Dear, hateful music The Rose
愛しくて憎らしい音楽

♪ 01
登場人物:マック/リン
場所:深夜のナイトカフェ



マック「どういうつもりなんだ、あいつは?
    あたまがどうか、しちまったのか?」

リ ン「ああ。どうかしちまったんだろ(ー_ー)」
マック「なんだよ、リン。あいつの保護者だろ、お前。
    だったら他人事みたく言ってないで、何とかしたらどうなんだよ」
リ ン「知るかよ!! みんなして俺にナルセを押し付けるなよ!
    いい加減にしてくれ。俺だってお手上げなんだよ。
    マックがあいつに言えばいいだろ」
マック「なんて」

リ ン「セブンレイジィロードのバンマスが、余所のバンドに出てるって、
    どういうことですかね?ってストレートに直接聞けば。俺に聴くんじゃなくてさ」
マック「店との契約はどうなんだよ?
    ハウスバンドがヨソの店に出るのは、契約違反じゃないのかよ?」
リ ン「それが……シックスティーズでは、余所の箱バンに参加するのはダメだけど、
    フリーランスとか、素人バンドに個人で出るのは、特に規定はないんだよ」
マック「マジでか。そんなことでいいのかよ、この業界?」
リ ン「ソロ活動なんかも別に禁止されてないし、店を休むのは論外だけど、
    店が休みや貸切で演奏がない場合、問題じゃないんだ。どこで歌ってようがね。
    ライバル店であっても、オーナー同士の許可が出れば、問題なし」
マック「にしたってだ! 確かに穴は空けてないけどな。今は改装中だし、
    休み中に何をしても、ナルセの勝手だけどな! けどバイトしすぎだろ?
    あれじゃ体壊すぜ? ほとんど休みナシじゃねぇかよ。
    しかもリハもろくにできないようなスケジュールでバイトされた日にゃ、
    俺たちに支障が出るってもんじゃねぇのかよ!」

リ ン「そう言ってくれよ、だから。お前が言えよ、マック」
マック「リンが言って聞かないものを、俺が言って聴くのかよ?」
リ ン「俺は……直接的なことは、ナルセに何も言ってないけど、
    マックの言うことなら聴くんじゃないの? ベッドの中とかならさ」
マック「……俺、最近、寝てねぇよ。ナルセとは……もういいんだよ」
リ ン「あれ。そうなの? へぇ。そっか、だからなんじゃないか?
    マックが構わないから、余所の男に持ってかれちまったんだ」
マック「なっ……! それを言うなら、ナルセの彼氏に言えばいいだろがっ!!
    俺に言うのは筋違いだろ」
リ ン「彼氏は……はぁ。やっぱそうなのかな。やっぱり原因は彼氏か?」

マック「ナルセの彼氏って、前にいたギタリストなんだろ? 豪、とかいう」
リ ン「……やっぱ、誤魔化しきれてなかったのか」
マック「あいつ、つい先日まで機嫌めっちゃ良かったじゃねぇかよ」
リ ン「ああ。豪と同居してた時期な。その間は借りてきた猫みたいに大人しかったよな」
マック「また別れちまったのか?」
リ ン「うーん、豪、仕事を始めてさ……」
マック「どこの店に行ったんだよ、いっそ呼び戻せよ。ニノには悪いけど」
リ ン「アメリカ」

マック「はぁ?! 外国?!」
リ ン「そう。やめとけばいいのに、日本のバンドじゃなくて、
    海外からオファーがあったんだ。しばらくはあっちでやるって行っちゃった」
マック「おい。それって、そんなの、ナルセには浮気しても良いって、
    許可だしちまったようなものだろが……度胸のある彼氏だな」
リ ン「浮気の許可を出すような男じゃないよ。
    つまり、だから別れちゃったってことだろ。
    別れたのは何回目だか忘れたけど。三年は戻ってこないって。
    今度の別れは、もう元の鞘には収まらないんじゃないかって思うよ。
    いくら何でもその長さと距離、待ってるなんて、ナルセには無理だもん」
マック「そんでやけを起こして、あのイケ好かない野郎とデキちまったってわけかよ?
    冗談じゃねぇな。あいつ、本当にいい大人なのか?」

リ ン「本当によりによって、何であんなヤツなんだよ……はぁ。
    どうかしてる、あんな男とつきあうなんてな。ナルセは豪に振られて、頭がどうかしたんだ。
    あの男がどれだけ昔から、ナルセのことを崇めてたか知らないけど……
    ナルセのことを神と呼んで、足元に口づけしそうな勢いなんだぜ?
    『俺の神、ナルセさん』状態だぜ? 気持ち悪ぅ……」
マック「げ。ありえねぇな。そいつ、何者だよ。
    そうだ、レイジは? こうなったらあの男の出番だろうが?
    ナルセを寝盗られて、黙ってるわけねぇだろ。ナルセにベタ惚れなんだろうが?」
リ ン「レイジ!? やめてくれ!
    俺にしたら、レイジの方が大変だよ!!
    レイジを抑えるのにも限界だよ! だって殺すっていうんだぜ、レイジのやつ!
    本当にやりそうで怖いだろ。どうすりゃいいんだ、まったく」
マック「そんな物騒な男には、見えねぇけどな……」

リ ン「マックはレイジを知らないからだよ。ピアノマンのオーナーなんて表の顔で、
    ものすごく裏じゃ危険な人物なんだから。暗黒街の顔役だ。マフィアみたいな、
    でもヤクザじゃないけど……ちょっと大げさに言い過ぎたけど、まあ、そんなイメージだ」
マック「要するにヤバイ奴なんだな? じゃあ、いっそ殺して貰おうぜ?
    俺たちはナルセが戻ってくればいいんだからさ、な?」
リ ン「好き勝手言ってくれるよ……。
    だけど、もう少し我慢してくれよ。ナルセだって、いつまでもああじゃないよ。
    店がリニューアルで休んでる間だけだ……だぶん」

マック「だといいがな。ミスターオールディーズは、あのまま野郎のクソバンドに
    盗られちまうんじゃねぇだろうな? そんなのはゴメンだぜ」
リ ン「分かってるよ。ヤツの引き抜きの口説き文句は、ハンパじゃないって噂だ。
    胡散臭い野郎だよ……。若いくせに手段を選ばず、ヤツにメンバーを持って行かれて
    ボロボロになったバンドが、いくつもあるらしいからな」
マック「だったら! 早く何か手を打てよ、リン! 最優先事項だぜ?
    ナルセの心変わりを待ってる場合じゃねぇだろが?」
リ ン「だっから!!
    俺に言うなって言ってるだろ!
    もう殺しの依頼にするなら、レイジに直接頼めよ!」


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