エメラルドの秘宝

登場人物  エトー+昭子


「エトーさんて 大体が悪人ですよね」

「はぁ? オレが悪人に見えるか?」

「充分見えます ちょい悪オヤジって感じです」
「ちょいワル? 何だそれ?」
「ちょっと不良のオヤジ 少年時代の不良が抜けない大人気ない中高年のことです」
「ふうん そう まぁオレは それに近いかも知れねぇな」
「お気に召しませんでした? でもイケてるオヤジのことも指しますよ」
「別におまえにイケてるとか言われても 全然嬉しかないぜ オレ」
「ええそうでしょうよ どうせ可愛い男の子とかがいいんでしょ」
「カワイイ男か いいねぇ♪ こっちに帰ってからご無沙汰だ」

「ああイヤだわ ヘンタイなんだからもう 色事もいい加減にしてくださいよ」
「おまえこそ あの埃の被った事務所は辞めて 結婚でもしたらどうだ 昭子
 おまえが辞めたら あそこを引き払えるんだがなオレは
 彼氏はいないのか いい年してオレの世話なんかやいてる場合か?
 オールドミスってな 今は言わないのだっけ?」
「セクハラ!それセクハラです!しかも判読不能文字化け語!
 私がいなかったら困るくせに エトーさんだって決まったヒトいないんでしょ?
 それとも どっかに決まった恋人がいるんですか?」

「うん?今いないなぁ 忙しいからなぁ 出張現地の愛人は掻き分けるホドいるんだがな」
「まるっきり仕事しないで 色遊びしていそうですよね あなたって人は
 仕事先って砂漠か秘境ばっかりじゃないですか そんなところにいい子います?」
「いる それがいるのさ 擦れてない原石がゴロゴロな 男も女も転がり放題
 これだからトレジャーハンターはやめられませんなぁ〜てな感じだ は!」
「最悪… チョイ悪オヤジじゃなくて えろオヤジですね このロクデナシ」
「ろくでなしは判読不明象形文字じゃないのか?」
「ろくでなしはロクデナシです 過去も未来も現在も」
「オレはろくでなしのエロオヤジでいいさ その通りだからな」
「エトーさん見た目カッコいいのに もったいないですよ
 もっと色っぽいセリフでも吐いていれば 日本でも充分モテますよ
 何だか随分ワイルドな感じになっちゃって 驚きましたよもう
 綺麗でお頭のない女たちが 快楽目当てにまだマックスで押しかける感じ」
「別に日本でモテても仕方がない 殆ど海外なんだからな」 

「そういえば 今回の帰国って すごく久々ですよね
 …本当はもう帰ってこないんじゃないかと 思ってましたけどね」
「待っててくれたんじゃないのか オレを 昭子」
「貴方のそういう勝手でズルイとこが嫌いです 他に待ってる人はいないんですか 日本で」
「うん?…そうだなぁ いるにはいるかな ちょっとうざいのが一人 過去形かもしれんがな」
「ニヤけてますよ」
「なぁ昭子 オレが狙った獲物 そのままだって言ったら信じるか?」
「…そのままって?」

「そうだな 仕留めたのに 手を出せずに そのまま放置って感じだ」
「それって ナニしなかったっていう 即物的な意味でもあります?」
「そう このオレがそういうこと出来なかったの 笑うとこだぜココ?
 我ながら驚愕だ セックスなんか誰とでもできると思ってたのにな
 ひと噛み 食いつくだけで怖気づいちまった
 ああいうのは…あれだけだったな… あいつが落ちるとは本当に思わなかったんだ
 長く待ち過ぎた獲物を手中にして困惑した あいつには逃げ道がないようなやり方をしたんだが
 いざ手元に置いたらどうしても手が出せなかった から…オレはそこから逃げちまったんだ
 まぁ繋がりは一応残したけどな 未練ってやつだな」
「エトーさんらしくないですね …ちょっと不機嫌になってもいい?」

「何か気に障ったか?」
「妬けるから」
「現地妻のことで 散々煽っておいて今更 妬くなよ?」
「掻き分けるほどいる現地妻なんて 全然敵じゃないですよ
 貴方に特別の相手がいる方が 妬けるでしょう 当たり前なことです」
「特別… に見えたかな 俺達は」
「誰のことを言ってるんですか? それは私の知ってる人?」
「そう 知ってるどころか オレの大事な相棒だったんだから」

「やだ まさか」

「やだ そのまさかだ」

「嘘でしょう? 絶対あなた達って毎日やってると思ってたわ 動物みたいに」
「お品がいいお言葉ですなぁ お嬢さん」
「あ すいません だって…それで すっかり飽きて別れたのだと思ってました」
「飽きてない 飽きるどころか…だ 触れて引火するのが恐かったのさ」
「どうして今更 そんなことをいうんですか?」
「さぁな オレもヤキが回ったな こんなことをトウのたった事務員の女の子にコクってんだからなァ
 先が短いのかもしれない オレが死んだら 今のことを伝えてくれよ あいつにな
 死んでもずっと愛してると 伝えてくれ 昭子」

「イヤです そんな凍りつくよなセリフは 自分で言ってください」
「冷たいよ 昭子 オレと昭子の清い仲だろう?
 キスさえもさせて貰えなかったのは おまえだけなんだぜ」
「あなたに節操がないから 私は自分だけが特別でいたかったんです
 それなのに… 何だか裏切られた感じだわ 信じられない…やだもう
 こんなことなら 盗品売買の片棒担ぎなんか するんじゃなかった」
「そういうなよ 昭子だけが頼りだ 今度の商品も見事な交渉力で 色をつけて貰ってくれ
 おまえは交渉の天才だからな 昭子だけが おれにとって特別な女だ それでいいだろ」
「本当に調子がいいんだからエトーさんは 砂漠で干からびて死ねばいいんだわ」
「まぁ 遠くはないだろうさ こんな仕事を続けていたらな」

「エトーさん…もういい加減に危ないことは 辞めたらどう 年齢には勝てないですよ」
「だからな クライアントに連絡を取ってくれ
 ホイ 携帯♪ 急げよ あっちはジリジリと お待ちかねだ
 このエメラルドの秘宝は正真正銘 命がけだったんだぜ?
 コーカサスの秘境で死にかけたんだ 今度こそは死ぬかと思ったな」

「…この」

「ろくでなし だろ? 愛してるぜ 昭子
 いいか 結婚もしないで辞めないなら とっととオレの仕事をしろ さぁ働け!」



2に続く

photo/真琴 さま
 (Arabian Light


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