Dear, hateful music The Rose

♪ 09
登場人物:ナルセ/リン
場所:閉店後のシックスティーズ



ナルセ「結局、俺のことを本気で心配してくれてたのは、メリナだけってことだよな?
    他の誰も、なぁんにも俺に言って来なかったわけだからな?」

リ ン「それは、どうかと思うぜ? そんな言いぐさはないだろ。あんまりだ。
    みんな、ナルセのことを心配してたんだ。勝手なこというなよ」
ナルセ「勝手なのは、みんなの方だろ。勝手に判断しちゃって、何だよ。
    俺がいつ、シックスティーズを、セブンレイジィロードを辞めるって言ったよ?
    やめるわけないだろ。俺のバンドだぞ。飛躍しすぎだろ。皆どうかしてる」
リ ン「だって……!! あの状態じゃ、そう思うだろ? おまえの方が、どうかしてたんだ!
    おまえ、自分がどんな状態か、わかってたのか?
    豪が去って、ウツならわかるよ? なのに、おまえはずっとソウ状態だったんだぞ!
    テンションが高すぎて、話なんか通じると思えなかった。異常だったよ。
    豪に捨てられて、もう気がオカシクなったんだって、みんな思ってた!!
    だから恐くて、誰も何も聞けなかったし、言い出せなかったんじゃないか!」

ナルセ「思わないね。他の誰もがそう思っても、リンだけは、理解してると思ってたのにな」
リ ン「理解できるわけないね! 俺が声かける隙なんか、無かったじゃないか!
    枝間のバンドの美女姫たちと毎晩、遊びにいっちゃってさ、
    挙句に美女侍らせて、にやついてる楽屋写真までネットにアップされちゃうし、
    ドン引きだよ! それに暇があれば、枝間とイチャイチャしちゃってさ……!!」
ナルセ「リン、妬いてたのか?」
リ ン「妬いてなんかいませんーだ。ぜんぜん、羨ましくもないですー。
    俺も美女まつり誘ってくれたらいいのにとか、思ってませんでしたー。
    ナルセは勝手に枝間ちゃんと、ラブラブしてればいいですぅ」

ナルセ「しなかったから、殴られたんだけど」
リ ン「それは自業自得だろ。酷いよ、おまえは。
    ほんと、おまえの身勝手さは、死神をも殺すよな。なんか同情するわ」
ナルセ「なに、死神って」
リ ン「何でもないよ。枝間ちゃん、サラディナの不当解雇問題のTV報道で失態さらしてから、
    あんまり表に出てこなくなったみたいだけど……。どうしてんの?
    経営にもチョイ噛みしてたなんて、知らなかったよ。ミュージシャンで食うのってホント難しいよな。
    枝間ちゃんは、ちゃんと生きてるのか? おまえに振られて、自棄起こしたりしてないかな?
    それはそうと、まだあの店に懲りずに出続けてる、おまえの方の神経を、疑うけど、俺」

ナルセ「なんで? 別に構わないだろ。まだ出演依頼が来るから歌ってるんだけど。
    俺は歌えるなら、どこだっていいんだ。場所なんか、関係ないだろ。
    奴はシックスティーズのナルセだって、みんなが知ってれば、それで問題ない。
    お客だって、店が不正で嫌なら、来なきゃいいんだ。来るから、店は潰れない。
    でももし店が潰れたら、また別の店で、ミュージシャンたちは仕事するさ。それだけのことだ」
リ ン「恥知らずめといいたいけど、おまえに文句言うやつはいないだろうね。
    ナルセのビジネス思考のそういうとこは、凄いと思うよ。
    でも、店にもおまえにも裏られた枝間ちゃんは、そうでもないんだろうな?」

ナルセ「枝ちゃんは大丈夫だよ。彼もこの業界は長いしな。そのうち、何食わぬ顔して出てくるさ。
    彼は一生懸命なんだ。一生懸命すぎちゃって、それを隠すのにわざと無理して、損してる。
    でも、枝ちゃんは、俺のファンだし、またシックスティーズに聴きにくれば、きっと元気になるさ」
リ ン「……なんだその理論。メチャメチャ俺さま理論だな。
    ちょっとは殊勝になったかと思えば、こんなだよ。おまえって奴は……。
    ナルセの高飛車は、もう一生、治らないね。無理だ、無理」
ナルセ「治るとか治らないってものじゃないと思うけど。性格は病気じゃない」
リ ン「例の依存症の方は、どうなんだよ……治療、受けないのか」
ナルセ「セックス依存症?」

リ ン「そう。その恥ずかしい病気だよ。よく平気な顔で言えるな」
ナルセ「恥ずかしい言うなよ。アルコール依存症や、買い物依存症と変わらないんだから」
リ ン「そうかぁ? 受ける印象は変わると思うけど」
ナルセ「治療はしてない。薬とか処方されたら、ステージに影響しそうだし。
    けど、日々、性的欲求と戦ってる。もうおまえでもいいから、したい」
リ ン「へーそうかよ……」
ナルセ「冗談だよ。でも、枝ちゃんの誘惑をクリアできたんだから、何とかなるだろ」
リ ン「本当に、豪が行ってから、誰ともやってないのか?」
ナルセ「そうだけど。だから、他に熱中することがいるんだ。
    でも俺には、他にって何がある? 遊んだって、全然気は紛れない。
    もう、歌うしかないんだ。ステージしか熱中できるものってない。
    やっぱ、趣味って必要なんだな。何もないと、こんな時に困るなんてな」

