I Want You Back
1
2月29日
マックのマンション部屋
登場人物:レイジ/マック
レイジ「……ッ……ふぅ…………。
アチ……。 シャワー、借りるぞ」
マック「ドウゾ……(〃_ 〃)ゞ 」
レイジ「? なんだ」
マック「……良かった?」
レイジ「マジか。うぜぇ。
昭和のセリフじゃあるまいし。ベタすぎるだろ。
そんなこと訊くか普通? しかも唐突に、何なんだ」
マック「ちょっと訊きたくなったんだよ……今まで訊いたことないんだから、
ちょっとくらい答えてくれたっていいだろ。どうなんだよ?」
レイジ「どうせ訊くならもっとセンスの良い訊き方しろよ。興ざめなんだよ」
マック「いや、セックスが良かったか悪かったかを気取ってセンス良く言う
必要があるでしょうか? むしろその方が照れるんですけど」
レイジ「そんなことを訊くとこが、もうすでに台無しなんだよ。
男性雑誌のドン引きするセリフ上位に書かれてなかったか?」
マック「……そんな言い方しなくたっていいだろ。なんだよ……ケチ」
レイジ「勝手に拗ねてな。風呂、使うからな」
☆☆☆
レイジ「フー、さっぱりした。そろそろ気温が高くなってきたかな。
クーラーでもつけてやった方がいいかもな」
マック「その時期まで関係、続いてるか謎ですけどね」
レイジ「おまえは冷水シャワーでもすれば、頭もちったぁ常温になるぜ?
まだ、しつこく拗ねてんのか?」
マック「もういい。汗も引いた。おれの体も心も氷のように冷たくなった……。
風邪引いて、今夜のシックスティーズも病欠になるんだきっと……」
レイジ「そんなにいじけなくてもいいだろ。
どんだけメンタル弱いんだ。いい加減にしろ。
おまえが風邪を引いたら、何故かおれがナルセに怒られるんだ。
最近おまえのことは何でもおれのせいなんだからな。
まったく解せないよな。そういう関係でもないのに」
マック「…………今夜は、休む……」
レイジ「はー、もう、何なんだよ!!
わかった、わかったよ、言えばいいんだろ、良かったよ! 良かったです!
気持ち良くて死ぬかと思いました! もう天才じゃないの、おまえ!
もうホント、こんなの経験なくて最高の気分でした!!
以上。これくらいでいいのか? これで満足か?」
マック「そこまで言わなくて良いだろ……(T^T) 逆にバカにされた気がする」
レイジ「バカにはしてない。少しなら。こんな経験ないのは、本当だ」
マック「……それは良いってこと?」
レイジ「まだそれを言わせるのか。やめろ。うんざりなんだよ、もう」
マック「だって、結果を訊いとかないと不安じゃん。悪くても改善できないし」
レイジ「おまえ、良くなかったと答えた相手には改善してやってたのか?」
マック「まぁ、一応、ダメなら改善はするだろ。そういうとこ、気にするんだよ」
レイジ「じゃあ、いまいちだったかな」
マック「ええ!? マジで?! 良くなかった?!」
レイジ「もっと上があるのなら歓迎って意味だよ。だろ?」
マック「そんなの!……おれが訊いた主旨に反するだろ……不安を煽るなよ……」
レイジ「あのなぁ。不安不安って、おまえ本当に肝がちっさいんだか座ってるんだか、
解らない奴だな。かなりベッドでは大胆なことをするくせに、小心者かよ。
相当遊んでたのか、おまえ? 女にああいうことして、変態扱いされなかったか」
マック「変態ってなんだよ、そんな変態行為してねぇだろ、おれ!
普通よりちょっとだけ、毎回退屈しないように工夫、入れてるだけだろ」
レイジ「見かけよりイヤラシィって意味だよ。女なら、きっとそういう。
ギャップ萌えか。BLでいうトコの、ヘタレ攻めっていうアレかな?」
マック「何だよそれ。あんた、よっぽどそのBLとかいうのが好きなのか?」
レイジ「結構、面白いぜ? お客にそういうのが好きな子がいるんだ。
興味を持ったら、喜んで貸してくれた。まったく驚きだぜ」
マック「どんなんだよ、BLって」
レイジ「最近のお嬢さんは、男同士の官能ポルノ小説を読むんだよ。知ってたか?」
マック「知らない。変な時代だな。いったいそれの何が萌えなんだよ。
それにおれはヘタレじゃねぇよ。……いや、そうなの? ヘタレなの?
