乗りすぎだよな。俺らしくなかった。
    でもお前に会えて、なんだか妙に興奮して……。やっぱこの国の空気のせいかもな」
ナルセ「ホントに豪らしくないのが、驚く。
    本場のポルノを見て、興奮した? ちゃんと相手は俺で想像してくれた?」
 豪 「はは……本当ガキみたいな会話だな。まいったな。
    でも、おまえ、だったよ。
    メチャメチャ、お前を、ナルセを抱きたかった……抱きたくて、
    どうにかなりそうだった……こんな気持ち、夜が来ると毎日だった」

ナルセ「嬉しいな。離れてても豪が俺のこと、考えてくれてたってこと。
    それをちゃんと、言葉に出して言ってくれたこと。本当に別人みたいだ、豪」
 豪 「言わなきゃ、伝わらないんだろ。言って欲しいって、お前の望みだった」
ナルセ「そう。豪は俺の言うこと、やっと聴いてくれた。
    だから俺も豪の言うこと、聴くことにしてたよ。ちゃんとね」
 豪 「俺の言うこと? 何をだ?」
ナルセ「浮気、しなかったんだ。豪が渡米してから、一切だよ」
 豪 「……本当か?」

ナルセ「本当。これからなんだったらゴム無しでもできるぜ? もう豪だけだから。
    もし俺に信用できないなら、リンに聴いてくれてもいいよ」
 豪 「いや、わざわざ今さらそんな嘘をつく必要はないよな。
    今まで自分で浮気したことは、お前は認めてたんだから。
    それは本当だと、思っていいのか。俺はバカだから、そうだと信じるぜ?」
ナルセ「いいよ。俺、もう豪を悲しませるのは嫌なんだ。傲慢だったよ、俺。
    今頃になって、気が付いたんだ。本当に間抜けすぎるけど」
 豪 「今さらいうなよ。お前らしくない」
ナルセ「お互い、らしくないのかもな。
    側に豪がいないなら、会いにくれば良かったんだ。今みたいに。
    そしたら、最高のセックスができたのに。長年、損してたな」
 豪 「お前が言うなよ……」

ナルセ「豪が笑ったの、久々に見た」
 豪 「俺は、ここに来てわりと笑ってるんだ」
ナルセ「意外。ホントに。水が合うのかな?」
 豪 「水、な。ときにここじゃ、水道水から飲むと腹を壊すぞ」
ナルセ「結局ペットボトルは、日本の水か」
 豪 「まぁ、そういうことだ」
ナルセ「……豪とずっとこうしていたいな」
 豪 「シックスティーズを捨てるか?」

ナルセ「はは。それはない。豪がもう日本へ帰ってきたら?」
 豪 「それもない。契約が終わるまではこの国にいるよ」
ナルセ「だろうな。お互いそこは譲れないよな」
 豪 「譲るようなヤツとは、こうしてない」
ナルセ「どうかな。俺は、弱いからな。豪がいないと不安になる」
 豪 「浮気はやめたんだろ?」

ナルセ「そうだよ。でも禁断症状みたいな感じだよ。眩暈がするし、震えもくる。
    人肌恋しい。セックス依存症なんだって、俺……笑うよな」
 豪 「それ、俺とするのもダメなんじゃないのか?」
ナルセ「治療なんか受けてない。まだ自分だけで制御出来てるんだ。これでも。
    でも、豪は俺がいつかキレることが心配かな」
 豪 「あまりにお前が辛いなら、誰かを求めても俺は責める資格がない。
    俺は現にお前の傍にいないんだからな」
ナルセ「甘やかすなよ。豪が甘やかすから俺、ダメになっちゃったんだ」
 豪 「昔からだろ。俺のせいじゃないだろ、それは」
ナルセ「いいや、豪のせいだよ。豪が俺を黙って好きにさせといたから、
    これだけ酷い浮気癖がついたんだ。病気になるくらいの」
 豪 「勝手なこと言ってるな。お前はいつもそんなだよな。
    でも、惚れてる相手に好きをさせとくのは、俺の悪い癖だ。しょうがない」
ナルセ「させすぎだよ」
 豪 「じゃ、もうするなよ。お前は束縛されたいのか?」
ナルセ「そう。豪になら束縛されたいんだ、俺……きっと」

 豪 「ナルセ……」








☆★☆
登場人物:レイジ/ナルセ
場 所:ピアノ・マン


レイジ「ナルセ? ナ、ル、セ。
    おれの指が見えるか? 何本だ? しっかりしろ。
    意識が星条旗の国にでも跳んでたか? 星が見える? 焦点がオカシイぞ。
    そんなに飲んでないだろ、おまえ」