リ ン「おまえって、セックスが趣味みたいなもんだったしな。
    でも、豪はナルセが浮気してないとは、絶対思ってないだろうな。
    去った時点で、ナルセはまた誰とでもよろしくやってると思ってるぜ。
    なぁ、一度、話し合ったら? 電話して、豪にちゃんとそう言えばどうかな……」
ナルセ「俺の言うことなんか、豪は信用しないよ。また言い訳の嘘としか思わない。
    だから、わざわざ電話で言っても無駄だし、いいんだ、もう」
リ ン「え、いいって、どういう意味?」
ナルセ「豪が帰ってきてからで、いいってこと」

リ ン「三年後に? だって、もう別れたんだろ?
    豪ちゃん、あっちで恋人作って帰ってこないかもしれないぜ?」
ナルセ「別れたなんて、言ってないけど」
リ ン「別れてない? 別れてないのに、豪は、おまえを置いてったのか?」
ナルセ「置いてたって……仕事なんだから仕方ないだろ。
    俺と仕事のどっちを取るって、そんなこと言うわけないだろ、俺が。
    今時、女性だってそんなこと言わないぜ」

リ ン「いや、そうだけど……でも、海外だぜ?」
ナルセ「だから? 今までだって、同じ日本にいて、全然会えなかったことなんか
    日常茶飯事だったんだぜ? だったらどこに居ようが、まったく関係ないだろ」
リ ン「いやいやいや、環境が、あっちの環境が全然違いますよ、ナルセさん。
    新しい場所で、過去を忘れ去って、新しく出発するのに最適な環境なんだよ?
    ビバ、アメリカ―!!みたいな、人生やり直すチャンス的な状況だよ?」
ナルセ「そうだな。新しい仕事で、何か新鮮なことはあるよな」
リ ン「いやいやいや、そういうんじゃなくて。何でそんな前向きトークなの?
    アッチは色恋の誘惑だって多いし、アッチはとにかくゲイ本場?だし、
    それに日本を発つとき、豪ちゃんはきっと、『また俺が居ない間に浮気したら、
    おまえとは別れるからな』って言って出国したよね?
    豪なら言うはずだ。……だろ?」

ナルセ「……聞いてたのか?」

リ ン「いや、聞いてはないけど、想像はつく。つきます、全然。豪だもの。
    やっぱ言ったんだ」
ナルセ「……そうだよ。だから、我慢してるじゃないか。
    今までとは違う。ちゃんと、言ったこと、守ってる。浮気しなきゃ、いいんだろ、俺が。
    だから、すごく頑張ってるんじゃないか、毎日」

リ ン「……ナ、ナルセ……。(T_T)
可愛い奴なんだけどなぁ

ナルセ「でも豪は、俺のことなんか信用しない。
    しょうがないさ。長年、俺が裏切り続けてきたんだから、当たり前だ。
    どうせ日本を離れたその夜に、俺は誰かと寝てると思ってるよ。
    だから豪の中では、もう別れてきたとでも思ってるかもな」
リ ン「じゃ、どうするんだよ。豪があっちで恋人作ったら、どうするんだ?
    やっぱり無駄でも、ちゃんと話した方がいいよ。
    俺からも、話してやろうか?」
ナルセ「いいって。もし仮にそうなったら、それは豪のせいじゃない。
    結局、豪にその選択をさせたのは、俺が悪いからなんだ。
    自業自得だって、リンも言うじゃないか。その通りだよ。
    自分が浅はかなせいで、全てが台無しになる。
    俺は、これから豪が苦しんだことを、身をもって耐えていくんだ。
    逃げずに。それくらいのことは、俺はした方がいいんだ。そうだろ」
リ ン「ナルセ……ちょっと大人になったんだな」
ナルセ「俺はとっくに大人だけど」

リ ン「だけどな、まだ望みはあるさ。豪ちゃんは生真面目だから、
    ナルセが本当に浮気したかどうかの確認をとるまでは、恋人作らないかもしれないし」
ナルセ「大丈夫じゃないの」
リ ン「……ちょっとまて。その大丈夫は、どこにかかってるんだ? 何の大丈夫?」
ナルセ「だから、豪は、俺以外の恋人なんか、作らないってこと。
    三年くらいで、俺を忘れられるわけないだろ? 大丈夫だよ」
リ ン「今までの会話は何だったんだ? 全然反省してないだろ、ナルセ。
    自信過剰もいい加減にしないと、その通りにならなかった時のショックがデカいぞ!!
    おまえ、おまえさ。驚くよ、俺は……はぁ。
    本当にその、おまえの、相手に戦意喪失させるほどの高貴な俺さま自信は、
    どこからくるんだ……?」

ナルセ「だって、俺は……

    ――――――まだ、歌えるからな。

    ナルセさまが歌ってる限りは、豪は俺から、離れられないんだよ。
    それくらい、歌の力ってすごいものだぜ? おまえ、知ってたか?」



リ ン「……ああ、知ってる。
    おまえは絶対、硝子ちゃんじゃねぇよっ(ーー゛)」



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