小心者だから? でもヘタレで攻めるって、どういう状況だよ?
ヘタレな奴は攻めないだろ、普通。そもそもヘタレの定義って何?」
レイジ「そのギャップ差が、イカスってことなんだろ」
マック「そうなの? それがイカスと、あんた思うわけ?」
レイジ「知らん。別におれは思わない」
マック「あんたって本当に言うこと適当だなー」
レイジ「おまえは本当、イチイチうるさいし、うざい」
マック「うざいって、ひでぇな。おれは黙ってればいいんだっけか?」
レイジ「そう言ってるだろ。再三言ってる。頭の悪いのは勘弁してくれ。
おまえと話してると、いちいち子供っぽくて無性に腹が立ってくるんだよ。
おれはガキが嫌いなんだ。基本的には小僧とは一回限りなんだ。
おまえは例外なんだから、ちょっとはおれの言うことを訊けよ。
もうガキって歳でもないんだから、いい加減なりふりを改めろ」
マック「腹が立つ? なんで?!」
レイジ「知らん」
マック「……なんだよ、それ。知らん知らんて、アンタの方が子供みたいだろ」
レイジ「うるさい。おまえのレベルまで降りなきゃならんのが、腹立つんだ」
マック「ひでぇ。おれ、そんなにレベル低くねぇけど」
レイジ「はぁ? 充分、低いだろ。セックスが良かったかどうか訊いてくるとか、
不安になるだとか、あきらかにレベルが低いだろ。学生気分か、倦怠期のOLか。
おれはそんな下等なつきあいはしたことがないんだよ。
まぁ、別につきあってないけど、おまえとは」
マック「わざわざ言う必要ないだろ。分かってるよ。悲しくなるだろ。
じゃあ、どういう反応がレベル高いんだよ。高水準だよ。
どんな返しだと、ムカっ腹立たずに済むんですかね?
高級オーナー様は? ああ?」
レイジ「なんだよ、そのヤカラ風な態度。さらに腹立たしいな。
だから黙ってりゃいいって言ってんだろ、初めから回答は提示してる。
カンニングしても受験に落ちるようなバカだろ、おまえ?」
マック「だって、黙ってたらあんた結局、何も喋らずに帰るだろが?
やっと喋ったと思ったら、一言『帰る』って言うよな?!
この前も、そうだ、その前もだろ!!
……あれ。なんか、結構会ってるんだな、おれたち」
レイジ「だから? 帰る時に帰るって言って何が悪い?
礼儀正しいのに文句を言われるのか。どこの文化だよ」
マック「おれとのセックスのあと、話もしないで帰るって、そんなの何の進展もないだろ。
それじゃ、おれが茅野に勝つチャンスがぜんぜんねぇだろが!」
レイジ「そんな無駄なチャンスを狙ってたのか。呆れたな。
そんなの、おれの知ったことかよ。
おれがおまえに味方したら、鏡夜に悪いだろ。
だいたい、鏡夜に勝てるつもりなのか、おまえ。驚くほど気楽だな」
マック「はぁ?! おれが勝てない思ってて、あんたおれとやってる意味あんのかよ?
茅野にすでに軍配が上がってても他の人間とやるってんなら、相手は誰でもいいだろ?
つーか、それでおれと寝る必要ねぇよな? 茅野が可哀想だ」
レイジ「バカなのか。本気で絶句しそうになるな。
誰とでも良くて、何故おまえとわざわざする必要があるんだ?