ナルセ「え。……ああ、なんだよ。言い当てるなよ、レイジ。
    アメリカに行った豪に、初めて会いに行った時のこと、思い出してたんだ」
レイジ「……アホか。色ボケしやがって、恥ずかしい奴め。
    ソレ、アレだろ? おまえが天然媚薬に嵌ったって恥ずかしげもなく、
    うっとり報告してきた、凄い快楽のポルノ映画ばりのセックス話だろ。
    しかもかなり前の話だ。今さらなんだ。こんなとこで淫らな妄想してる場合かよ」
ナルセ「……そんな話、したっけ」
レイジ「したさ。おれにしたんだよ、そんな話を。おまえはそういう上と下の口がだらしない男なんだよ。
    そんな淫乱な瞳で妄想しながらクリスマス前のバーカウンターにいたら、色虫が寄りつくだろ。
    いいか、サングラスをかけてろよ。おまえはステージ以外でも外すな。困ったヤツだ」
ナルセ「分かったよ。でもこれかけたら、もっと目立つけど、俺?」

レイジ「ホントおれ様気質でイヤーな男だな、おまえは。どうしてやろうかな。
    そうだな、確かに目立つ。おまえは瞬きしても目立つよ。なんせシックスティーズのナルセさまだからな。
    豪ちゃんがそんなに恋しいなら、もう帰ってこなきゃ良かったんだ。
    ずっと米国にいろ。クリスマスはあっちで過ごせ。これ以上、無駄に目立たなくて済むぜ」
ナルセ「そうもいかないだろ。シックスティーズのクリスマスシーズンには俺が出なきゃ。
    でも……実はさ、この間の夏休暇に行った時、あっちで暮らさないかと言われたんだよ、俺。
    ちょっと……正直驚いて、嬉しかった」
レイジ「誰に?」

ナルセ「豪に決まってるだろ」
レイジ「荒野の豪が? そんなプロポーズを? さすがの荒野も寂しくなったのか?
    あいつが帰ってくりゃいいだろ。仕事なんか放って帰ってこいって云えよ。
    おれのナルセをヤンキーの国へ持って行かれてたまるか。
    ……おっと、今の発言は鏡夜には内緒な? アイツ、意外とやきもちを妬くからな。
    うっかりすると最近は気軽な冗談さえも、命がけだ」
ナルセ「ふぅん。茅野ちゃんて、意外と可愛い人なんだな」
レイジ「手を出すなよ。可愛いなんて思ったら、タマ盗られるぞ」

ナルセ「出すわけない。もう本当に豪だけなんだ。
    豪はさ、心配なんだよ。俺の心の心配をしてくれてる。
    ひとりが辛くてまたフラフラと誰かと寝て、結果、俺が落ち込むんじゃないかってさ」
レイジ「なんだって? おまえが我慢できずに誰かと寝て、おまえが落ち込むことが心配なのか?
    浮気することじゃなくて? 落ち込むことが? どこまでお人好しなんだ、あの燻し銀は」
ナルセ「豪はさ、自分が傍にいないことを、悪いと思ってるんだ。
    でも俺は、豪の仕事を邪魔するつもりは毛頭ない。でも居ないとそれはそれでダメなんだ」
レイジ「あ、そう。もうどうでもいいな。好きなだけ勝手に惚気ててくれ」

ナルセ「でも、すごく心が揺れた。信じられないくらい」
レイジ「じゃ、行けよ。豪の契約が終わるまで、あっちにいろ」
ナルセ「そんな簡単じゃない。シックスティーズがある。だけど……」
レイジ「だけど何だよ? 焦れったいな。好きならもっと素直になればいいだろ。
    自分の気持ちだけ勝手に相手に押し付けて、すっきりすればいいだろ、誰かみたいに」
ナルセ「……それ、誰のことだよ? 固有名詞がある?」
レイジ「さぁ。例えばだよ。いるだろ、そういうタイプのヤツがどこにでも。世間一般の話だ」

ナルセ「レイジ、なんかイラついてるよな、最近? しっかり寝てるのか?」
レイジ「ああ、おまえがいつまでもネチネチ悩んでるからイラついてますよ、オジサンは。
    帰ってくれないから、寝れないし。本当にいい加減にして、帰ってくれませんかね。
    店の灯りを点けてると蛾みたいにお客が集まってくるだろ。クローズにしたいんだ。
    シックスティーズの坊やたちは、うちの店を24時間こども相談室と間違ってるのか?」
ナルセ「この間さ……。ヤバかったんだ。俺。また豪を裏切るとこだった」
レイジ「いっそ裏切れば良かったのにな」
ナルセ「マックに、迫られたんだ」

