Because
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6月3日 PM09:00
ピアノ・マンの一角 ジャンクスペース
登場人物:レイジ/鏡夜
鏡 夜「錚々たる面々ですね……凄いな」
レイジ「鏡夜、何を興奮してるんだ?」
鏡 夜「興奮もしますよ。こんな状態じゃ、ね」
レイジ「どんな状態? エロい感じ? ベッドに行く?」
鏡 夜「そういう冗談はやめて下さい。
だってアルーシャのサワさんに、シックスティーズの三人、
それにアキラさんと歌姫ジュウリさんですよ?
最高のステージです。これで期待しない方がおかしいでしょう?」
レイジ「期待するほどのライブじゃないだろ、どうせ」
鏡 夜「そんなことはないですよ。即席の椅子を置いて良かったです。
もうフロア席は満席だし、初めから凄い盛り上がりです。カッコイイですよね」
レイジ「おまえさん、豪ちゃんのファンなんだろ? 浮気者め」
鏡 夜「ファンなのは、豪さんだけじゃないですけど、別に。
私は純粋に、音楽が、ライブが好きなんです」
レイジ「仕事しろ、仕事。こっちでも別のバイト料を出すんだからな。
ステージなんかうっとり眺めてる暇はないぜ」
鏡 夜「どうしたんですか。やけに機嫌が悪いですね、オーナー」
レイジ「別に? 悪くないよ?
ただおれは、サワがおまえを口説くのを見て、妬いてるだけだよ。
おまえの大好きなサワは、おまえを狙ってるぜ?」
鏡 夜「サワさんは、私を口説いたりしてませんよ? そうなんですか?
だけど私は、そんなことでボーカルの評価はしませんから。
私生活のことは、音楽とは全然関係ありません」
レイジ「サワは、おまえの豪ちゃんのことも口説いたんだぜ。ムカつくだろ?
あの切れ長目の美形ボーカルは、相当手癖が悪いぞ。気をつけろ」
鏡 夜「サワさんは、一部でそういう噂がないわけでもないですね」
レイジ「噂じゃないだろ。本物だろ。ステージでも見てみろよ? 酔っぱらいすぎだ。
どれだけステージ押してるんだ? MC喋り過ぎだろ。アキラに絡みすぎだろ。
もう一時間は演奏してるぞ。うちは延長はしないからな。……ったく。
演奏する人間が泥酔してるライブだなんて、ホントにろくなライブじゃないな」
鏡 夜「泥酔までしてませんよ。でもだからジャンク・ライブなんでしょう?
いいじゃないですか、外国みたいで。お客さんも皆さん楽しそうですよ」
レイジ「おれは好きじゃない」
鏡 夜「何をそんなに機嫌わるいんだか……。貴方が飲み過ぎじゃないですか。
ああ、ほら終わりましたよ。バンドの皆さんもカウンターに来るので、
空気読めない酔いどれオーナーは、隅に引っ込んでて下さいよ」
レイジ「なんだよ。みんな飲んだくれてるのに、おれは除け者かよ。
サワにケツ掘られても知らないからな。あとで泣きつくなよ。
勝手にしてろ。おれは両老舗ライブハウスの常連さんスペースで飲んでくるから」
鏡 夜「駄目ですよ、それ以上飲まないで下さいよ。
ピアノマンのお得意様もわりと多いようですから、接客ホストを頼みます」
レイジ「なんでおれがホストなんか。ヤダね。
……おい、あれ。あそこにいるの、新条社長じゃないか?
なんであんな御仁まで、こんなクソライブに来てるんだよ」
鏡 夜「ピアノマンの一部が会場だからでしょう。クソは言い過ぎですよ、オーナー」
レイジ「ああ、ヤバいな。小僧に話しかけてるぞ。狙われたな、マックの奴」
鏡 夜「彼は、新条社長の趣味なんですか?」
レイジ「あの年齢の、顏の造形が整ってるやんちゃでシャイな子猫が社長の趣味だ」
鏡 夜「だったらこの際、社長に差し上げたらどうです。片付いてスッキリしますよ」
レイジ「そういうこと言うなよ。新条社長にマックが掘られでもしたら可哀想だろ。
アイツ、ホントにガードが緩いな。なんなんだ。狙われすぎなんだよ」
鏡 夜「そんなに気になるなら、マックさんの貞操を護りに行けばどうですか。
おれのものに手を出さないでくれって、宣言でもしてね」
レイジ「なんだよ、おれのものって。引っかかる物言いするなよ。
そういうのじゃないよ。おれのじゃないし。なんだよ。
だってハンターに狙われてることも知らないで、無防備で可哀想だろ。
マックは掘られる側の経験ないんだぜ。新条社長は、かなりの手練れだからな。
それにあいつは酔うと流されるタイプらしいから、危険だろ。
あのバカ、愛想笑いなんかして、カモネギかっつーの。危ういヤツだな。
……あー、ダメだな。マズイなあれは。ちょっと行ってくる」
鏡 夜「やれやれ。……危ういのは、あなたの方でしょう」