相手には困ってない。おまえが良いからに決まってるだろう。
仕方なくじゃない、わざわざ選んでおまえとしてるんだ」
マック「えっ……」
レイジ「勘違いするなよ。
だからといって、おまえが好きなわけじゃないからな。
てめぇの恋敵に同情してる身分じゃないぜ」
マック「わ、分かってますぅーーー!!」
レイジ「分かってるなら、いちいちおれの懐を探るなよ。懲りない奴だな」
マック「……いいだろ、それくらい。一応、チャレンジしてるんだよ。
今日は昨日と違うだろ。前日と同じ日にするかしないか自分次第だ。
毎日同じようにしてろって言われても、できないのがおれだよ」
レイジ「明日にはおれの気持ちが変わってると思うのか? たった一日で」
マック「思ってるけど? それが毎日ってやつだろ。
同じように時は過ぎるのに、過ぎた時間を振り返ると積み重なってる。
厚みと重みは毎日増える。毎日の内容によって、結果が違う。
過去はさぞ豪華なハードカバー本だろうと思ってたのに、
振り返ってみたら、実はぺらぺらのペーパー冊子だったなんて、
すごく残念な気持ちになるだろ。同じページ数なのにだ。
だからその差が、毎日の今日にかかってるんだ」
レイジ「……おまえって、重苦しいことを考えてるんだな」
マック「重苦しいか? 普通に日々思ってることだけど。
あんたとこうしてる時間って、毎日じゃない。
でも会わない間の日数も、普通に過ぎていく。
会った回数は多くはないのに、会わない日数を足すと、結構な日数になるよな」
レイジ「待て。何で足すんだ。会ってないのに」
マック「おれがあんたのことを考えてる時間だからに決まってるだろ」
レイジ「うわ。恥ずかしいこと言い出すなよ、おまえ」
マック「は、恥ずかしかった……? そう? そうかな。ちょっと恥ずかしいかな……」
レイジ「だったらおまえは、これから勝手に好きなだけ足し算にして、
何かの大層な辞典みたいに、読まれもしないのに無駄に分厚くなってろ。
行く先は、古びたカビ臭い図書館だ。
おれはスマートに電子書籍に移行する」
マック「おまえはって……他人事かよ。電子書籍って、データ容量で対抗かよ。
あんたはもしかして、おれとのことは、引き算なのか?」
レイジ「誰も引き算するとは言ってないだろ。でも足し算ではないな。
おれは毎日、おまえのことなど考えてないからな。生憎そんなに暇じゃない」
マック「ひっでぇ……。悪魔なのか、あんた。
そんなにはっきりと言わなくていいだろ、つきあってなくたって、傷つくだろ!
少しは相手に思いやりを持てないのかよ?」
レイジ「持ってるよ?
過度な期待と余計な勘違いをさせないため、思いやりを持って正直に答えてる」
マック「勘違いはしません。
こんなに否定されてて勘違いするほど妄想力ないです」
レイジ「掛け算になることは、たまにはある。かもな」
マック「ほんと? それはやっぱ、会話の中身のおかげだろ?
会話はやっぱ必要なんだよ。
セックスだけしてても、掛け算になんかならないだろ?」
レイジ「いいや。掛け算はセックスの良し悪しだな。
終わって会話すると、割り算したくなるから気をつけろ」
マック「……結局あんた、おれのするセックスが気に入ってるだけなのかよ?
それだけ? 人のこと変態扱いしといて、そういうことか?」
レイジ「なにが? 快楽ってそんなものだろ。相性と心は別だ」
マック「あんた本気の相手を傷つけるような、そんな心ない言い方して、
よく今まで相手に刺されなかったな。 ナルセそっくりじゃねぇか」
レイジ「ナルセは、たまに刺されそうになってたぜ。
ナルセの麻薬は常習性があって、相手から理性を奪い、堕落させる。
おれがしっかり護衛してたから、あいつは無傷の無事で済んだんだよ。
何人も一度に相手にするから恨まれるんだ。
もっと利口にやらないとな。お坊ちゃまは困るよな」
マック「あんたらよく似てるよ。
でもあんたは利口に使い分けてるってわけだ。
要するにおれの分担は、カラダだけ、なんだよな?」
レイジ「失敬な。色情狂のナルセと一緒にされるのは心外だ」
マック「そうじゃん。セックスだけだろイイのって?