レイジ「……ああ。なるほどな。
    野郎も溜まってるだろうからな。だったら、ちょうどいいんじゃないか?
    寂しい同士、二人で別の相手を想って自慰してろよ。お似合いだぜ」
ナルセ「いいのか?」

レイジ「何が」

ナルセ「マックと俺、寝てもいい?」
レイジ「おれに訊くことか? 豪に訊けよ」
ナルセ「訊ける筈ないだろ。豪はマックが嫌いなんだ。だめに決まってる」
レイジ「じゃ、我慢してろよ」
ナルセ「レイジが我慢して欲しいなら、そうする」
レイジ「おれは関係ないだろ」
ナルセ「あるだろ。なんでマックを切ったんだよ、レイジ?」

レイジ「はぁ? まさかその話を切り出すのに、
    おまえの妄想相談を延々としたんじゃないだろうな?」

ナルセ「違うよ。俺の悩みは本当の話で、これはついでに聴いただけ」
レイジ「ついでなら、訊かなくてもいいだろ」
ナルセ「ついでに聴くような話だろ? それとも違うのか? もっと真剣?」
レイジ「―――。ズル賢いな、おまえ。いいや、ぜんぜん真剣な話じゃないね。
    ついでで十分なことだよ。どうぞ聞いてくれ。質問は何だっけ? 坊やを捨てた理由?」
ナルセ「そうだよ。レイジが茅野さんの方を選んだ理由だ」
レイジ「どっちだよ。鏡夜のことか? 小僧のことなのか?
    はっきりしてくれ、答えられない」

ナルセ「どっちでも同じじゃないのか?」
レイジ「同じなのか? じゃ、鏡夜にしたからだよ」
ナルセ「なんで? 何で茅野さんにしたんだ?」
レイジ「キョウが俺には役立つし、愛してるからに決まってる」

ナルセ「え?」

レイジ「もう一回言うのかよ? 眠いなら帰れよ、ナルセ」
ナルセ「いま、愛してるって、レイジは云った?」
レイジ「言ったけど? サービスして、もう一回だけ言おうか?
    おれがちゃんと何度も愛してるって言ってたこと、わざわざ鏡夜に言ってくれよな。
    どうもあいつは、おれの告白を信用してないからな」
ナルセ「……俺のことは?」

レイジ「え?」

ナルセ「え、じゃない。俺のことはどうなんだよ?
    茅野さんと、どっちを愛してるんだ。俺のことはもう、どうでもいいのか?
    俺は過去のひとなのか? はっきりしてくれ」
レイジ「……いや。おまえは豪ちゃんを愛してるんだろ?」
ナルセ「そうだけど?」

レイジ「だったら、おれがおまえを愛してなくても、それは良いよな?」
ナルセ「良くないに決まってる。大事なことだ」
レイジ「大事なこと? おまえにとって?」
ナルセ「違う。レイジにとってだよ」

レイジ「……愛してるよ、ナルセ様も、きっと」
ナルセ「も? きっと? 俺は、茅野さんと一緒なのか? 同列なのか?」

レイジ「バカいうなよ、一緒じゃねぇよ。同列なわけない、ふざけんな!
    おまえだけを愛してるに決まってるだろ、ナルセ!!
    …………あれ?」
ナルセ「うん、そうだよな。そうだと思ってた。レイジはそうでないと、嘘だ。
    大丈夫。今のは茅野さんには内緒にしとくから、レイジ。
    あんたの本心は、俺の胸に留めておいて黙っておくよ。心配しなくていい。
    じゃ、もう帰るよ。お邪魔しました。
    おやすみ。恋人の茅野さんにヨロシクな(^_^)」

レイジ「ああ。おやすみ、おれの悪魔サン。
    あいつはセックス依存症より、おれさま至上主義病を治した方が、世の為おれの為になるな。
    今夜も悪魔は嬉しそうに笑った、地獄に生まれた天使はサタンの呪文を解くことはできない、と。
    ああ、クソ……。マジ、ソソルよなナルセは。ひん剥いて犯してぇ。豪の野郎にやりたくねぇな。
    やっぱ、選択を早まったかなァ……。ちくしょう。
    人生を出直すクリスマスがやっと来るってのに、この虚しさはなんだろうな?」




END

2012.12.15