More Than I Can Say(1)

登場人物:美紀/咲子
場所:シックスティーズ

咲子「ちょっと、美紀さん!」

美紀「今年初ステージのナルセを想いかえして、今浸ってるとこだから、あとにして」
咲子「じゃあ、私がそこへ素敵なエッセンスをふりかけてあげましょうか」
美紀「…え?何、エッセンスって?」
咲子「豪ちゃんが、来てますよ」

美紀「えええー!?どこッ?気がつかなかった!一応、客席はチェックしたのに!」
咲子「5ステージ終る寸前に、入って来たんですよ、どうやら。
   さっきトイレに行ったとき、豪ちゃんが楽屋に入るとこ見たんです」
美紀「ホント?見間違いじゃない?」
咲子「無いです。あれは間違いなく豪ちゃんでした」
美紀「なるほどね!今日ナルセのシャツの胸元ボタンが、いつもより
   多めに外されてるのは、そのためなのか!」
咲子「イヤイヤイヤ。そこへ結びつけるのはどうかと思いますけど。
   だって、ナルセ、豪ちゃんが来てるの多分知らないし…」

美紀「いいじゃん、そんなの。今日のナルセ、いつもよりセクシー度が増してたわよ。
   悩ましげな鎖骨がチラつく、大胆な胸元。
   そして、踊る度にチラチラみえる、陶器のような薄い白い胸…
   黒のシルクシャツからのぞく肌の、薔薇の蕾のような突起が見えそうで見えない、
   ギリギリのライン…」
咲子「ストップ、ストップ。どこまでがっつり見てるんですか。
   薔薇の蕾のような突起って 腐女子な表現やめてクダサイ。恥かしいです」
美紀「ああ!豪がいるから、あのショットに間違いないわよ!
    新年早々、ナイスサービスショット!!」
咲子「でましたね。新年初妄想ビジョンが」
美紀「うるさい。でも珍しいわね。シックスティーズ辞めてから、豪をこの店で見るの
   二回目くらいな気がする。今日、クラブアルーシャは、休んだのかな?変だわ」
咲子「クラブアルーシャって、豪ちゃんの新しいトコのお店でしたっけ?」

美紀「そうよ。今日、豪が休みなら、アルーシャ行かなくて良かった!」
咲子「でも豪ちゃんでも、他所の店に行ったりするんですね。ま、元いた店は別か。
   他店のバンドメンバーが、シックスティーズのフロアで普通に踊ってることって
   たまにありますけど、豪ちゃんはどこでも見たことないですよね。
   そういえば、セブンレイジィは、少しメンバー変化してるんですよね。
   辞めたナオトの代わりに入ったベースのマックって、ちょっとカッコイイと思いません?
   豪ちゃんに少し雰囲気似てる気が…美形の豪ちゃんて感じ?」

美紀「ちょっと!失礼ね。豪は美形じゃないけど、男前です!
   似てないわよ、マックなんて。ちょっと斜に構えて無愛想なだけじゃない!
   まぁ案外…ナルセを狙ってそうだけども。でもナルセは豪のものだもんね」
咲子「マックがナルセにですか?ソレちょっとアリですね。でもリンがいるし…
   やだ、もしリンが辞めることになったら、どうしよう…耐えられません私」
美紀「私の豪だって辞めたんだから、それはあり得ると思うわよ」

咲子「やだー!意地悪言わないでクダサイよ、美紀さんたら!
   だいたい美紀さん、あっちの店で、豪ちゃんと美形ヴォーカルがヤバイって
   盛り上がってたじゃないですか。だったらナルセと豪ちゃんの関係は終わりでしょ?
   なのに豪ちゃん二股設定で行くんですか?そんな節操ないキャラだったんですか?」
美紀「あれはアッチでの話なの。そんなのシックスティーズに持ち込まないで!」
咲子「はい?意味わかりません」

美紀「いいの、ナルセは寂しすぎて、豪がいない穴を他のメンバーで埋めてるのよ。
   やだ、穴だって。つまり浮気。ええと、マック、アキラ、リン、ゲスト、エトセトラ…ね」
咲子「ナルセ、物凄く節操ないキャラ設定になってますけど。
   いつの間に二人とも、そんなキャラになってたんですか?」
美紀「じゃあ、ナルセを狙ってマックとアキラの、ガチ対決にしましょう」
咲子「どんだけホモホモしいんですか。
   美紀さん、いくらなんでもそれは無理があるし、
   豪ちゃんがいない今、いい加減もうリンに譲ってくれてもいいじゃないですか?
   ナルセにはリンがいるんだから、浮気しませんよ。リン一途なんです。
   第一ナルセは、そんな尻軽じゃないですよ」
美紀「何よ。咲子だって、がっつり妄想ビジョンじゃないの」