おれのセックスだけなんだ。あんたが求めてるのって。
おれがどういう心を持つ人格の人間かは、あんたにとってどうでもいいんだ」
レイジ「大げさだな。おまえという人間に、そんなに自信があるのかよ?」
マック「……。それは、ないよ。いや、あるよ。いや、やっぱないかな……」
レイジ「自信もなくて、よく大見得きれたもんだな。
中身が伴わないなら、もっと中身を強化すればいいだろう。
おれが本気で中身に惚れるような、そんな人間になる努力をしたらどうだよ。
見た目で分かるような、おれが認めるイイ男になったら、どんな会話も必要ない」
マック「あんたを超えるイイ男になんか、今さらなれるわけないだろ。
嫌味かよ。おれはただのハウスバンドのバックメンバー、しがないベース弾きだ。
ブランドは、シックスティーズのベース。見た目は、それだけだ。
だからおれの中身を知って貰うのに、会話するのは悪くない筈だろ。
なのに何で会話を省くのかな、教えてくれよ?」
レイジ「おまえと話してると、不要な発見があるから、それは困るんだよ」
マック「……何でそれがダメなんだ? 困るってなんでだよ」
レイジ「今はそんなもの必要じゃないからだ。バランスが悪くなる」
マック「何のバランス?」
レイジ「とにかく、今後もおれに無意味な発見をさせるな。以上」
マック「おれと喋ると、心がどっか動くのか、あんた。
だったら逆に、バランス良くなると思うけどな。
カラダとココロが一致すると、きっと空虚も埋まるんじゃねぇの?」
レイジ「答える必要なし」
マック「じゃ、いいよ。おれこうやって、時々あんたの心を動かすよ」
レイジ「自惚れるな。簡単に動くかよ。だいたい、そんなこと言ってない。
勝手な解釈するな。とにかくおまえは、黙って腰振ってりゃいいんだよ」
マック「はッ?! あのさ……もっとさ、言いよう、あるだろ?
あんたの昔の彼氏は、相当な強者だったんだろうな」
レイジ「そうだな。おまえでは到底敵わない、カッコイイ男だったよ。
相当イカレタ詐欺師でもあったけどな。
でも聞きたくないんだろ? おれの昔の男のことなんか」
マック「この世にいない奴のことなんか、全然相手にしてねぇから、おれ。
おれの敵は目下、茅野だからな。
どうも最近、ピアノマンで敵意を感じるんだけどな」
レイジ「それはおまえの自意識過剰だ。鏡夜は冷静な男だぜ? お客様は神様だ」
マック「そうかな。あんたのことになると、あんまりクールでもなさそうだけど。
結局、今思うとやっぱり最初からおれに釘をさしてきてたわけだし、
あいつも捨てられると思って必死なのかもしれないな、たぶん」
レイジ「鏡夜と張り合えると思ってるおまえが不憫だよ。
最終的に同情票を入れそうだ。
可哀想なマック募金でもピアノ・マンで始めるかな?」
マック「お情けなんか、いらねぇからな!」
レイジ「そんなセリフを吐いて、あとで後悔することになっても知らないぜ」
マック「スイマセン。最悪の展開の時は、そのお情け取っておいて貰えますか。
念のため保険お願いします。さきのセリフは撤回します」
レイジ「やれやれ、本当にプライドがないねぇ、おまえさんは」
マック「プライドはある。けど、それ以上にあんたが欲しいだけだよ、おれ」
レイジ「……まぁ、とにかく、おまえじゃなくても良いってことはない。
だけど、無理矢理ドアを叩きまくる不作法で落ち着きのないのは、門前払いだ。
それくらいは理解できるよな?」
マック「わかったよ。ごめん……すみませんでした」
レイジ「別に謝らなくてもいい。おれが悪いことをしたような気になるだろ」
マック「まぁ相当、あんたの口は悪いけどな。
おれはさ、ここ都会に出て来てから、いつでも焦り過ぎなんだ。
分かってるんだ。そんなことくらい。でも気づかないふりをしてる。
本来、石橋は叩いて渡るタイプで、考えすぎている間にもうコトがどんどん先に
進んでるってことが、ここでは多いんだ。おれとスピードが違う。
だから少しずつ早める努力をした結果、今度は焦り過ぎで、
間の取り方が妙でオカシイって、皆に言われる始末なんだ。
バランスって難しいよな。ホント……あんたの言った通りだよ」
レイジ「そんなにしょんぼりするなよ。かわゆくて慰めたくなるだろ」
マック「おれって、あんたの何?」
レイジ「石ころ」
マック「……そうでしたね。
じゃあ、石ころ以上の誤解をされてもいいなら、慰めれば?
同情で濃厚なキスをしてくれたら、元気になるかもな」
レイジ「じゃ、やめる。どこが元気になるか分からないからな。
もうおれは、帰りたいんだ。眠い……寝かせてくれ……」