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場所/ 閉店後のピアノ・マン
登場人物/レイジ  豪



夢を見たんだ 物凄く久しぶりに 懐かしい奴にあった夢だ
 あまりに懐かしかったから 夢が覚めたら そいつに会いに行こう
そうだ 会いに行けばいいんだ そう思って
 最高に期待に満ちた 良い気持ちで 夢から覚める
 すると不思議に凄く目覚めがいい 心地良くて幸せな気分だ
 そして起きて暫くしてから うっかりしていた致命的な間違いに 気が付くんだ

 なんだ アイツはもう死んでいて この世に居ないんだった―――


「…レイジ」

「なに?」

「涙」

「…あっ」

「白々しい」
「演技じゃない 仕方ないだろ 自然に出ちまうんだ
 情緒不安定なんだ 俺は 冷たいことを言わずに 労わってくれ」
「嘘をつけ 他の奴の前では 絶対泣かないだろ あんた」
「俺さまの涙を拝めるなんて滅多に無いんだから 感謝しな」
「なぜ感謝しなきゃならん まったく迷惑だ」
「あーあ おまえは本当に冷たい木枯らしみたいな男だよな 豪
 情熱的なナルセ君とは 大違いだよ」
「ナルセの前で泣くなよ この卑怯者」
「どうして? ナルセは俺が泣いて寂しいと ちゃんとベッドに呼んで 慰めてくれるのよ?
 荒野の誰かと違って 優しいんだよな」
「あいつは 情に脆いんだ」

「違うね 単に尻軽なだけさ セックスに目がない淫乱なんだ」
「そうかもしれないがな でもナルセの前で ワザと泣くな」
「おや 認めるんだな お♪ その苦味ばしったイヤーな顔 いいねぇ」

「用がないなら もう帰れよ あんたの店は 今日はもう閉店なんだろ
 俺を携帯で呼び出したりするな 帰宅の途中だったんだ」
「イヤ 用はあるんだ ただ 豪の前では涙腺が 自然に緩んじまうんだよな
 多分あれだな おまえが昔の俺にそっくりだからだな 似たもの同士で親近感が沸く」
「俺があんたと? やめてくれ 冗談じゃない」
「いやいや それが似てるんだな そのうっとーしいまでに
 陰気でクソ真面目で頑固なとことか 若い頃の融通の利かない俺に もうそっくりさん
 だからさ 悩む豪ちゃんを放っておけないんだよなぁ 俺は」
「似てるだと? 俺があんたくらいの年齢になったら そこまで
 軽薄で 嘘つきで 極悪な 年中イカれたインチキ男になれるのか」
「素晴らしい批評をありがとうよ まぁ劇的な出来事でも起これば
 おまえだって 俺のような深い男に なれなくは無いと思うよ?」
「なりたくはない」

「一言で返すなよ ツレないなぁ」
「俺に悩みがあるとすれば 何故あんたは ナルセに纏わりつくんだってことだけだ」
「好きだからに決まってる」
「本気なのか 本気でナルセに…」
「いやだねこの男は ったく 誤解しちゃいけねぇよ?
 俺はね ナルセと豪が 二人が好きなのさ 自分みたいに 愛してるの」
「ナルセに固執したって 無駄だ」
「人の話を聞いてねぇのかい 豪ちゃんよ 二人一緒だよ
 おまえとナルセは 二個イチなんだよ 1セットだ」

「じゃあ言い直そう 何故 俺とナルセに 固執する」
「おまえらを見てると 歯がゆいからさ すぐ別れただの より戻したのって
 どうにもハラハラするじゃねぇか おまえときたら
 バンドまで出て行っておいて 戻ることはしないくせに
 なのにまたナルセとくっついて そいでまた地味に 不穏な空気の繰り返しだ
 おまえは 分かりやすいよ いつも不機嫌そうなキャラでも
 それがナルセに関してるかどうかは すぐ分かる
 今度も どうせナルセの浮気だろ? 凝りねぇなぁ本当」

「あんたに関係ないだろう」
「あるね それがあるのさ
 おまえらは 俺が二度と経験できない可能性を 秘めてるからな
 だから そう易々と別れて貰っちゃ困るんだ」
「自分と重ね合わせているなら いい迷惑だ 俺たちを見てたって
 そんなものは無駄だ 俺たちはレイジじゃない」
「そうさ 俺はおまえらじゃない 無駄さ でも あんな不誠実なナルセに
 いつまでも 振り回されて喰らいついてる おまえが俺は愛しいのさ」

「俺たちは あんたに何も与えることはできない」
「ヒナじゃあるまいし 俺が餌でもぴーぴー待ってるってのか?
 何を言ってんだ そうじゃない 俺はおまえらを見てると
 安心するんだよ 俺が二度とできない 感動的なラブシーンを
 おまえらが 代わりにやってくれる それを見てるだけでいい
 そう思うくらいはいいだろう ハッピーエンドで 頼みたいんだよ」

「だからいつも あんたはナルセの浮気の後始末に
 大層な世話を焼いてくれてるって わけなのか」
「そうさ 余計なお世話か?」

「余計なお世話だな あんたがナルセを甘やかすから あいつは 反省しない」
「俺が放っておけば ナルセが反省すると おまえ思うのか?」
「…思わない だがレイジは―――  
 あんたは あんた自身の人生をやり直すべきだろうと 俺は思う」
「ほう 非常に正しいお答えだな 先生 その先は?」
「過去に 捕らわれていても 不幸なだけだ 言いたくはないが
 でも もう忘れるべきだ あんたの 昔の相棒のことは」
「おまえ ナルセといったん別れてた時のことを思い出せよ 忘れられたか?
 忘れることができたか? もしもナルセが死んだら どうだ? そんなこと耐え難いだろ?」