咲子「まぁそれはね。ときに最近、私の視界にアキラが入ってきてたんですよね。
   アキラって、ステージ入るとき、よくリンに接近してないですか?
   とはいっても、今はアキラいませんけど。なんかずっと休みなんですよ。どうしたのかな」
美紀「リンは誰とも仲良しじゃないの。でもアキラとリンてのも、面白いわね」
咲子「駄目ですよ!リンはナルセです!」
美紀「はい?今、アキラがどうのと言ってたじゃないの」
咲子「えっと、それはですね。トライアングルですよ。アキラが横恋慕なんです」
美紀「誰に?ナルセに?リンに?」
咲子「うーん、それはまだ考えてません」
美紀「つまんないの。次までに考えといてよ」
咲子「ウイ」

美紀「そういえば、このとこジュウリも休みがちだよね。今日はいるけど。
   かわりにアキラが歌うこと多くなったと思ったら、このとこはアキラ休みっぱなしだし。
   二人とも、セブンレイジィ抜けるのかな。最近ジュウリの歌も良くなってきたのに
   ちょっと惜しいね。女はどうでも良かったけど、歌が良くなってくると、ちょっと見方変わるよね」
咲子「ですね。天使の歌声は、わりと癒しでしたよね。でもこうなると、
   ヘミも歌うことがあるかもしれませんね」
美紀「ヘミ?サックスの?ヘミの歌なんて、聴いたことあったっけ?」
咲子「それがぁ…実は『伝説』があるんですよ。知ってます?」
美紀「えっ何それ?咲子って案外、情報通よね。どこで仕入れてくるの?」
咲子「まぁ美紀さんが、豪ちゃんの店でうっとりしてるしている間、
   ここにひとりで通ってますからね。年配の常連さんお友達も、増えたりするわけですよ」
美紀「ふーん。咲子はフレンドリーだもんね」

咲子「何でもヘミが、とある店で『ベティ・デイビス・アイズ』を歌ったって噂ですよ」
美紀「そうなの?何か凄いじゃないソレ。とある店ってヘミは他の店にも出てるの?」
咲子「それがですね、ステージじゃなくて、ピアノマンていうちょっと我々では
   敷居の高いお店で、ピアノの前に来て、いきなり歌ったらしいですよ。
   そのとき店に居た客はラッキーで、セクシーなローレライの歌声を聴いたとかって、
   それはそれは噂になって、今や他方のクラブ伝説になってるらしいです」
美紀「なんか美女のヘミだから似合いそうなエピソードね。
   ピアノ・マンて言ったら、前にキーボードをやってたレイジの店だよね」
咲子「アレ、そんなこと知ってるんですか、美紀さん」
美紀「まぁね。私はシックスティーズ長いからね。店長からそんな話を
   聞いたことがあるのよ」

咲子「へぇ。何でも、そのオーナーのレイジさんて人が、ピアノを弾いたらしいですよ」
美紀「あーそうなんだ。うん、彼はちょっと良かったんだよね〜男前だったし、
   軽薄そうなのにちょっとヤバイ感じが匂う、危険な大人の男ってタイプだったのよ。
   懐かしいなぁ。ピアノ・マンには、一回だけ上司に連れてって貰ったことあるのよ」
咲子「ほえ!そうなんですか!」
美紀「ナルセとケンカップルっぽく仲が良かったから、実は初めナルセの相手は
   レイジで妄想してたんだよねぇ、私」
咲子「えっ!それは初耳ですね」

美紀「まーね。でもあんまりレイジは長く居なかったのよ。
   豪ともステージには立ってたとは思うんだけど、一緒のイメージがないの。
   豪は初期メンバーだし、居たはずなんだけどな…」
咲子「美紀さんそれって、ナルセの相手がレイジって人で、他は見えてなかったんじゃ」
美紀「…それは云わないで。でも今は、豪なの。豪なのよ。レイジは過去の男なのよ」
咲子「それでいけば、もう豪ちゃんいないわけだし、他の人に振り替え可能なんじゃ
   ないんですか?豪ちゃんだって過去の男でしょ。過去実績あるじゃないですか」
美紀「過去実績って何よそれ。そりゃ、いいとは思うけどね。バンド内でないと意味ないし。
   でも、急に豪がやって、きて今日みたいなことがあると、
   やっぱ少し期待しちゃうじゃないの。ごくたまにっていうのが、ツボ?」

咲子「豪ちゃん、楽屋に何の用なんでしょうね。まだ出てこないけど」
美紀「色々、妄想が湧くわね♪新年久々のナルセとの語らい♪いやん♪」
咲子「あ。でも美紀さん、とても残念なお知らせです。
   ナルセ、まだ楽屋返ってないですね。…あそこに居ます。
   あの超常連の、山本のオジサマのテーブルで喋ってます」

美紀「ええッ!!ダメじゃん!」

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