「…ナルセは 現実生きてる だからやり直すことだって 無理じゃない
 無理じゃないなら 今考える必要はない あんたには 残酷だとは思うが」
「そうさ 俺には無理なんだよ 豪 何故だか分かるだろ?」
「これ以上 酷いことを 言わす気なのか俺に レイジ」
「じゃあ言わなくていいだろ いいか ナルセを見失うなよ
 あいつのことを 愛してるならな
 どんなことがあったって ナルセを許せ 手放すな 傍にいろ
 手放して 後悔したって遅いんだよ 必ず捕まえておけ
 おまえが居ない時は そう 俺が見張っててやる そういう同盟を結びたいんだ」 
「その辺が余計だというんだ まったく信用ならないぜ レイジ」
「あっはっはっ」
「俺は本気で言ってるんだ」

「あいにく俺も 本気で言ってるんだぜ 豪
 頼むよ 豪 頼むから夢から覚めた俺を がっかりさせないでくれ
 夢の続きは おまえらが やってくれよ
 俺は 起きても いつまでも幸せな気分でいたいんだ
 目覚めて 泣くしかないなんて うんざりだ 嫌なんだ
 絶望なんて もういらないんだ」
「レイジ  まだ新しい人生を送ることだって出来る レイジなら――」
「俺ならできる? でもそれは禁句というルールなんだ 知らないのか?
 ナルセは 守るぜ 節操はないけど それは守る そんなことは 一切言わない」
「あいつは 自分本位だからだ」

「なるほど 豪は俺の正しい幸せを考えて 手助けしてくれるのか」
「そういう わけじゃない 他人の幸せまで 考えられる余裕なんか 俺にはない」
「正直でよろしい 大事なのは自分が幸せになることだよ それだけ考えてろ
 他人まで 幸せになって欲しいなんざ 身の程知らずの 驕りだよ」
「そういうレイジこそ驕りじゃないのか 他人の恋愛に思い切り口を挟んでおいて」
「俺の場合は エゴだろ きみたちに幸せになって欲しいのは 勝手な俺のエゴだ」
「レイジの言ってることは おかしい 意味が繋がらない 辻褄があってない」
「おかしいのは おまえの方さ 俺の言うことを 始めから筋立ってると
 素直に聞いてることが おかしいんだよ な?」
「あんたらしい 言い草だな」

「ちゃんと分かってるんなら いいじゃないか
 いいか 豪 例えばおまえが真剣に取り組んでたパズルの絵は 絶対完成しない
 絵はあってるのに最後のピースの形が合わないか 出来上がった絵は別の絵なんだよ
 潔く出来たものを受け止めて もっと気楽になれよ 全部デタラメだ でも信じてればいい
 完璧な筋の夢と同じさ 覚めてみれば まったく辻褄の合わない
 理不尽なことだらけでも 夢の中ではスムーズだ 何の疑問も持たずに 信じてたんだ
 騙されない奴が 本当は一番 傲慢なんだぜ 思いやりがない」
「もう いい あんたと議論したって 無駄な話だ」
「豪の短所で長所は すぐ諦めるとこだな でもそれは 案外いい癖だ
 幸せについて論じたって キリがないことだからな
 早めに放り投げるのが 精神衛生上は もっとも適してる 正気な人間のすることだ
 だから 幸せ話は 酔っ払った人間たちが もっとも好むのさ」

「俺は あんたが嫌いだよ レイジ」 

「そう? ナルセは俺が好きだと思うぜ いっそ俺に乗り換えてくれないかな」
「あんたには 渡さない」
「言ってくれるね 渡さないと きたもんだ」
「それが 望みなんだろう?」
「そうだよ 豪 判ってきたか?
 俺の夢の続きを 二人でやって欲しいんだよ 俺を 現実で裏切らないでくれ 頼むから」
「あんたの為に 俺はナルセと付き合ってるんじゃない」
「もっともだ その通りだよ 豪」

「ナルセが 浮気して おかしな奴らとトラブラないよう 俺が居ない時
 常に見張って あいつを守るというなら あんたのイカレた話に
 多少は 加担したっていい」

「やっと話せるようになったじゃないか」
「俺も少しぐらいは 融通が利くようになったんだ ナルセのおかげでな」
「苦労するよな おまえ 自分の生き方も曲げなきゃ あいつと付き合えないんだから
 任せておけ 伊達に闇の用心棒じゃないからな ちゃんとそれは保障できる
 おまえのナルセは 守ってみせるさ 確実に 冗談抜きでな」
「あんたの闇が 冗談ごとじゃないのは 知ってるよ」

「知ってる? 知ってるか 相当な覚悟をして 俺は堕ちたんだ 大昔にな
 なのに最悪の相棒を つかまされた 失敗だったのさ 結局
 でも始めから判ってた気もする 分かってたんだ 自業自得だ
 いつだって 不誠実な相棒を 自由にして放っておけば そうなるんだ
 勝手にどこかへ行っちまう危惧はある 不誠実でも誠実でも 結果は同じだ
 消えていなくなったら はいそれまでだ そういうことだよ」
「それは あんたの言い分だ 死んだ人間は 何も語れない」
「あん♪ 豪ちゃんて 本当に硬派だなぁ 惚れちゃいソウ☆」

「・・・あんたと居ると 本当に気分が悪い」

「吐くなら 外にしろよ
 ここは俺の 大事な店だからな 汚したり暴れる人間は お断りだ
 おやすみ 不誠実な恋人を愛してやまない 不幸な豪
 おまえの夢見が良い事を 祈ってるぜ」




photo/真琴 さま (Arabian Light)